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雅雄記  作者: いかすみ
第二章 始祖
14/43

14 始祖7前編

最後の奥義書。

予定通り渡せず思わぬ苦労。

一体誰の手に渡るのか。

3部作になってしまいました。

始祖7熊拳(前編)


警報に呼ばれてきてみればそこにいたのは子供だった。

森に迷い込んできた子供がいた。

しかも、ただの子供ではない。

すでに人間の限界を超えた気の器を持っていたからだ。

雅雄は梓を育てた経験から、人間界で一緒に育てるのは無理だと考えた。


迷い込んできた子はかえでとしか言わなかった。

まだ2歳で両親の情報は一切ない。 

迷い込んだ時間さえわからないので追跡の方法もない。

システムに確認しても沈黙だ。

なんらかの理由で今の雅雄より上の指示だった。


それが何者かは興味がある。

このシステムを作った存在?

それは、ありえなかった。

完成させたのは雅雄だからだ。

雅雄より上位の存在はない。

基本的に雅雄時間で未来ほど下位になる。

だから、巳道傑の時でも雅雄の割り込みが優先された。

もっとも、目的を果たす時間だけではあったが・・・。

そして、システムから警告が出されていた。


雅雄は過去にこの子供と接触した覚えは無い!

それなのに、システムはこの子供の情報を隠していた。

何らかの事情で、歴史を狂わせる要因にシステムが指示を受け入れたのだ。

雅雄は、そう判断する。

目の前の子供がこの世界の根幹をなす重要な子供だということだ。

そのため、雅雄は森で育てていくことにした。


子育ての合間に蠍 健吾に奥義書の他の仲間のことを教える手紙を書く。

今後の世界において奥義書継承者間の血のつながりが必要なことがわかった。

目の前の子はそれらの遺伝情報を持っていたからだ。

奥義者同士がつながりを持つ必要があった。

そのための時間と場所を考える必要がある。

それの手配を健吾に頼むつもりだった。


ついでに、梓に病院の名前を消すように指示を出す。

未来では、医院の名前に個人名を使うのが当たり前だった。

それと同じ感覚で付けた名前だ。

歴史から雅雄の名前を消しておかなければならなかった。

梓に信用してもらうため思い出などを、梓専用の気で書き込んでおく。

そして『梓が嫌いにとか避けるのではなく、次の仕事のため』と説明を書いた。

とりあえずの仕事は兄を助けるために動いたことを書き込んでおいたのは当然

だ。

梓のいる頃には気を使うものが多くなってるから用心だ。

そして健吾に手紙を託すため時間を飛ぶ。



子供を育てることに関して経験はあるので問題はなかった。

大きな気をコントロールするため武術を教える。

子供は舞踊拳をマスターして育っていく。

早々に気を使うことを覚えたので問題は無く親子として仲良く成長していく。

彼女は最初から大きな気の器を持っていた。

舞踊拳をマスターすれば体のバランスは整う。

すると、体の左右がそろい、均整のとれた美少女に成長していく。

なんとなく最初に会った桜と桜子に似ていると感じる。

あの娘達なら美少女と美女だった。


雅雄には恋愛感情はない。

ないものは育てようがない。

その欠点を補うため楓が12歳になったとき人間界に住む計画をする。

この時点では確信していた。

桜の子供だと言うことを。

桜に会ったとき封印されていた部分があった。

出産に関することだ。

完璧な封印だったので破れなかった。

だが成長した楓を見てわかった。

桜の子だ、なんらかの事情でここにきたのだ。

大事に育てるしかなかった。




赤国と紅国の国境に近い小さな村に道場を作り、熊拳と名づける。

最後の奥義書が熊拳ということもある。

しかし、それ以外に理由があった。

梓と暮らしていたときのことだ、熊野くまの 武雄たけおという男と会った。

大きな気を持っていた。

その3年前に治療していたからだ。

屋根から落ちて瀕死の子供だった。

名前を聞いた時、この子が将来の継承者だと確信した。

あのとき男は赤国に行くといっていたのだ。

それで、彼の名前の道場を開く。

最後の奥義書を彼に托そうと考えていたからだ。


このときは雅雄は苗字も変えて熊田くまだ 雅雄まさおと名乗る。

娘は熊田くまだ かえでと言う名だ。

村人全員に偽の記憶を植え付けた。

そして、出来たばかりの道場を20年前からの道場と記憶させる。

楓は生まれてからずーとここに住んでいたとする。

そのため二人はたちまちのうちに村に溶け込んでいった。

これは楓が結婚するとき問題を無くす為だ。

後は将来の婿が来るように手配するだけだった。


のんびり構えて道場を経営していく。

真剣にやっていなくても人は集まり繁盛していく。

やがて待ち人があらわれた。

雅雄の手配に武雄がやってきたのだ。

楓には将来の婿さんが来たとひやかす。

楓は武雄の雰囲気に悪くないものを感じたのか顔を赤らめて応えた。


熊拳をマスターしてもらおうと結構きびしい指導をあたえる。

そして期待に答えてぐんぐん伸びていく。

やはり、すでに器は出来ていたのでその成長も早い。

普通なら死ぬかと思うような修行も軽々とこなしていく。

楓も武雄に好意を持つようになり、すべてが順調にいくと思っていた。

道場を開いて5年目に予想外の邪魔が入った。


それは楓の美しさから来た。

道場の練習生の中に端整な顔の金持ちがいたのだ。

その男は楓に横恋慕して道場の乗っ取りに動き出した。

道場の収入は練習生の月謝だけでは賄えない。

そのため、時々練習を兼ねて仕事をしている。

大体がイベントにおける警備で、重宝されていた。


だがその金持ちはそのような仕事を全部横取りした。

さらに練習生に圧力を掛けて一人また一人とやめさせる。

道場の経営は一気に悪化していった。

雅雄にとって道場はつぶれても気にならないので問題は無い。

武雄が焦り始めたのが問題だった。

そんなとき、さらに武雄があせることが起きた。

村の行事で楓が金持ちの屋敷に呼ばれたのだ。

他の大人もいる。

他の娘も呼ばれていたので問題はなかった。



いつのまにか、『道場を存続させるため娘と金持ちが夫婦になる!』

そういう噂が広まっていた。

雅雄が知っていれば金持ちの家はつぶされてしまうような噂だ。

雅雄は目的のためなら手段を選ばない。

だが、雅雄の耳には入らなかった。

金持ちが幸運だったところだ。

訂正、巧妙だったところだ。

知らぬは、雅雄だけだった。

楓は道場の経営不振に心を痛めていたので雅雄にも相談しなかった。

雅雄にわかっていたのは楓が年を取らないことだ。

だから最初から年が離れていた方が違和感が少ないと思っていた。

気が大きいと言うのはそういうことだ。

外観を張り付けることを教えてあるので年齢差など気にもしてなかった。



武雄は、雅雄が道場のため楓を金持ちに身売りすると、そんな風に思わされた。

ただでさえ武雄は年齢差を気にしていた。

それだけに、その噂は武雄を焦らせた。

雅雄がこの話を積極的に支持していると思い込んでしまったのだ。


このような悲劇的状況では事態は以外に情熱的に動くこともある。

この場合もそれは起きた。

武雄が楓を口説いて駆け落ちしてしまう。

問題なのは雅雄に情報が入るのが遅れたことだ。

そのため雅雄はこの事態に対応出来なかった。


楓も武雄も逃げるのに必死で雅雄に連絡入れるわけが無い。

雅雄は楓に対してアクセサリーを渡していたので焦らなかった。

二人がうまくやっていてくれればと気にもしない。

探す気になればいつでも見つけられると思っていたからだ。

あとから事情を聞かされた雅雄は苦笑いしながら、その金持ちに殴り込んだ。

金持ちは和解金を山ほど積むことになったのだが、これは後日の話だ。

雅雄は二人が幸せに生きてくれれば良いと考え世界から引き上げた。





雅雄は亜空間から連続した楓の信号を受ける。

行方不明の楓がなぜ亜空間に接触したのか疑問に思い調査に動く。

連続した信号というのは定期的にシステムを使用したというものだ。

意識的に誘導しなければ出来ないことだ。

管理者の雅雄が指示しなければ使えない内容。

だが信号は微細だったので見失いその周辺で調査に動く。

肝心なところにはすでに出現している自分がいるせいで出現できなかった。

やむおえず少し前に出現する。


だからこの信号と重なったということに気づく。

生活している連続信号の方が優先されることは気付いていた。

最初の頃と違い優先順位はかなり混乱をきたしている。

判っているのは未来で確定している内容は変えられない!

起きてしまったことは変えられないということだ。


少し前に出現して、楓の消息を探すが見つからない。

アクセサリーの信号に誘導されて行った所は宝石店だ。

楓はアクセサリーを売り払っていた。

楓ほどの美人が経営する武術道場なら評判のはずなので探す。

あれほどの美人なら表に出ている限り評判になるはずなのだ。

巡回医者を続けながら調査を続ける。

実時間で7年にわたる調査でどうにか消息らしきものを掴むことが出来た。

すれ違った女の子が穏行をかけていたからだ。




町の一角でにぎわう場所、酒場だ。

冒険者、傭兵、近所の労働者の疲れを癒す場所だ。

この酒場は良心的な経営でにぎわっていた。

経営者は熊野武雄だ。

人がいるところには、生き血をすすろうとする連中もいる。

たが酒場のマスターがそういうやからを排除していた。

マスターにはきれいな奥さんがいた。

しかし、10年前にはやり病で亡くしている。

薬を集めるための旅の途中立ち寄った町で、はやり病で死んだ。

ただその後の混乱で死体の確認さえできなかった。


現在は娘と二人で店の経営をおこなっていた。

娘の名前は紅葉もみじ、18歳だ。

子供のときかかった熱病のため顔に醜いあとがついていた。

父親はいろいろな医者にみてもらったがついに治すことはできなかった。

楓も自分の力でなんとか治そうとした。

怪我とは違うので思うように治らなかった。

娘はその容姿を気にしてあまり店の表には顔を出さない。

そのかわり裏方で料理など巧みにこなした。

そのおかげもあって料理の味でも評判の店だった。


店では雇われた近所の主婦などが給仕にまわっていた。

娘が表に出ることはない。

しかし、近所では娘のことは評判だ。

マスターの奥さんは美人で気立てが良かった。

当然、その娘はやはり美人だろうというものだ。

そして表にでないことから噂は尾ひれがついた。

マスターが隠しているなどだ。

その評判で、ますますお店には出られなかった。

娘は隠れるように買い物にいく。

そして、だれもそのお店の娘とは気づかない。

もっとも理由は別にあったのだが。

 


ある日、昼過ぎ、裏通りの一角に老人が座っていた。

通りを通る人にはその老人は風景に溶け込んでいた。

だれも見向きもしなかった。

そして、ぼんやりと人の流れを見ている。

誰かを探していた。

「おじいさん、どこか悪いの」

紅葉が声をかけた。

「べつに、ただなんとなく通りをみていただけだけど、人を探していたんだ。

 お嬢ちゃんにはわしが見えるのかね」

「あたりまえじゃないの。そこに居る人が見えないわけないじゃない。それと

 もあなたは幽霊なの」

「勿論、人間じゃよ。めずらしいな、だれもわしに関心を持とうとしないのに」

まさか相手が穏行を掛けているとは思わなかったのだ。

そして探していた相手が自分とは思わない紅葉だ。

「なんとなく、目に入ったのよ、あなたもどこか人に目立たないようにしてる

 のが」

「あなたも、というのはお嬢ちゃんも同じということかな」

紅葉は無意識に穏行を使っていた。

ただ完全じゃなかったので、意識している人には見えていた。

「そうよ」

「お嬢ちゃんのような美人がめずらしいね」

「まあ、おじいさんは皮肉までいうのね。わたしが美人なわけないじゃない」

「どうして」

本当に判らないように首をかしげていた。

「だってこのあざが見えないの」

「見えるけど、それがなにかまずいのかな」

「まずいもなにも、それがすべてじゃない」

「よくわからんな? 顔の皮膚の良し悪しだけで美人になるのかな」

雅雄には美人というのは骨、筋肉などの総合的なものがすべてだ。

だから皮膚の痣など無いに等しい。

残りの皮膚の肌理の情報さえあれば子供に遺伝するものでもない痣など関係ない。

「それだけじゃないけど、最低条件の一つではあるわ」

「それじゃなんで直さないの。見たところ治療をしたあとが見られないけど」

「どこの医者も治せないと匙を投げたわ」

「そうなのか」

「そうよお父様もいろいろなところに声をかけてくれたのだけど」

「ここは田舎だからかな」

白国の医療技術ならなんとか出来ると考えていた。

だがここは紅国だった。


「都会なら直るというの」

「いや都会でも無理だろうな。深部まで入っているからな・・・」

都会の医者と言うより、白国の専門集団なら治せる。

雅雄はその後の言葉を飲み込んだ。

「じゃあ無理じゃない。期待させないでよ」

「すまんそれほど気にしてるとは思わなかったのでな」

「この痣のせいで人前に出られないのに」

「そんなものなのか。痣はお嬢ちゃんのせいじゃないだろう」

「そうだけど、これを見たとき化け物と言った子もいたのよ」

「それは子供だからだろう」

雅雄は考える。

おそらくその子も痣を見ていなかったのだろう。

子供同士の軽い気持ちで『可愛い娘の気を引こうと意地悪しただけ』と思った。


「子供だからよ、正直な感想を言っただけよ」

「本当にそうかな?」

「おじいさんになにがわかるのよ」

「長く生きてるとな、人の言葉の裏が見えてくるものだよ」

「言葉の裏というのは」

「ときにはお嬢ちゃんの気を引きたいため、きつい言葉をいうこともあるさ」

「嘘!」

「お嬢ちゃんはすごい美人だろう」

「なにをいってるの」

「それをいったのは男の子だろう」

「そうよ。それがどうしたの」

「男の子は気に入った女の子の気を引くために、意地悪をすることもあるよ」

「でもそれならなぜ顔の痣をいうの」

「かんたんなこと。その子にとって顔の痣は気にならなかったからさ」

「そんなことが・・・」

「好きになればあばたもえくぼということわざがあるだろう」

「私はそれ以来顔をかくしていたのに」

「その子はあやまりにきたのだろう」

「ええ、来たけどゆるしてやらなかったわ」

「おやおや、かわいそうに」

「その後、あったことはないわ。それでどんな人を探してるの」

「別に、もう見つけたから大丈夫」

「そうなの、良かったわね」

まさか自分とは思っていない紅葉だった。


「まあ、おやじさんならその子のことフォローしておいてくれるさ」

「おじいさんはお父さんを知ってるの」

「まあね、良く知ってるよ。お嬢ちゃんはどこにすんでるの」

「秘密にしてるわけじゃないけど、答えたくないわ」

「楓にそっくりだからね、お嬢ちゃんは綺麗になるよ」

「嘘、かあさんほどきれいじゃないわ。それにかあさんを知ってるの」

「むかし、楓と武雄と私はよく飲んだものさ」

「お母さんさんとも知り合いだったの」

「もちろんさ、おとうさんは強いだろ」

「うん、いまでも底なしよ」

「ははは、酒じゃなく武術だよ」

「えっ、おとうさんは武術をやってたの?」

「もちろんさ、道場の花の楓をさらっていったのだから」

「それじゃ、かあさんも武術をやってたの」

「なんだ、知らなかったのか」

「家じゃそんな話もしなかったし、第一使ってるところを見たこと無いもの」

「そうか、表だってつかわなかったのか。それで」

納得した雅雄だった。


雅雄は武術家を探して苦労していた。

まさか武術を離れて生きていると思わなかったのだ。

「どういう意味なの」

「ところでおとうさんに会わせてくれないか」

「いいけど、いまはまだベッドの中よ」

「かまわないさ、わたしとの仲だ、すこし待たせてもらうよ」

「それでよければどうぞ」

「あと聞きたいことがあるのだけど」

「なあに」

「楓が死んだのはいつの話」

この子は楓が死んだと思っている。

しかし、信号は間違いなくこの時点近くまで続いていた。

楓が生きているのは事実だ。

あとは矛盾がでないようにするしかなかった。


この子にはかわいそうだが、ここまでは死んでいるとするしかない。

「10年前の今頃よ、もうすぐ命日だから」

「楓の死体をお父さんは確認したのかい?」

それが重要だった。

「それが、見つからなかったの」

雅雄はやはりと確信する。

雅雄がさらうから行方不明なのだ。

だが死に掛けなのは事実だ。

「そうか、それはよかった」

「よくないわよ、遺髪さえ取れなかったのだから!」

「まあまあ、気にすることは無いよすぐに忘れるから」

「忘れるものですか!」

「それじゃ、親父さんに合わせてくれるかい」

「お父さんの知り合いじゃなかったら絶対ゆるさないんだから」

そういって案内して老人をお店に連れて行き裏口から入れた。




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