12 始祖5
始祖5蛇拳
巳道 傑が拳法をならったのは子供のころだ。
村に来ていた治療師が教えてくれたものだった。
傑の親は狩の最中、事故で死んだ。
本来ならそのとき親と一緒に死んでいたはずなのだ。
そのとき治療してくれた治療師が凄腕だったという。
『母親の話では絶対に死んだと思った』と言っていた。
それが3日後には歩いていたのだから『奇跡だ』というのだ。
治療してくれた治療師はそれからもときどき村に来てくれていた。
その治療師が拳法を教えてくれたのだ。
その後、荒れていた傑の国は急速に安定していった。
ある王が建国したのだ。
他の国に追随して黄国と名乗った。
中央の政治・経済は急速に安定していく。
だが、傑の村は相変わらずの辺境だった。
傑は母が育ててくれた。
母は近所の仕立てをやりながら細々と暮らす。
そんな母を尊敬していた。
そして、父親の武勇を誇りに思う傑だ。
母親のことを悪く言われると、よく喧嘩をした。
特に母親が傑に言えない仕事もしていたのを言われると激しかった。
傑にもわかっていたのだ。
傑を食べさせるため母が苦労していたのを。
そんな母を尊敬すれこそ軽蔑する奴等は我慢できなかった。
子供の頃は喧嘩に強く同世代の相手はいなかった。
だが大きくなるにつれて小柄な傑は喧嘩には勝てなくなっていく。
そのとき、たまたま村に来ていた治療師が教えてくれた。
世の中には戦うための拳法というものがあるということを。
傑は拳法というものに憧れ勉強を始める。
そのころまだ拳法というものは一般には存在していなかった。
世間の傭兵たちは剣を適当に振り回して戦っていた。
傑もそんな傭兵を憧れを持って見ていた。
そして借りた剣を使おうとしたのだが、体が小さいのでうまく使えなかった。
そのとき、それを見ていた治療師が言ったのだ。
『小柄なら小柄な体を使えばいいのではないか』と教えてくれた。
地を這うような歩き方で相手の死角から攻撃する拳法を教えられる。
それをマスターしてから傑が小柄なことで馬鹿にする大人は少なくなった。
誉められると不思議なものだ。
大きくなったら、この拳法を極めてみようという気になっていた。
そしていつの間にか地を這う拳法、蛇拳が形となる。
はっきりいえば、それはまだ弱くて話にならない。
傑が子供だったので大人は本気ではなかった。
その油断が勝利に繋がっていただけだ。
だが本気同士の戦いでは、勝てなかった。
そのうち、傭兵の中には走り回る独特の拳法が流行る。
そうなれば傑の我流の拳法では太刀打ちできなかった。
なにが足らないか研究しているときに、その男はあらわれた。
男は雅雄とだけ名乗った。
その男はなんとなく助けてくれた治療師と雰囲気が似ていた。
そして蛇拳の弱点を一言で言い切った。
『足で動くから駄目だ』と。
その言葉をヒントに改良する。
手も背中も使い転がるように動き回り、離れたところから攻撃を行う礫。
それを組み合わせた珍妙な拳法、蛇拳は完成した。
男は蛇拳奥義書を渡していなくなる。
傑はその奥義書を研究してどんどん強くなっていった。
拳法の防御は立って正対するのがほとんどだ。
そのため腰より上の防御は固い。
その反面、腰より下の攻撃に対しては防御より回避が主流になるのが普通だ。
蛇拳は低位置からの連続攻撃が主流の拳法だった。
かわしたところを再度攻撃していく。
特に下半身は人間の弱点が多い。
・・玉、ひざ、すね、足首など一撃が決まればおしまいだ。
もう相手は動けても戦力にならない。
こうして蛇拳の完成度は高くなっていく。
傑と蛇拳の名前が黄国に爆発的に広がったのはある事件がきっかけだった。
黄国に不穏な空気が流れていた。
大臣によるクーデター計画だ。
最初の頃、協力的だった大臣が王の地位を望んだ。
別荘にて避暑をしていた王に側近がその情報を知らせた。
そのとき、王の行動は早かった。
単身逃げ出したのだ。
側近は王が逃げた後、いかにも王がまだいるような行動をとる。
そして、監視の目をごまかし続けた。
だが、監視以外に別荘は取り囲まれていたのだ。
大臣が雇った傭兵にだ。
王はその一団と遭遇してしまう。
そして、逃げ回っているとき傑と出会う。
王は追い詰められて『もうだめだ』と思ったとき、傑が現れたのだ。
傑の目から見たら?
山賊のようなものが男を追い詰めてるように見えた。
『奇襲を掛ければ助けられるかも』と考える。
そして、崖の上から戦いの場に飛び込んだ。
相手は5人。
この時点で知らなかったのだが、傭兵は5人単位で4組雇われていた。
飛び降りる途中で礫を放ち二人を無力化する。
殺す気は無いので、医者に教えられていた人体の坪のような弱点をつく。
しびれて動けなくなるだけだ。
突然現れた援軍に驚く傭兵たち。
その間に、もう一人を抜き手で無力化する。
師匠になってくれた男が教えてくれた無力化の技だ。
それまでの急所の蹴り上げに比べはるかにスマートな技だった。
威力はどちらともいえないのだが・・・・・
男ならなおさらのこと。
剣を振る傭兵にしても、いきなり3人が倒されたことに警戒を強める。
暗くて様子がはっきりわからないことが不安をあおる。
傭兵は、仲間の安否は無視して引き上げにかかった。
増援の数がわからないので本来なら正解だ。
まさか一人で3人が無力化されたとは思わなかったのだ。
助けられた王は傑の正体がわからないので名乗ることはしなかった。
王とばれては、相手がどう動くか判らないからだ。
ただでさえ信用していた大臣の裏切りだ。
もう誰が味方なのか判らない。
王という身分を失くしかけている立場だ。
下手すれば、懸賞金目当てで目の前の男が裏切る可能性の方が大きかった。
傑は男にどうしたいかだけ聞く。
王である男は『王城まで行きたい』と答えた。
傑は男の正体を詮索しないまま軽く引き受けた。
倒れている3人の男に止めの技を仕掛ける。
止めと言っても殺すわけではない。
間単に目覚めさせないようにするだけだ。
男達に仲間がいると判断したからだ。
ここに倒しておけば少なくとも意識が戻るまで足止めできる。
もし、無視して追跡を掛けられても少なくとも介抱のため人数を残すからだ。
殺してしまえばそれまでだ。
その瞬間から復讐の鬼となった一団が追跡してくるのを恐れた。
傑は男を促して山道を急ぐ。
しかし、男は想像以上に動けなかった。
ここまでで体力を使い果たしていたからだ。
仕方なく、傑は男を背負うと足場の良い道路を動いた。
逃げ出した傭兵は仲間の傭兵5人を連れて襲われた場所に戻る。
殺されたと思った3人は気絶していただけだ。
そのことに驚く。
そして、自分達の敵は大臣が言っていたものより遥かに強いと覚悟を決めた。
あの一瞬に殺さず無力化するような者達だ。
この時点でまさか相手が一人とは思わなかった。
仲間の生存を確認した援軍の傭兵隊長は追跡に移る。
一時的な仲間ではある。
もと、戦場を共にした仲間だった。
『倒された』と聞いて復讐を考えていたぐらいだ。
しかし、命は別状無いという話に安心した。
それより無力化するだけの相手に興味を引かれる。
いままでにない集団だ。
それだけの男達なら急いで追いかけないと手遅れになる。
仲間を集めていては逃げられると思ったのだ。
残された庸兵隊長は残った部下一人に指示を出す。
伝言をもたせ、別のところで警戒している仲間を呼んだ。
自分は倒れている仲間の介抱をする。
傑の予想通り手ごわいはずの傭兵隊長の一人は足止めを受けていた。
連絡をまかされた者はすぐに仲間のところにいく。
この辺は打ち合わせで、守備範囲を決めていたからだ。
手柄を横取りされるのは癪だ。
しかし、失敗したときはもっと不名誉なので当然だった。
庸兵隊長は傷を確認する。
別に怪我をしてるように見えないのに倒されている。
その手際のよさに感心するだけだ。
それと共にこんな強敵とやりあえる幸運に身震いがする。
この興奮は赤国制圧戦争で雅雄という隊長と一緒に戦った時以来だ!
もっとも、末端の兵士としてだが・・・・・
戦場を求めて、この国に移ってきた価値があった。
仕事を請けたときは単なる予防線だった。
万が一逃げ出したテロの犯人を逃がさないための予備軍だった。
安い仕事だが簡単な仕事ということで引き受けた。
何よりも、統一されたこの国を再び乱そうという犯人が許せなかった。
そして、同様の仲間が20人も雇われていたのに驚く。
顔見知りも多かった。
10人いれば十分だと思いながら戦争が終結しつつある世界で傭兵の仕事は少
なかった。
そのために、乗った仕事だ。
20人を集めて、どこかの山賊でも退治するのかと思ったぐらい。
だがあの手際の良い襲撃などを見ればそれが決して楽な仕事ではなかった。
目の前の3人に命があっただけでも幸運かもしれない。
相手が一人と思い油断しすぎたのだ。
そうして、反省を含めて時間が過ぎていく。
連絡を受けた仲間が揃う。
ようやく目が覚めた3人も含めて簡単な打ち合わせで追跡に移った。
今は時間の方が惜しいからだ。
逃げられては元も子もなかった。
傑は急いで逃げようとする。
しかし、王の方は息が上がって動けない。
ときどき背負いながら動くのだが、連続では無理だ。
傑の体力が尽きれば、この男も殺されるからだ。
そのため、できるだけ男を歩かせた。
やはりすぐに追いついてくる山賊五人だ。
傑は戦う覚悟をきめた。
空は明るくなりかけている。
もう奇襲は通用しない。
王を木陰に隠して休ませる。
傑は道の真ん中に立ち礫を構えた。
五人はあらかじめ礫を投げられることを教えられている。
当然つぶてを警戒しながら近づく。
自分達の攻撃圏にはまだ遠いところでいきなり傑が動き出した。
地を這うような攻撃だった。
まだ遠いことで無警戒だった。
礫だけを警戒して直接攻撃に驚いた。
仲間の一人があっさり沈む。
あわてて包囲網を敷くように展開を急ぐ。
しかし、その間にまた一人やられた。
まさかの攻撃に気を取られた隙に、今度は礫でやられたのだ。
最初の男も目を離したわけじゃない。
男からの攻撃をかわしたのだ。
ただ、かわすより早く追撃がきただけだ。
狙われた仲間が不運なだけだ。
あのような攻撃は初めて見たからだ。
見たことも無い攻撃、反撃のタイミングもとれないままやられていく。
油断すれば礫がくる。
つぎつぎとやられていく仲間。
五人で追いかけたのは失敗だと気づかされた。
足場が悪くて広がった展開が出来ないのも礫の威力が増した理由だ。
かわす範囲が限定されていたからだ。
隊長一人残された。
さすがに、戦場を生き抜いた勘が男の攻撃目標を巧みに外したからだ。
その代わり、仲間が犠牲になったのは・・・・
仕方がない!
全員やられては皆殺しになるからだ。
しかし、一人になって逃げられない状況で冷や汗が垂れる。
五対一でも勝てなかった相手だ。
いまさら背中を向ければやられる。
そのため覚悟を決めた。
相手は人間のはずなのだ。
けれども、印象は人間の形をした蜘蛛といったほうがいい。
手と足と背中を使い器用に動き回る技。
どうしても攻撃が決まらない。
普通の相手と攻撃の範囲が違うからだ。
地面に向かって攻撃する形は慣れていない。
そのため、どうしても攻撃が単調になっていた。
その上、触られれば不思議な技で無力化されてしまう。
仲間のことが気になるが生きてこそ再戦があるのだ。
たおすより逃げる方に意識がうつった。
にらみ合いの中、相手がもう攻撃を出さないように見えた。
その隙をついて逃げ出すことにした。
背中に礫の衝撃!
そして目の前が暗くなった。
傑の特技、礫は手だけではない。
足でも出せるのだ。
上体の態度で油断させて足で放つのだ。
まったくの死角からの攻撃に囲んでいたものを次々と倒していく。
最後の男は粘っていたが、戦意は喪失している。
それが手に取るようにわかった。
もう戦わないような振りをして油断を誘うとあっさり乗ってきた。
傑の目でみれば隙だらけで逃げ出そうとしていた。
止めの礫を放てば狙い通り意識を刈る。
五人の追撃をのがれ落ち着くとゆっくり進む。
鍛えられてない王の足はもう限界だった。
本来なら道なき道を行くのが基本だ。
しかし、それでは男の体力が持たない。
休憩代わりに時々傑が男を背負って動く。
そのため、足場の良いところを選ぶためだ。
必然的に道なりに動くしかなかった。
その方が早いと判断したからだ。
結果、遅れていたはずの残りの傭兵団が追いつくことになった。
初めは連携をとらない個人攻撃だった。
そのため、あっさり意識を刈っていく。
追いついたことで功を焦る奴らの暴走だ。
連携も何も無い単独攻撃は傑には無謀以外の何物でもない。
雅雄に鍛えられた技術は半端ではなかった。
雅雄相手にぼろぼろにやられていたのでそんなに強いと思っていない。
しかし、今攻撃してくる山賊ははっきり言えば弱い。
攻撃してくる間も隙だらけなのだ。
殺さないように手加減ができるほど余裕だった。
自分がとてつもなく強いと認識していない傑だった。
殺さないのは、これだけ実力差を見せつけておけば再攻撃はしないだろうとい
う判断だ。
殺すことによって、恨みが重なればどんな無茶をしてくるのか判らない。
そうしないため、恨みを最小にしていた。
追跡している傭兵隊のほうは散々だった。
いままで山賊の一味でさえ軽く倒してきた仲間が次々とやられていく。
20人いた仲間は、すでに8人まで減らされていた。
倒されて復活したものがいてこの有様だ。
残りはこの仕事を降りた。
恥でもなんでも生き残るのが傭兵の絶対条件だ。
死んだのでは失格だ。
何も残らない。
今回の相手はもう自分達の敵ではないと判断した。
ここまでは運良く死人が出なかっただけだ。
もし敵が本気になって排除にかかれば殺される。
そう考えれば一度でも攻撃してやられたものは二の足を踏む。
残った8人は道なりに行けば到達する場所を決戦場に選び先回りする。
足場が悪かったので、負けたと思ったからだ。
逃げても逃げても追いかけてくる山賊。
王は倒した相手を殺そうとする。
傑が『もし殺したなら俺はお前と離れる』と言ってそれを止めた。
王は自分の正体を言っていない。
証明するものも居ないので、言うことを聞くしか無かった。
見捨てられれば追跡してくる男達に殺されるのは確実だ。
そもそも、王城にたどりつけない。
傑にはこれらの男達がもう山賊でないのは判っていた。
統率のとれた兵隊だ。
今守っている男を狙う傭兵と思われた。
事情がわからない今となっては殺してまで守る価値があるのか?
その辺の判断に迷った。
襲ってくる連中の実力がもっと凄ければ、男の判断は正しい。
それなら傑は迷わず殺した。
傑はこれぐらいの敵ならさばけると判断した。
追う傭兵の方も、大臣から『国家転覆のテロリストを殺せ』としか伝えられて
いない。
そのため、どちらも正義の壮絶な戦いだった。
傑は、男を逃がすためだけの戦いに勝ち抜いた。
蛇拳を使い相手の戦意をなくすのが目的だ。
最後の決戦場で傑は王を逃がす。
ここからは平地なので、隠れて馬車でもなんでも使える。
人ごみに紛れてしまえば容易だった。
そして、残った八人を相手の大立ち回りを行う。
さすがに残った傭兵は強敵ばかりだった。
傭兵側もここが最後の決戦場と選んだ。
これ以上深追いすれば、町の治安維持兵が動く。
テロが横行していることを知らせないためには穏便にことを終わらせる必要が
あった。
傑も場所の有利さをつかい転がるように戦う。
王を追うように動くものには背後から一撃を飛ばす礫で防いだ。
それで男達も動けない。
礫で3人がやられたのだ。
にらみ合いのまま時間だけが過ぎていく。
結局、傭兵も仕事をあきらめる。
和解を傭兵側が提案だ。
単純に引き上げようとしてもこのままでは犠牲が出る。
そのための提案だ。
そしてそれは傑の狙いだった。
傑も男が十分離れたことを確認してるので提案に乗る。
その場で傭兵側から男の正体を言われた。
『この王国にテロを仕掛ける犯罪者だ!』と教えられる。
そんな危険な男に見えなかったので信用はしない。
信用はしないが、もしテロリストだったなら!
これからの展開によっては傑がこの国に混乱をもたらした男になる。
事実、男は最後まで正体を明かさずに動いていたからだ。
もし何らかの身分の男ならそれを伝えるはずだった。
そのため、傑は身を隠すように行動を開始した。
王は無事逃げることが出来た。
そして窮地を逃れた王は、反撃を開始した。
死亡宣言を出して新たなる王が立つ直前だ。
仲間の大臣の手引きで逆転の勝利を掴み取った。
その大臣は黄川公だ。
劇的な展開だった。
戴冠式の場に乗り込む王様!
この王の活躍は、黄国の劇場などで何度も上演されていく。
傑は自分がその立役者とは知らないまま、田舎に戻り生活していた。
だが傑の拳法は騙されて戦った傭兵団の方が噂を広めていた。
傭兵団の方は騙されて王を襲ったのだ。
代表は死刑覚悟で王に謝罪を入れる。
このまま、犯罪者扱いされては世界に居場所がなくなるからだ。
王は無事だったこともあるのであっさり赦す。
もし傑の制止が無ければ殺していたかもしれない。
その後ろめたさもあった。
正体を隠して行動していたのだから罪を問える状況でもなかった。
命を狙った傭兵達に対する寛大な処遇。
それにより王の人気はますます上がったのは望外の結果だった。
二十人の傭兵と戦い決して負けなかった拳法使い。
その噂は瞬く間に広がっていく。
王は助けてくれた男を捜して賞金まで掛けていた。
王が覚えていたのは華麗に攻撃してくる傭兵の男たち。
その実力は大したものだった。
それに対して地を這うような形で立ち回る不思議な拳法。
側近たちはそのような拳法を知らなかった。
それで、知り合いに聞く。
頼られた男は、また他の人に聞いていく。
そういう流れで黄国でその拳法の噂は広がっていく。
傑の友人達の耳に入り、ようやく傑の耳に届いた。
傑はテロリストを擁護したと勘違いしていた。
そこで、修行を兼ねて山奥へ隠れたのだ。
そのため王の情報が入るのが遅れる。
友人は調味料の配達を頼まれていた。
その時、一緒に召喚状を渡す。
傑は、届いた召喚の命令に従った。
以前に傑は、酒の席の仲間内に将来道場でもやりたいと夢を語っていた。
召還に来た役人は、供応の席で傑の友人からその夢の話を聞かされる。
傑自身は、王に会ったとき「無事でよかったな」と一言述べただけだ。
傑は王を助けたわけではない。
ただの困っていた人を助けただけだからだ。
王は、その言葉に感激していた。
王になってから誰も彼も王という身分に敬意を表す。
しかし、王個人には無頓着だった。
目の前の傑は、何も言わず王を無償で守りきってくれたのだ。
その反面、礼を受け取らない傑に困っていた。
王としては恩人になにか礼をしたいのだ。
そのとき、役人が傑に代わって友人の言葉を王に伝えた。
王は、その言葉を聞くと、傑を引きとめた。
そしてて王都に蛇拳の道場を開くように指示を出したのだ。
費用は王室が持つということで決まる。
こうして、黄国ではたちまちのうちに蛇拳がひろまっていった。
雅雄はこの時間に飛んで驚いていた。
隙間が無いのだ。
雅雄自身、二重存在が認められないのが判った。
そのため、出現の時システムから警告があった。
この時間の存在時間というものだ。
わずか一日だけだった。
そのため、森を出たところで様子を見るだけにした。
そこで、がけ崩れに巻き込まれていた親子を見かける。
父親の方は手遅れだった。
子供の方は辛うじて命が残されていた。
父親の鑑札から黄国の辺境村だと知る。
黄国なら蛇拳の発祥地だ。
子供を助けて村に引き渡すのが精一杯のところだった。
将来は『この子供の面倒を見なくてはいけない』と思うだけだ。
助けた限りこの子供の責任を取ることになる。
そう思いながら次の場所に飛んだ。