13 始祖6
始祖6猪拳
雅雄が今度出てきた場所は湖が近くの別荘地だった。
この場所で猪拳の奥義者を探すことになる。
ここには、金持ちの多くの家が進出している地だ。
その程度の情報は仕入れていた。
雅雄はさらに情報を得るため近くの建物に寄って行く。
猪 里美、18歳、彼女の家は代々猟師の家だ。
彼女の家は村でも裕福な家の生まれになる。
特に猪狩りの家で有名だった。
そんな彼女の家に、いつの間にか尊敬を込めて猪の苗字をつけていた。
『猪の・・・・』という風にだ。
屋号のようなものだ。
それほど有名な猟師の家柄だった。
だがそんな家に生まれた宿命か彼女は子供の頃、猟に連れていかれる。
そして、猪の暴走に遭った。
その時、大怪我をした。
おかげで、下半身麻痺で動けなくなってしまう。
本来なら死んでもおかしくない怪我だ。
そのとき、たまたま森の奥に薬草を採りにきていた治療師がいた。
その治療師がいなければ間違いなく死んでいただろう。
その治療師は、他の者の怪我もきれいに治してくれた。
だが、里美の怪我だけは「現時点ではこれ以上治せない」という。
そう言うとそのまま去っていった。
両親は必死に引き止めて治してもらうように頼んでいた。
しかし、『治療に子供のほうが耐えられないので無理だ』と言われたのだ。
その後、村に帰った両親は里美を連れて各地の治療師を尋ねた。
結果は『事故のケースで命があっただけ救いだ』と言われる。
『治すのは不可能で一生このままです』と宣告をうけただけだ。
それからの両親は里美に使った治療費を稼ぐため苦労をした。
そして、家を空けることが多くなった。
大きく稼ぐため、獲物を追いかけ長い猟に出かける。
猟生活において、動けない里美は足手まといになるだけだ。
車椅子に身をおき一人置いていかれる立場に何度涙したことか。
今、いるのは自宅だ。
借金返済のため、村の屋敷は売り払った。
里美のためだけに、伝統のある屋敷は売り払ってしまう。
そして、環境の良いこの場所に居を構えていた。
里美の怪我で両親の住む場所まで奪ったことに責任を痛感する。
親戚の者が近くの別荘で侍女をやっていた。
狩りで両親のいない里美だ。
そのため、夜は里美の面倒を見てくれる。
もっとも、本人は近くに宿が出来たようなもので、お互い様だ。
朝、親戚の女の子が身の回りを見てくれた。
そのあと、里美は一人家の留守番をする。
そんな生活が八歳のころからずーと続いていた。
親戚の娘は外の世界のことを話してくれる。
そして、楽しそうに生きていた。
そんな従姉妹にあこがれながら消極的な自分がいやになることも多かった。
日常のことは車椅子でほとんどのことが出来る。
足が動かないので手の力だけはついていた。
なにをやるのでも手でやらなければいけないからだ。
八歳から鍛えられた腕は女の身では信じられないほど強くなっていた。
だが家にいるのがほとんどの里美だ。
欠けているのは人との付き合いだった。
十二歳のころ遊びに来ていた近所の男の子と仲良くなる。
従姉妹の紹介だ。
しかし、男の家族が里美のことを知ると離れていった。
いや離された。
その両親にとって里美は息子にふさわしくないと判断したのだ。
それを知らされた里美は一晩中泣き明かした。
そんなことがあってから里美は人と付き合うことを避けるようになる。
そして人付き合いが極端に少なくなっていった。
今では、一月に出会うのは両親と親戚の女の子だけだ。
たまに客がくれば部屋に隠れて出なかった。
それは、十八歳になっても変化はない。
里美がいたのは自宅の庭だった。
親戚の子が手に入れてくれた本のような恋。
そんなものにあこがれていた。
自分に当てはめればあきらめるしかない世界。
そんなことを思いながら庭の手入れをして時間を潰していた。
そんなとき、男は庭に入ってきた。
「こんにちは」
男は、里美を見ると挨拶をした。
若い男なら警戒するが老人だったので安心して挨拶を返す。
「こんにちは、どうされました」
「こちらを通ったら人影を見かけたので」
「道に迷ったのですか」
「そうだけど、お嬢さん足でも悪いのですか」
突然足のことを言われる。
普通なら気づいても避けるのにと思いながら、
「子供の頃、怪我したの」
「治してあげるから、頼みがある」
信じられないことをさらっと言う。
「なおせるの?、どの治療師もだめだといったのに」
父親は怪我した後、金を掛けて手を尽くしたがだめだった。
そのときの借金がもとで今無理をしているのだ。
「調べたけど、大丈夫」
いつの間に調べたのか解らないが男の言う言葉にすがりたかった。
この足さえ治れば親戚の娘の様に働けるのだ。
そして恋もできる。
でも期待して失望も数え切れないほど味わった身だ。
駄目でもともとという考えもあった。
「本当ですか。治ったらなんでもやります、お願いします」
交換条件はなんであるか考えてはいなかった。
このままでは救われないのだ。
この身を捧げろといわれても不満はなかった。
どうせ人並みの幸せはないのだから。
ただ、若い娘の体を見たいだけの変態の可能性もある。
すこし警戒もしていた。
「治ってからでいいけど、武術師範をやってもらうよ」
あまりの意外な申し出に耳を疑う。
「武術師範、わたしが?」
改めて確認をとる。
武術師範?
動けない身で何を教えるというのか。
いや治るのだから動けるようになる。
それにしても強くもない私が何を教えるのか。
頭の中は混乱していく。
「簡単だよ、大丈夫できるよ」
「でも」
「まず、足を治そうか」
まるで『手でも洗おうか』という軽さだ。
体を治すような重々しい雰囲気など微塵もない。
家の中に連れていかれる。
普段なら警戒して絶対に人を入れない。
それなのに、そのときは頭が混乱して返事も出来なかった。
その間にどんどん進めていかれる。
若い男だったら抵抗したかも知れない。
さすがに、その意味が判るからだ。
この老人はその警戒を軽々と突き抜けてきた。
でもこの老人にはなんとなく見覚えもあった。
あの死にそうなとき助けてくれた治療師と似ていた。
どことなく雰囲気が似ているのだ。
あのとき十分老人だった治療師だ。
いまさら現役でいるわけが無い。
まして目の前の老人はあのときの治療師より若いのだから別人だ。
でも瞳を見ているとなにもかも信じたくなる光をみせられた。
家の中に入ると、ベッドに寝かせられる。
年寄りといえ家族以外の男の人に抱かれる。
両親の居ないときにだ。
そして、ベッドに寝かせられた。
抱かれていることを意識し始めて心臓は跳ね上がる。
いまさらながら、ふしだらなまねに恥ずかしさがこみ上げていた。
心臓は早鐘のように轟いている。
「大丈夫、落ち着いて」
里美の心臓の鼓動を知ってるがごとく声を掛けてくる。
誰もいない家で無防備に体をさらしているのだ。
落ち着けといわれても出来るものではない。
混乱しているうちにここまで進んでいた。
そんな老人がやさしく手を伸ばして顔を撫ぜた。
ひんやりした手がのぼせた頭を冷やしてくれる。
老人とは思えない肌触りでいつのまにかその感触になじんでいた。
夢に見ていた恋人の手を髣髴する優しい触りだった。
そしてその手は滑るように首筋に伸びていく。
自然な手つきに警戒感もない。
もしいきなり伸ばされたら悲鳴をあげていただろう。
男に首筋に手を当てられる。
少し強く抑えられたとき、首から下の感覚が消えたように感じた。
「気にしなくていいからね」
終始声を掛けてくれている。
そしてしばらくその状態を続けた後、突然男が声を掛けた。
「そうか、まずいな?」
なにがまずいのか?
「治らないの?」
不安なので声をかける。
「いや、手違いがあってね。治せるのだけど、下準備が必要なんだ」
下準備?
なんのことかわからない。
「お嬢さんの体、少し特別の処置が必要なんだ」
特別の処置?
なんだろう、不安が持ち上がってくる。
動けない里美に好き勝手にできるのだ。
なにを言い出すのか不安だった。
「それはなんですか」
おそるおそる声を掛ける。
昔、詐欺まがいの治療師もいた。
条件と値段をどんどん上げていくのだ。
結局、詐欺師だった。
そのため両親は今、苦労している。
このおじいさんも同じかと疑う。
詐欺師以上に悪の可能性もあった。
「いいかい、驚かないでほしい。この姿は変装なんだ」
変装?
どう見ても不自然さのない自然な姿だ。
どこが変装なのか疑問が持ち上がる。
「変装していても私も狩人の娘です。見破れないはずはない。おじいさんが変
装だなんて信じない」
お爺さんはにっこり笑う。
「人間の変装じゃないんだ。気による視覚変換だからお嬢さんがそう思ってみ
ているだけなんだ。でも今から治療するとその視覚変換が取れてしまう」
「視覚変換?、わたしがそういう風に見てるだけなの、それが取れるというこ
とは化け物なの?」
老人は苦笑いをする。
「そういうものではない。ただ素性を見せるとまずいけどお嬢さん絶対に
無視してくれるかい。そうじゃないなら目隠ししてもらうけど」
なんとなく歯切れが悪い言い方だ。
いくらなんでも目隠しして男の人と二人だけは怖い。
なにをされるか解らないから不安だ。
想像は膨らんでいく。
初めて会った男の人の前で目隠しする度胸はない。
それならまだ化け物を見た方がいい。
「目隠しはやめて、何があっても驚かないからそのままで」
すこし興奮気味に叫んでいた。
老人は落ち着いた笑いでなだめてくれた。
「覚悟はいいね。驚かないでよ」
そう言って治療を再開する。
里美は目隠しした方が良かったと後悔することになる。
それはずーと後の別れるときのことだ。
でも今は老人のやることから目を離せない。
それだけ不安だった。
目の前に突然見たことも無い均整のとれた若者が出現した。
お話に出てくる王子様のような顔だ。
老人が若者に変ったのだ、驚きに声もでない。
里美はそんな男の人に見つめられてるのかと思うと恥じ入る。
そして、その人は里美の下半身に何かしているのだ。
さっきまでの不安は完全に消えていた。
そして、頭の中は恥ずかしさに沸騰寸前だ。
治療前にお風呂でも入ればよかったと考えた。
『今日はまだもらしてないはず』だとか、くだらないことが頭の中を駆け巡る。
話の世界にある『恋に落ちる女の人の気持ち』がよくわかった。
頭の中は混乱したまま過ぎていく。
三十分ぐらいそうしてただろうか。
夢を見ているような時間だった。
「終わったよ」
そう言って、再び首に手を当てられる。
始まるときにやったの同じ所だ。
何が終わったのか判らない?
検査でもしていたのとだろうか?
あの若者は消えてまたおじいさんの姿に戻っていた。
少しがっかりだ。
見ているだけでも眼福だったからだ。
そして、下半身の感覚が徐々に戻ってくる。
もし恥ずかしいことでもされてたらと不安になる。
その半面、あの若者ならなにをされても良かったと思う意識もあった。
だが男は終始、顔を見せてくれていたのだ。
いたずらされた気配はない。
一体何をしたのだろうと首をかしげる。
今までの医者は、服を脱がした。
そしてあちこちつまんで、結構恥ずかしい目にあっていた。
しかし、この老人は服に触っていなかった感じなのだ。
もちろん麻痺している上に麻酔のようなものを掛けられていた。
だからわかるものではない。
少なくとも上半身は違和感がなかった。
足の先を見るため上半身を起こそうと動く。
無意識に手をついて膝を曲げて体を起こす。
膝を動かしていた。
子供の頃の癖だ。
このときいつも現実を知らされる。
だが膝は動いた。
そして何も無かったように体は動き上体は起き上がった。
驚かなくてはいけないはずなのだ。
うれしいはずなのだ。
しかし、『そんなことはありえない!』というのは知っていた。
いままでこれと同じ夢は山ほど見てきたのだ。
これも夢だと思っていた。
夢はいつもこのあとベッドから降りたとき、底なしの沼に引き込まれる悪夢に
代わる。
そして恐る恐るベッド脇の床に足をつく。
足先から冷たい感触が返ってくる。
そこで初めてこれが現実だとわかった。
足が動く!
冷たい床がわかる!
感激だった。
夢ではないと解るとうれしさがこみ上げてきた。
思わず立ち上がって、飛び跳ねていた。
『治った!』
感激のあまり声は出てこなかった。
かわりに涙が出ていた。
ひとしきり感激で騒いでいたようだ。
「落ち着いたかい」
老人は少し離れて見物していた。
落ち着いたところで老人が示した場所に気づいた。
お風呂場だった。
里美は示された意味がわかった。
今までは感覚が無かったが、下半身の濡れた布の感覚!
おむつを当てていたのだ。
急に恥ずかしさがこみ上げてくる。
老人は知っていたようだ。
治療すれば必ずもらすはめになることを。
お風呂の外から慰めてくれていた。
里美は老人の優しさを感じる。
水しか浴びなかったけど自分ひとりで入った風呂。
感激だった。
そして、足をゆっくり見る。
もっと細くがりがりだったはずだ!
昨日見たのだから、間違いない。
そこにあったのは親戚の子が見せたような綺麗な足だ。
まるで魔法だった。
お風呂から上がってようやく落ち着く。
「それじゃ、名前を教えてくれるかい」
そこで初めてまだ名前さえ名乗っていないことを思い出す。
「猪里美といいます」
老人を真っ直ぐ見つめ答える。
あの夢のような顔が思い出された。
心の中に老人の存在が大きくなっていく。
顔より老人の優しさに触れたせいだ。
「白野雅雄という、これから頑張ってもらうよ」
まさかこんなに簡単に治ると思っていなかった。
軽い気持ちで引き受けた内容だ。
改めて考えるほどに無理だと思える。
私が武術師範なんて!
だが目の前の雅雄は里美を見つめていた。
その目を見ていると体から力が湧いてくる。
こうして里美の武術師範としての人生が始まった。
夕方、身の回りを見に来た従兄弟は雅雄がいることにびっくり。
雅雄は里美に懇願されて客間にいたからだ。
そこに着替えに入ってきた従姉妹と鉢合わせした。
直後に歩いてきた里美にもっと驚いていた。
その後、帰って来た両親は奇跡に驚く。
そして、里美が武術師範になることにさらに驚くことに。
しかし、助けてくれた人に、交換条件として言われていた。
それに従うしかなかった。
この先何の楽しみもない人生を送ると思われた娘が治ったのだ。
治療してくれた治療師の交換条件がそれなら認めるしかない。
逆に法外な治療費を請求されなくて救われた方だった。
これ以上借金が増えるのは厳しかったからだ。
こうして、両親公認の里美の武者修行がはじまった。
初めは動けない里美が武術をやるということに半信半疑の両親。
半月もすると娘の強さに驚くばかりだ。
一ヶ月もすると、近隣に里美に敵うものはいなかった。
そして道場を開設する。
ここで雅雄師匠から猪拳奥義書を里美に渡された。
奥義書を渡すと雅雄は去ろうとする。
里美はお願いして引き止めた。
理由があったからだ。
そして、二度目もお願いして引きとめた。
三度目別れ話を言われたとき、里美は自分が恋をしているのを気づく。
『別れたくない! ついて行きたい!』と縋って泣いていた。
自分が小説の主人公のように振舞っていることに驚く。
読んでいたときには馬鹿じゃないかと笑っていたのだ。
現実はあまくない。
手術前に言われた意味がようやくわかったのだ。
あの顔と目の前の老人は一致していた。
知らなければ気づかなかった。
しかし、あの顔を思い出してしまう。
そして、終始優しく扱ってくれたことが思い出される。
雅雄を見れば間違いなくあの若者なのだ。
だが雅雄は里美に目もくれず去っていった。
あのやさしい雅雄が信じられない態度だ。
見捨てられたと思う心境だった。
里美を絶望が支配していた。
その後、里美は両親の勧めで結婚する。
しかし、雅雄のことを忘れることはなかった。
雅雄は里美の治療を当たる前に気づいた。
体を気で調べたとき、過去に治療を受けていることを!
そのため気の器が異状に大きくなっていた。
子供の治療するとき気をつけないといけないことだ。
副作用として気の器が大きくなるのだ。
おそらく前に治療した何者かは、承知だったのだろう。
(おそらく未来の自分だ)
それでも治さなくてはいけなかった。
生死にかかわるときだ。
未来の自分なら、間違いなくやっている。
そしてそれ以上大きくしたくなかったから中途半端にやめた。
もし治療を続けていたら、この子は化け物扱いになっていただろう。
そのまま治療すれば余った気を吸収した器は確実反応してしまう。
そうなれば老化の停滞、能力の覚醒など人間ではなくなる。
それを防ぐためには一緒にいなくてはいけない。
その時間がなかったのだろう。
そうなれば、小さな子なら悲劇が待っている。
いやこれは最初に見かけたときわかっていたことだ。
だから声を掛けたのだ。
治療しかけて中断したときも桜のときと同じだ。
そのまま治療をすれば一時的に肉体は同化する。
そうなれば、こちらの視覚変換の障壁を突破する。
目の前でいきなり姿を変えると人間は驚くのは経験で知っていた。
梓の時の経験はしたくなかった。
それならあらかじめ事情を話さなければと下準備にかかった。
だが雅雄はまだ気づいていない。
雅雄自身の顔は人間の標準にくらべ圧倒的に良いことを!
そして、無意識にやっている優しさは毒ということを!
あらかじめ警告されていても一目惚れするに十分の素材だった。
別れ際、雅雄はやはり目隠しをしておくのだったと反省する。
じつはそういうことではないのだが気づいていない。
その辺の感情という物を知らないからだ。
力が付いた里美にはもう暗示もきかない。
後は里美自身が立ち直るのを期待するのみだった。
そして、適当なとき迎えにこなければならないことも覚悟していた。
人として生き抜いた後、死ぬまで付合うしかない。
それが治療した責任だ。
別れた後、雅雄は里美の事故現場にジャンプしようとした。
だが出来なかった。
理由はすぐにわかる。
同一空間に別の体が存在しているのだ。
里美を助けたのはこれから遥か先の自分なのだった。
いままで、最初に会った人物を奥義書の受取人にしていた。
蛇拳の巳道傑だけは助けただけだ。
しかし、これから機会があるごとに手助けをしなくてはいけない。
どうやら出現にあわせて人を配置している未来の自分がいる。
奥義書を渡す人物まで設定されている印象だった。
出会ったのは偶然だが、それに合わせて未来の雅雄がフォローしていた。
そして、話をしていくうちに判ったことはいずれも死んでいる人物だった。
いや本来死んでいる人物だったことが判ってきた。
そして治療しているため、常人にはない気の器をみんな持っていた。
だから雅雄は大きな誤解をしていた。
この世界のものはみんな気の器を持っているものだと。
例外とばかり会っていたのだ。
奥義書を配布するに当たって出会った人は覚えていないだけだ。
みんな自分と遭っている。
名前さえ選ばれていた。
いったいどれぐらい過去に介入しているのか?
想像できないほど自分はこの世界に入り込んでいることを痛感した。
でもそれが面倒とは考えていない自分がいる。
そのことに驚いていた。
雅雄は出来るだけこの世界に入り込まないようにしようと考える。
だが皮肉なもので亜空間の警報は新たな森への侵入者を告げていた。