17 国作り1
国作り編開始しました。
相変わらずのむちゃくちゃぶりです。
気長にみてください。
国作り1始動
雅雄は奥義書の配置を完了した。
そして、この世界の自分とのかかわりに大いに疑問を持った。
奥義書を配置する前の世界を覗いてみようと考える。
奥義書の配布に関して間違いなく自分が絡んでいるのだ。
だが歴史を調べてもどこにも痕跡がない。
そもそも歴史がおかしいのだ。
わずかな年月なのに伝説になっていた。
おまけに国の成り立ちがあいまいになっている。
この世界があまりに不自然なのだ。
その調査を兼ねてさらに過去に飛ぶことを決意した。
出現した場所は白国だった。
歴史を探れる一番古い歴史。
それが、白国建国当時だ。
これ以上過去は理由は不明だが飛べなかった。
何がおきているのか、この目で見てみようという思いだ。
不自然なのは王家が突然歴史に現れたように見えることだ。
普通なら大きな豪族や地主が台頭していくはずなのだ。
そして膨大な血が流れる。
それが普通のはずだった。
現れた場所は深い森の中だ。
まだ迷いの森との境界は定められていない。
森の境界をしっかり定めたのは王家だと解る。
そのまま森を歩き平野部にようやく顔を出す。
そこに男が一人倒れていた。
腹には刀傷をうけ、腕に矢を刺している。
はっきりいえば死に掛けだ。
雅雄は事情を聞くため治療を開始する。
そして催眠術を使い情報を仕入れた。
俺の名前は城田 耕平18歳、地主の長男に産まれた。
地主といっても300軒ほどの村の主だ。
それでもこの国の中では大きい方に属する団体だ。
各村の代表が生き残る戦いに参加する最低資格は5世帯もありうる。
父親に村を任され残っているうちに父親は戦死した。
そして裏切り者が出た。
自分の力がこんなに無力かと感傷に嘆く余裕も無かった。
それより命からがら屋敷から抜け出す。
後に残るのは、背後の燃え盛る屋敷だ。
その炎が俺を巻き込んでもなんら不思議ではなかった。
現実に爺が必死に逃がしてくれた。
その爺は耕平を逃がしたところで裏切り者に突入していった。
それでも腹に一太刀、腕に矢を受ける。
意識があるのが不思議なぐらいだ。
かろうじて追跡者を撒いて、逃げ込んだ森で意識をうしなった。
目の前に天使かと思う顔が浮かんでいる。
ふっと、またたきをして良く見ると老人だった。
幻でも見たのかもしれない。
『天国は現世に似てるな』と思い起き上がる。
「丈夫だな、もう起きるなんて」
老人が声をかけてくる。
無意識に誰何していた。
「お前は、誰だ」
老人は飄々とした声で
「雅雄だ。白野 雅雄という。医者だ」
どうやら助けてくれたようだ。
医者というのがよく判らないが治療を専門にする者のようだ。
常識では、治療は治療師というものがお祈りして直すもの。
平民は自分で手当てをするからその方面の専門家なのだろう。
名前を名乗って来たのだからこちらも返す。
「俺は、城田耕平もとこのあたりの地主の息子だ」
正直に名乗る。
たとえ突き出されても抵抗する気力はない。
「耕平でいいか。聞きたいのだがこの国はどうなってる」
どうやら突き出す気は無い様だ。
「これから始まる地獄の時代だ」
俺は予感していた。
これから始まる地獄の勝ち抜き戦。
弱いものを吸収して、強いものに滅ぼされていく。
最後に残るものは血の川に浮かぶ勝利者の椅子。
そして血の川から延びる血まみれの手が、その勝利者の体を這い回る。
おぞましい内乱と骨肉の争いだ。
もっとも早々に裏切られて脱落した身ではえらそうなことは言えない。
だが予想は単純で簡単だ。
血が乾くまで続く地獄、暗いイメージが続く。
「そうか、で、お前はどうしたい」
少し間をおいた後感じの後に質問が来た。
少なくとも敗残のものにかける言葉とは思えない。
敗残したものにあるのは急な死か、緩慢な死だ。
捕まって殺されるか、生き延びて他国で死ぬしかない。
できれば昔のように笑いたいと思う。
そんな夢を見る。
「生き延びて、平和な世にしたいな。そんなのは不可能だけどもな」
俺は子供のころの理想論を自嘲を込めて語る。
こんな一兵卒に劣る立場で言えるのは冗談ぐらいなものだ。
すでに、大地に火は点けられた。
地上を焼き尽くすまでその火は収まらないのが判る。
「そうか、大変だな。協力しようか?」
俺は耳を疑った。
こんな冗談を真に受ける阿呆がいるとは!
笑うしかなかった。
おそらく冗談に、冗談で返したのだろう。
ふざけて返事する。
「ああ、頼むよ。俺一人にはきつそうだ」
その老人は一言。
「正直だな」
奥義書を設置した年とあまりに近い年に驚いた。
太陽の黒点位置と森の木の大きさから判断した。
狼一郎と初めて出会った時より二十年しか遡っていない。
それでいて、森のシステムではこれ以上過去には遡れないのだ。
あの時、もうすでに国としては安定期の様相を示していた。
これでは、まともに国を作っていては間に合わない。
奥義書を置いた一番早いのは猪拳で18年後だった。
あの時、すでにあの国は安定していたことを思い出す。
この国ではなく別の国だ。
世界中が別の国として同時に安定?
そんなことは偶然には絶対にありえないことだった。
短期間に国を治めるには恨みの少ない国作りしかない。
逆らう者を滅ぼしていたのでは恨みから長引くのは必然だからだ。
無血創立しかなかった。
それが出来るのは圧倒的力しかない。
人間同士の力では知れている。
そこまでの力の差は人智では無理だ。
雅雄はこの男に託してみようと考える。
心の中を探って、まだ黒く染まっていないことを確認した。
悪く言うなら世間知らずだ。
ここで会ったのも縁と思い利用することにした。
戦うのは一人で十分だ。
いやそれでなければ人間に被害が出る。
それでは無血占領は不可能だった。
そして、力の在るものが占領地を守らなければならない。
さすがにそこまで一人では無理だ。
占領地は広がっていく。
さらに謀反が起こるのは当然だった。
それを、鎮める同等の力の者がいる。
一人に任せれば暴走する。
だから、数人で力をあわせるように仕掛けておく。
五人ぐらいが適当だろう。
それ以上では、意思統一が難しくなる。
それと、単独でも負けないぐらいにはしておくことは大事だ。
方針はこんなところだった。
耕平の記憶では白国の町の数は50ぐらいだ。
300人ほど必要になる。
とりあえず治安維持のための兵を手に入れなければ話が始まらない。
近くの兵がいそうな場所を目指した。
耕平を追い詰めた敵のところだ。
老人は立ち上がると歩き出す。
耕平はついて行く事にした。
目の前の老人が、耕平の為に何かしようとしている。
それを信じなくては話にならない。
まさか敵陣に向かうとは考えていなかった。
そして歩き始めて気づいた。
斬られた腹も矢をかわすため受けた腕も治っていることに。
傷跡さえ残っていない?
ここまでしてもらったのだ。
死ぬまで付き合うしかないと決意する。
ただ、目の前の老人が戯れの夢を実現に動き出したなんて思ってもいなかった。
雅雄という老人はなぜか敵の本拠地に向かっていた。
『やはり俺を売るのか』と真剣に危惧する。
でも俺の顔は、この村では知られてないはずだ。
『協力しよう』と言ってくれた男を信用せずに逃げたのでは信義が崩れる。
一度は死んだ身!
信用した相手が裏切るのならそこまでだ。
あの男はなんの力もないときに、『手伝おう』と言ってくれた。
度胸を決めてついて行くしかなかった。
村の入り口には屈強な兵隊が数人固めている。
雅雄は相手にもせず堂々と通り抜けていく。
耕平はだまってついていく。
兵隊たちは耕平達に見向きもしない。
そして、出入りの商人や住民の持ち物を調べていた。
何がなんだかわからないまま、村長の屋敷に入っていく。
ここでもまるでこちらが見えないような感じだ。
ついに屋敷の玄関の前に立つ。
扉を開け放つ雅雄だった。
「城田耕平、敵本拠地を襲いにきた。抵抗は無駄だ、さっさと降参しろ」
さすがの耕平も、あきれるしかなかった。
冗談か?
『夢でも見てるのか』と思う。
しかし、相手はたちまち臨戦状態だ。
雅雄はそのまま、広間まで侵入していく。
おもしろいのは、相手も戸惑っているのか攻撃してこない。
そのまま評議している大広間まで侵入した。
ぞろぞろと大勢を引き連れて、20人ほどが評議している場に侵入する。
耕平に一早く反応した男が居た。
城田の家で働いていた元の家老だった男だ。
「耕平、どうしてここに。死んだはずじゃなかったのか?」
雅雄がそちらを、ちらっと見る。
ただ見ただけで正面の男に顔を向ける。
「この村は制圧した。以後耕平の持ち物とする」
耕平には冗談にしか聞こえない。
『この雅雄という者は狂っている』としか思えなかった。
みんなが一斉に立ち上がろうとしたとき。
「動くな!、動けば死ぬぞ」
雅雄が部屋中に響く大声をだす。
一言で全員が動きを止めた。
信じられないほど強い胆力だ。
全員が気を呑まれた。
そして、静かな部屋でゆっくりと要件を言う。
「首筋に手を当ててみろ」
怪訝な顔で数人が手を当てる。
それぞれの手にうっすらと血がついているのに気付く。
その疑問は全員に広がる。
村長の頭領も同じだ。
雅雄が宣言する。
「ここにいる者の命は、耕平殿がすでに頂いたと同じだ。生きていられるのは
耕平殿の慈悲だ。降伏するように」
でもそんなことを聞く気もない者が数人立ち上がった。
立ち上がった直後、全員もがき苦しむ。
それを見ていた残りのものに逆らう気は一気にうせた。
頭領も同じだ。
目の前にいるのは化け物と気付いた。
逆らう気力は一気に消えたようだ。
耕平は夢でも見てるようだった。
周りのものが立ち上がった直後、もがき苦しんでいる。
敵の頭領も頭をたれて忠誠を誓っていた。
耕平は雅雄に勧められて上座につく。
だが苦しんでいる者達が可愛そうなので雅雄に声をかける。
「雅雄、なんとかならないのか」
雅雄はにっこり笑い、
「主がそうおっしゃるならと」
そう言うと、一人一人のところにいき首に手を当てていく。
あれほど苦しんでいたものたちがたちまち静かになっていく。
周りのものは恐怖の目でそれを見ている。
「逆らったのは今回だけは大目に見る。次回は命をいただく。すでに諸君には
暗示がかけてあるから。耕平に忠誠を誓うものはいいが逆らえば死ぬだけだ。
耕平殿の本意ではないので殺したくない。逃げるなら好きにしろ。だが耕平
はこの国を征圧するから国外まで逃げろ。従うなら諸君が新国の大臣だ。好
きなほうを選べ」
国外追放か死か恭順の三択、選択肢があって無いような宣言だ。
この国を征圧すると言う。
その宣言に、だれも動かなかった。
これだけの力、胆力、行動性があれば出来るかもしれない!
そんな夢を全員が思う。
鞭だけではない。
飴も用意していた。
いままで恐怖しかなかった者達に、大臣の役がくるかもしれない。
そういう欲が生まれたときだった。
(耕平という男は悪魔と契約したのに違いない。だがこの悪魔ならこの国を征
服してくれる!)
そんな、期待が高まる。
目の前の光景に耕平は夢が実現するかもしれないと期待する。
白国統一だ!
そのために、すこしでも力の強いものにつきたい。
だから家老が裏切ったのもわかる。
そのことを、恨みにも思っていない。
わが父に同調していただけだ。
父の死後は自分に正直に生きた。
予想外の結果になっただけだ。
もう一度仲間になるというなら信用するだけのこと。
敗残兵が一転して勝利者になった顛末は告げられなかった。
領内に主が変ったことを住民に告げられる。
混乱は無かったが疑問はあるようだ。
金持ちの領民の中にはいち早くお祝いを述べに来る者もいた。
時勢を見るのがうまい人間だ。
耕平はすべての面会人を断る。
しかし金が少ないのも現実なので貢物だけ受け取る。
これから始まる戦いは長いものになる。
財産はいくらあっても困るものではないからだ。
雅雄は手持ちの兵を集めて訓練する。
練兵場に集められた兵はなんの冗談かと考えた。
いくら豪傑でも4人と同時に戦って勝てるものではない。
そして、目の前の男は300人を相手に戦おうと言っている。
『武器を自由に使っても良い』と言う条件だ。
雅雄は筆を一本持つだけだ。
条件は額に印を書かれたら負けて戦死扱い。
兵士達の上官は評議室でやられた男だった。
兵士の間では金でも受け取ったのかと思われ悪評だ。
一度も戦わずに降参した軟弱な指導者など必要ない。
これから始まるのは弱肉強食の世界、財産で収まる世界ではない!
必要なら裏切ってもっと条件のいい領主のところに行くだけだった。
そんな気概のものばかりだ。
それなのに筆一本で征圧しようという。
いきり立つものは一斉に襲い掛かった。
相手は一人なので、『下手すれば押しつぶしてしまうかもしれない』と心配す
るほどだ。
さすがに混乱している。
だがすぐに静かになった。
『もう終わったのか』と呆れ顔で残ったものは戦いの場を見る。
始まって2分も持たなかった。
大口を叩いた割りにあっけない終了。
もっとも1分もたせたのだ、さすがというべきところか?
争いが終わってぞろぞろ退場していく。
え!、退場?
よく見ると先発したメンバーの額には「死」の文字が書き込まれていた。
あれだけの攻撃をかわしながら対処していた。
男は余裕で印ではなく文字を書いている。
残されたものは相手が化け物だと思い知った。
何も考えず突撃した50名近くはやられた。
目標を見失い気が付けば回りに「死」の文字だらけだった。
突撃の速度は半端ではない。
そこに文字を書き込むのだ。
人間業ではなかった。
残ったものは一人と考えず戦のつもりで動く。
刀の壁、お互いを守る堅陣。
だが相手の男は振り回す刀を見て平然と歩いてくる。
前衛の男は混乱していた。
自分から刃物に向かってくる。
しかし男は刃物の射程に入る寸前消えた。
誰の目からも消えたのだ。
離れた位置の男が声を掛ける。
「下だ!」
声につられて下を見る。
額に筆の感触がする。
最初のように文字を書く余裕は無かったようだ。
でも筆で印をつけられたものは戦死という扱い。
退場するしかなかった。
周りのものも額を見れば同様だ。
いやしっかりみれば「可」と書き込まれていた。
同僚に額を確認してもらう。
「良」とかかれていた。
筆があたったのは瞬間に感じた。
しかし、しっかり文字を書き込まれていたのだ。
数分後には全員文字が書き込まれた。
もはや逆らう気概を持った兵士はいない。
本気なら全員頭を串刺しで殺されていたので当然だ。
書かれた文字により分けられて集められた。
老人に見えるのに、もはや誰もそれが老人だなんて思っていない。
その老人が名乗った。
「私は白野雅雄だ。耕平殿の要請でこの国を統一する」
さすがにこの一言に周りの兵は騒ぐ。
「静かに!、いくら私でも一人では無理だ」
兵の多くは静かにうなずく。
むちゃくちゃを言うわけではなさそうだ。
「諸君達に協力をお願いしたい」
あれだけ強い男が我々に頼むのだ。
まわりの者の意識が変っていくのがわかる。
「それで、頭に「死」の文字が書かれたもの」
やはり駄目な印かとあからさまに落胆している。
それを見て安堵の息を漏らしている「可」の連中。
「諸君の勇気は立派だ。ただ相手をもう少し観察する思慮を持て。そうしない
と今後の戦いにおいて死ぬことになる。私の戦いにおいて戦死は赦さない最
後まで付き合ってもらうぞ」
なんとこれからの戦いに無血の勝利を確約する。
一国の征圧戦争をどう考えるより感動が部隊を包み込んだ。
普通は我々のような兵は使い捨てだ。
それを最後まで付き合えという。
「良の文字が書かれたもの、諸君は部下4人を選び訓練に励んでくれ」
あの乱戦の中、『人物鑑定までしていたのか』と驚くばかり。
「優の者、諸君はこの部隊のまとめ役だ。脱落者が出ないよう監視してくれ」
優に選ばれた5人は喜んでいた。
次の日から信じられない特訓が待っていた。
持久走から始まり、捕縛術、格闘などだ。
およそ戦いとは関係ないことばかりやらされる。
まるで警備隊のようなことだ。
そして雅雄という老人は全員相手に苦も無く倒していく。
初めの二、三日はみんな腰を打ったり疲労で動けなかったりとさんざんだ。
だが300人を相手に平然と訓練をする老人。
そんな、化け物に畏怖よりあきれる雰囲気がただよっていた。
好き勝手が出来るのに耕平に従っていることにだ。
『こんなことしなくても自由気ままに生きられるだろう』ということだ。
これだけ強ければ誰も止められない!
十日もするとなぜかみんな楽に動けるようになっていた。
二十日もやると雅雄のかけた技に受身を取れるようになる。
それでも勝てる気は全然しない化け物だ。
戦うだけならこの老人一人でいいと思ってしまう。
まさか現実になろうとは夢にも思っていなかった。
その頃には班分けは済んで模擬戦をするようになった。
お互い鍛えられた身だ。
ほぼ互角の戦いをする。
三十日で訓練が終了。
雅雄から出陣の沙汰が出た。
次回、最初の町の攻略です。