01 出会い1
気法治療師
白国首都近くのある町の道場、白国蠍拳道場。
蠍拳の正式道場は黒国にあるが、白国の武術大会で本家を破ってそれ以後、蠍
拳最強を誇っている道場だ。
当然、厳しい練習に近所でも評判のところ。
はげしい練習と厳しい指導でも有名な道場だった。
その厳しい訓練が功を奏して世間でも認められていた。
そのため、ここの道場出身者は皆警備担当の要職に付くことが多かった。
いつも聞こえる訓練の打突の音。
はげしい打突の音の中でひときわ大きな音が道場内に響いた。
壁全体を震わせて建物全体が共振する大きさだ。
音の原因は、若い練習生が初心者メニューのとび蹴りを行い失敗した。
蠍拳は足技が中心のため回し蹴りや飛び蹴りが主流の拳法だ。
普通の初心者にはそんなことは出来ない。
第一、壁に簡単に穴が開くものではない。
その練習生は他の道場で鍛えていたから威力が半端ではなかった。
そして、練習用の壁ではなく廊下の薄壁でやっていた。
その二つの不運が重なった事故だった。
まあ、新人が失敗するのはよくあること。
普通なら落ちてもいいようにマットも用意する。
そして絶対に壁を突き抜けない場所で練習をするのだ。
あいにく同時に指導されたものが多かった。
そのため、用意されたマットがたりなくなっていた。
だから、マットが足りない時点で場所も無いはずだった。
指導教官がことさら意地悪したわけではない。
遅れてきたために気づかなかっただけなのだ。
指導教官は新人たちを教えるのに手一杯でそこまで気が回らなかった。
おまけに、遅れてきた男は恥ずかしいので教官にそのことを言わなかった。
そして、仲間がやっているメニューを見て勝手に始めてしまう。
教官は、気づいてさえいれば別のメニューを用意したのだ。
俗にいう罰メニューというものを!
結果的には練習場所でないところで練習を始めた本人が一番悪い。
とび蹴り用の練習壁の場所でもない所で起きた事故。
威力が勝り、足がその壁を突き抜けてしまった。
そのあと、勢いを消しきれない体が壁にぶつかって立てた大きな音。
結果的には、その音のお影で周りの者が気づいた。
練習熱心なあまり、廊下の壁でやっていたための事故。
それも普通の威力の蹴りなら穴が開くだけだ。
運が悪くくても壁が壊れる程度。
跳び蹴りだったことが不運だった。
薄いとはいえ普通の家の壁だ。
そこを丁度足が突き抜けるだけの穴を開けて突き抜けた。
この初心者がもっと下手なら穴が空くだけではなく壁を壊していた。
そうすれば、怪我をすることは無かった。
威力がありすぎて穴を打ち抜くように突き抜けた。
ちょうど、壁の下地積み込まれていたレンガの一つを打ち抜くように抜けた。
そして、そこに足が刺さってしまったのだ。
ちょうど足が太くなり始める脛のところだ。
体は横向きのまま、衝撃に構えていた足には体重が掛からず体全体でぶつかっ
た。
掴むべき手がかりがないまま体重がかかった。
足の骨はゴツイ体を支えきれずに折れる。
そして止めに頭を床に叩きつけた。
音と悲鳴に気づいたものが見に行った時には手遅れだ。
そのときには足が壁にささって頭を床につけて気絶していた。
そして、足はおかしな方向に曲がっており悲惨な状態だ。
3人掛りで助けて担架に乗せたときには意識がない。
患部からは骨は見えないが普通の骨折ではない。
足がおかしな方向に曲がっているから、誰の目にも重傷に見える。
初心者の面倒を見ていた指導教官は真っ青の顔だ。
師範のいないときにそのような不祥事を起こしたのだ。
『くれぐれも事故の無い様に』と注意されていったぐらいだ。
頭の中は真っ白と言うところだ。
『下手すればこの若者は再起不能になるかもしれない』と考えてしまう。
そうなれば、責任者として破門も言い渡される。
実際はそれ所では無いのだが経験がないので気ばかり焦る。
責任問題ばかりに考えが向かっていったからだ。
そのため、指示を出さなくてはいけないのに声がでない。
「おい、早く姉さんのところに運べ」
ここで、姉さんというのは道場主の奥方のことだ。
そこでようやく、師範代の男が声をかけた。
道場の中で有料の生徒を教えている中級責任者だ。
主だった責任者は師範と一緒に外出中だった。
大きな音だっただけに別の場所から覗きにきた。
怪我の様子を見れば、一目で状況が解るというものだ。
道場の方を見ている師範代としては、管理責任外の場所。
でも目の前で、練習生が怪我をしているのだ。
責任は重いが、それより患者の救済が最優先だ。
後から師範に叱られるのは覚悟。
とても、内緒にできるレベルじゃない。
そして、なれない教官に替わって指示を出す。
練習生の管理が越権行為なのは承知の上だ。
担架を持つ者にも、重傷なのはわかる。
下手すれば、後遺症がでても不思議は無い怪我。
急いで搬送を開始する。
それと師範代の指示で姉さんのところに伝令を飛ばす。
すばやい処置がうまくいくことは経験済みだ。
それは、いつも言われていることだった。
道場なので、はずみで怪我は日常茶飯事だ。
それでもここまでの重症は初めてのことだった。
「助かるといいな」と言いながら救護室に急ぐ仲間。
担架の上の男は、誰の目にも重傷に見えた。
救護室のひと時。
師範の奥方が室長をしている。
見た目は20歳ぐらいの娘。
実際は40歳の主婦だ。
兄との約束で武術はすべて封印していた。
そのため、道場の奥方でも指導に口は一切出さない立場だ。
しかし、実際は狼拳の、いやすべての拳でトップの実力者だった。
白国武術大会で世界一になっている実力者だ。
そして、結婚した時点で引退していた。
看護助手は娘の桜子16歳、
こちらは、蠍拳見習いだ。
師範直伝の教えで、そこそこの実力だが、母親と一緒の方が為になるので勉強
していた。
道場の方では、『誰が桜子の婿になるのか?』と暗黙の暗闘が繰り返されてい
るぐらいだ。
二人は、午後ののんびりした雰囲気の中にいた。
その中お茶を飲みながら近所のおばさんたちが集まっていた。
奥方の桜は近所の人たちは近所の誼で無料で治療している。
それはこの界隈では有名な話だった。
そのため道場関係以外でも、こちらの治療場に人はよく出入りしていた。
その日も近所の奥さんたちは桜のところにきていた。
治療ではない、愚痴を言って気分転換だ。
桜の治療するところはさすがに誰も見たことがない。
世間には知られるとまずい治療法だからだ。
道場生たちでも目隠しをして治療される程だ。
ただ一人それを見ているのは娘の桜子のみ。
だから、桜子はその秘密を盗もうとしていた。
桜の治療の腕は確実で簡単な打ち身などはその場で治る。
擦り傷も軽く包帯をする程度で、次の日には包帯が取れる。
実際は治っているのだ
しかし、それでは不自然なため包帯でごまかしているだけ。
近所の人でも怪我をすればここにくる。
多くの人が桜の世話になっていることから尊敬もされていた。
そのため普段から自然に人が集まってくる。
そしていつのまにか集会所のような場所になっていたのだ。
そこにむさくるしい男たちが数人、青い顔をして駆け込んできた。
「姉さん、大変だ、あきらのやつが重症だ」
桜にすれば、道場生とは違い訓練生の名前は皆覚えている。
道場生は有料で拳法を教えるお客さんだ。
訓練生は道場の仕事(護衛や依頼をこなすもの)なので、厳しさが違う。
いわゆる、道場で働く者だからだ。
当然、怪我等で運び込まれることも多いので覚えていた。
そんな連絡を受けても、桜はいたって落ち着いていた。
相手していた婦人たちに、
「ちょっと急用がはいったようなのでしばらく待っていただける?」
と、まるで小用をするような感じで治療室に入っていく。
その様子に焦り等は一切見られなかった。
当然、桜子もその後について治療部屋に入る。
治療室に二人が入ると、桜がてきぱきと指示をだす。
その豹変に驚く桜子だ。
残された婦人たちのほうが遠慮していたぐらいだ。
普通なら簡単に済ませて戻ってくるのが当たり前だった。
帰ったほうがいいのか検討していた。
それというのも、道場の者達の雰囲気がいつもと違っていたからだ。
先触れが来たのは初めてのことだった。
怪我人は治療室に寝たまま楽に入れる専用口がある。
もちろん、客たちからは見えない場所だ。
そこをあけて患者を迎え入れた。
そして、男達は患者を治療用寝台に寝かせる。
いかなる状態でも患者を診るものが焦ってはいけない。
その結果が、ろくなことにならないことを知っている。
桜は、先触れが来たことで事態の深刻さを知っていた。
それでも内心の動揺は表に出てきてしまう。
患者の状態が、一目でわかったのだ。
瀕死というより死の直前だということが。
患者は意識がなく、周りのものも心配そうに見下ろしている。
「あなたたちは邪魔だから、もう道場に戻りなさい。後で桜子に連絡に行かせ
るから、心配せずに練習していなさい」
思わずいつもよりきつい口調になる。
そして、心配そうに見ている男たちを追い出した。
何よりも、死に立ち会わせるわけにはいかないからだ。
桜の腕をもってしても、助かるかどうかは運次第だった。
あとは、本人の宿命のようなものだ。
知識が無いものが近くにいるのは邪魔なだけだ。
男たちはここにいてもどうしようもない。
しぶしぶ引き上げていく。
お互い不安なのか、雑談でどうなるか話しながらだ。
男たちが見えなくなった。
今まで温和な顔をしていた桜が一変した。
「桜子、生死にかかわる重症よ、あなたはまず骨折部分を切り落としなさい」
いきなりすごい指示が飛んだ。
「私はいまからこの子の身体機能を停止させるから」
「お母様、殺すの?」
「違うわよ、ただ停止させるの。それより早くして」
それ以上ぐずぐずすればもっとひどい叱り方になる。
それはは今までの経験から知っていた。
桜子は急ぎ包丁を取りにいく。
「さて、間に合うと思うけど厳しいわね」
そうつぶやいて心臓に手をあてた。
そして、桜子の全力で力を注いだ。
男の体が「ビクン」とはねる。
そして心臓がとまった。
桜にしても知識だけの治療法。
動いている心臓を停めて治療するのは初めての方法だ。
最も、止まった心臓を動かすことになるのは二度目の経験になる。
でも今回は使うしかなかった。
心臓をめがけて凶器が迫っていたからだ。
数秒で娘が包丁を持って戻る。
それを受け取ると、桜はためらわずに患部を切り落とした。
ためらいのない一撃、桜子は顔を真っ青にしてみているだけだ。
荒っぽい治療は見ることもあるが、これだけ荒っぽい扱いは初めてのことだっ
た。
骨は砕けるように折れていた。
「やばいわね、間に合えばいいけど」
そうつぶやくと今度は心臓の近くにナイフを突き立てる。
普通なら即死になるようなところだ。
荒療治を見慣れている桜子もさすがに初めて見る。
そちらをやりながら桜子に指示が飛ぶ。
「桜子、傷口の骨の小片を残さず取り除いて」
桜子は無言で作業を開始する。
事態が一刻の猶予もないほど切羽つまっていた。
それは普段温厚な母親の態度から判る。
そんな桜子へさらに指示が飛ぶ。
「みえないほど小さいのは無視していいからね。」
桜子の持つ足は、人間の体というより大根を扱っている雰囲気に感じたのは気
のせい?
切断面は、切られたまま体液も流れ出さず、不思議な感覚だった。
桜は切り開いた傷口から慎重に手を入れていく。
心臓周辺を手を当ててさぐっていた。
やがて小骨を見つけて、傷口から細い管を差し込む。
口に含んだ管の先で慎重に白いものを吸いつけて取り出す。
取り出してはまた入れて数回繰り返す。
管といっても強化されたもの。
桜の気硬法で固められた管だ
気で保護された体に指は入らない。
強化した道具しか入れられないからだ。
さりとて、固いものでは組織を傷つけてしまう。
苦肉の策だった。
桜子はそちらを見る余裕も無く傷口の骨片を探していく。
当然持っているのはピンセットだ。
それでも粘る水の中を動かす感じで思うように動かせない。
管を数回やりとりして終わったので傷口から完全に管を抜いた。
桜は、ほっと気を抜く。
しかし、桜子はそれどころではない。
砕けた骨が結構散らばっているのだ。
桜は傷跡に手を当てて力を込めるように瞑想する。
体内にそれ以外の不純物が残っていないか検索をかける。
神経を同調させて痛み等をシンクロさせた。
瞑想が終わる頃、やっと娘のほうも骨を出し切れたようだ。
桜は桜子の仕事を確認する。
やはり、奥に隠れていた骨は見つけられなかったようだ。
心臓周辺と同様に仕上げを行なった。
その様子を食い入るように見る桜子だ。
桜は切り離した足を切断面に当てる。
そして、桜子に足先の方を持たせ、先ほどと同じ瞑想をする。
すると、切り離した足がみるみるつながっていく。
傷跡も残らないのだ。
桜子は過去に見たことあるので不思議には思うが取り乱すことは無い。
桜は、筋肉、血管、神経、骨など異常がないか確認していく。
そして、すべてがつながったのを確認する。
そこで再び心臓に手を当てる。
すると、先ほどと同様に体がはねた。
そして、心臓が動き出した。
「おかあさま、成功なの」
しかし、桜の顔はまだ厳しいままだ。
「まだよ、停止時間が長かったから、頭の中も活性化させないといけないわ。
ごめん桜子、表の人にちょっとかかるから今日はお開きにすると伝えて」
骨折と聞いてすぐに済むと考えたのが間違いだった。
思いのほか重症というより瀕死だった。
それで治療にまだ時間がかかりそうだ。
おまけに体力的なものまで限界にちかい。
力を使いすぎたのだ。
足の傷を治すのにいつもの数倍の力を注いだ。
なぜか、力がどこかに消えていく感じで思うように結果が出なかった。
理由はわからない。
心臓を動かしたのは主人のとき以来なのだ。
うまくいくとは思っていても慣れるものでもない。
思った以上に力配分を失敗した雰囲気だった。
桜子はいわれたままに表に出て伝える。
それを聞いた人たちは驚きながら
「あの桜さんが時間がかかるなんて、その人助かるといいね」
そういいながら、帰っていく。
そう、普通なら10分で終わらせるのだ。
それがすでに10分が経過していた。
いやここまででまだ10分しか経っていないことが驚異なのだ。
しかし、そのことに桜子は気づいていなかった。
実際の治療時間はもっと長かったのだ。
桜と桜子は桜が作る高速世界に入り込んでいた。
桜の能力は周りの時間を遅らせるのではなく、桜と桜子の時間を早めていたか
らだ。
桜子が部屋に戻ると母親はわき目も振らない。
そして患者の頭を抱えるように手をあてて力をそそいでいる。
声をかけるのもはばかれるような雰囲気だ。
「桜子切断した足の指先をしっかりマサージして」
指示だけ出して、わき目もふらず治療に専念する。
それを10分ほど続けるとようやく離れた。
「なんとか、なったようよ、助かったわ」
「お母様、なにをやったの」
「ごめんもう少し待って」
そう言うと患部に手を当ててまた瞑想に入る。
細いきりのような針を持ち無頓着にあちこち刺していく。
針に見えるが管なのだ。
体が異物として認識したものを外部から探り出していく。
たちまち周辺は血まみれだ。
20回ぐらい刺しまくってようやく終わったようだ。
娘は事情を聞く余裕ができた。
「お母様、何をしてたのですか」
「骨折そのものはたいしたことじゃないの、問題は折れた骨が血流に乗って心
臓に向かってることが見えたの」
「見えたの?」
「手を当てれば判るわよ、骨は特殊だから」
「そうなの?」
「そう、それでね、心臓に届く前に取り出さなくちゃいけなかったのよ」
「うそ!、そんなことができるの」
「まあね、さすがに動いていては無理だから全身に気を張り巡らして、心臓を
止めたの」
「ええ!、殺したの」
「人聞きがわるいわね、ただ止めただけよ。もちろん永くは無理だけどね」
「それで足を切っても血も出なかったのね」
「そう、気を張り巡らしていたから斬った断面は単なる斬り口だったの」
「よくわからないけど」
「ちょうど凍らせて斬ったと思えばいいわ。普通の斬り口は斬った瞬間から収
縮が始まり、循環してる体液が流れ出すけど、気を張り巡らしておいたから
それはふせげたの」
「そんなことができるの」
「まあね、だから治療できるのよ」
「それで骨の削除はできたけどそれじゃ骨が足らなくならない?」
「もちろん足りないわよ。それより骨片が心臓を刺したら足りないどころじゃ
ないわよ。一撃であの世行きね」
「おかあさま、そんな気軽にいわないでよ。事態が深刻じゃないみたいじゃな
いの」
「だから心臓を止めて、骨片を拾い出したの、もしうまく心臓を通り抜けても
内臓を傷つけたらどちらにしても同じだからね」
「それでうまく出せたの」
「もちろんよ、それはいいけど思ったより時間がかかってしまって」
「体がもたないの」
「体はいいのだけど、頭の方が心配なの、活性化してダメージは小さくしたつ
もりだけどこればかりは結果をみないとね」
「いいかげんなのね」
「最後は患部周辺に散らばってたごみを拾ってたの。残しておくと化膿するか
ら」
「そんなのも見分けられるの」
「慣れね、おまけにこの人腰までやってたわ。無茶をしたものね」
「いまは疲れているから、足のほうはもう少し後でもう一度なおすわよ」
「いいの?、ほっておいて」
「大丈夫よ、張り巡らした気はまだ残ってるから1時間ぐらいは指一本うごか
せないわよ」
「げ!、おかあさまに逆らうとそんなこともされるの」
「やる気になればできるけど、あなた経験してみたいの?」
「とんでもない、おかあさまが、おとうさまより怖いと初めて知ったわ」
「そうよ、だからおとうさまは私を大事にしてくれるのよ」
少し顔を赤らめて返事をする桜の様子に呆れる桜子。
「おやおや、ごちそうさま。おかあさまもお父様にべたぼれなのは承知してま
すわ」
「あなた、それはちょっとひどいわよ」
「でもそんなおかあさまとおとうさまがが大好き!」
「しょうがないわね、いつもその一言ですませちゃうんだから」
そういってうれしそうにお茶とお菓子を用意して休憩に入る。
担ぎこまれてから30分後のことだ。
二人の時間なら一時間後ということになる。
休憩に入るといった桜は今までに無い疲労に年を感じた。
「桜子、20分寝るから起こしてね」
そう言って長いすの上に寝そべる。
寝ている姿はさらに若く見え、傍目には18歳の女の子に見えた。
しかし、態度には随所におばさんらしさが見え隠れする桜だった。
20分後起こされる。
寝起きの悪い桜だ。
文句いいながら治療を再開する。
起こすように頼まれ、起こして文句を言われる桜子には救いが無い。
もう一度全身を探り、異状を無いのを確認して心臓に手を当てる。
また体が跳ね上がるが今度は小さい。
全身に行き渡らせた気を回収したのだ。
これで体は完全にこの男に返った。
20分の同調で判ったのは腰もひどいことと、足が痛いことだ。
桜に文句を言ったのはこの腰の痛みのせい。
「もう、これだけひどいのなら同調するんじゃなかったわ」
「お母様、どうされたんですか」
「この男、腰を壊してるのに何も言わず我慢してたみたいで、ひどい目にあっ
たわ」
「どういうことなの」
「体に異常がないか気を張り巡らして私の体に転写してたのよ」
「すごい」
「足は覚悟してたからブロックしてたのだけど、この男腰を痛めてるの」
「腰?、でも入門のとき体に悪いところは無いと言ってましたよね」
「そうよ、とんでもない嘘つきよ。明日は無理か、来週から厳しく折檻ね」
「ええ、可愛そうに」
少し可愛い顔をしているだけに桜子も同情する。
「なにを言ってるの、あなたも味わってみる、腰の痛み」
「いいえ、遠慮します」
「薄情ね」
「お母様の娘ですから」
「いいの?そんなこと言って、明日からのおやつ半分よ」
「ひどい」
などと雑談をしながら残りのおやつを食べにそこを離れる。
後には胸と足が血まみれな男が横たわっていた。
書きたい放題に書いています。
荒があるのも承知ですので大目にみてください。