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第3話 願いと代償

 死んだ先は意識がないと思っていた。


「今までお疲れ様でした。梓道様」


 確かにそう聞こえた。目を覚ますと、俺はあの図書館の前にいた。

 いつぶりにみただろう? 実家にはなかなか顔を出さなかったから、記憶を頼りにすると3年ぶりのはずだ。


 建物が立て直したかのように綺麗だ。

 まるで若返ったかのようだと建物を眺めていると、ヒグラシのもの悲しげな声が聞こえた。


 夏なのか……。雪が昨日まで降っていたはずなのに、年を取ると時間が早く感じるというのは本当のことらしい。


 汗をかいたのかシャツが濡れていた。

 身体にひっつく感覚が気持ち悪い。よくみるとシャツは母校の制服だ。


 腕をみると、昔のように締まっていて太かった。若返ったのだろうか?

 それを確かめるために図書館の中に入り、ロビーにある大きな鏡にむかう。


「驚きましたか?」


「……ああ、たまげたよ」


 そこには一人の青年が写っていた。


 本当に若く未熟な頃の俺だ。そしてどこからやってきたのか、20代と思わしき、美しいブロンド髪の女性が俺の隣にいた。


「ここは、貴方の思い出の場所なんですね」


 優しく、なだめるようにそっと女性は告げる。


「ここがきっかけだったからね」


 俺はロビーを見渡しながら、懐かしむ。


「それで、お嬢さんは私をどこに連れて行くのですか?」


 女性はシンプルな白いレースのロングスカートをなびかせ、少し首をかしげた。


「ちょうど貴方にぴったりな世界があるのです」


 女性は手に持っていたベージュのノートを開き、挟んであったノック式の白い万年筆で何かを書き出す。


「貴方は生前でとても素晴らしい功績を成し遂げました。その結果、ある程度前世の記憶を持ったまま、次の世界に行くことができます。別の世界で生き返るような感覚で、お好きな年齢から始めることもできます」


 女性は垂れてきた横髪を直しながら話を進める。


「そこは貴方が今でも恋い焦がれる、中世ファンタジーのような世界。魔法や能力を駆使して様々な種族が争い、貿易を交わす発展途上の世界。まずは生き返る際の初期年齢をお願い致します」


 女性は無言で書き続ける。初期年齢か。

 わざわざ赤ん坊に戻りたくない。冒険するのにちょうどいい年齢がいい。


「その世界の成人年齢からでお願いします」


「次に貴方には、特別に様々な特典をつけることができます。まず1つ、自分で好きなように特殊スキルをつけてください」


 女性の書く手が止まり、別の白いページを丁寧に破いてノートに付いてる木目のバインダーに挟んだ。

 それを俺に万年筆とともに渡す。


「ただし5つまでです。ご了承ください」


 女性の見た目らしい、スマートで凛とした字だった。

 括弧欄に能力名と内容を書くよう所々空間がある。俺はそこに丁寧に字を書き出した。



スキル欄


その1 健康……異常状態全無効


その2 武防具生成……特定の素材がそろわなければ発動しないが、あらゆる武器や防具を生成することができる


その3 神の料理人……すべての料理に一定時間追加補正がつく


その4 薬生成……特定の素材がそろわなければ発動しないが、上質な薬品を生成することができる


その5 召喚術ゴーレム……様々な素材からゴーレムが作れる



 なんだか書いてる最中に、俺の心が子供になってしまったかのように感じ、書き直したい気持ちに駆られた。

 インクはしっかりと紙に染み出し、訂正する余地を残さなかった。


「次に、連れて行きたい死者を選んでください」


 書いた物をすべて女性に返すと、優しく微笑みながら女性は俺の顔をのぞき込んだ。

 まるで俺の表情を読み取ろうとしてるみたいだった。


「歴史上の人物でも、死刑囚でも、貴方の遠い祖先でもかまいません。彼らの思い出は消えますが、生前培ってきた能力や思考回路は大いに貴方の力に成り得ます。幸いここは図書館ですし、調べ物をしながら、お時間気にする事なくじっくり考えることができます」


「もう決まっています」


「そうでしたね。言わなくてもその瞳で分かります。どんな形であっても最愛の人に会いたいと……」


 女性は俺から離れ、鏡の前にまで赴き手を添える。

 すると鏡は大きな木製の扉に変わり、ゆっくりと音を立てて開いた。


「3つ目は武器を選んでいただきます。それも神託を受けた特別な武器です。1つお好きな物をお選びください」


 扉の中は、天井が見えないほどの大量の武器がひしめき合っていた。


「こちらが一覧になります。試しに手に取りたい品がございましたら、私におっしゃってください」


 女性は白の製本を俺に渡す。ページをめくると、目次がなく、多種多様の武器がバラバラにのっていた。


「真ん中のページに行くほど貴方に合う武器となっております。端に記入されている武器は、貴方が使う機会が少ない可能性がある武器となっております」


 俺は端のページと真ん中のページを見比べた。

 なるほど理にかなっている。端のページは使ったことのない重火器ばかりだったが、真ん中のページは、俺が昔嗜んでいた、武道の応用に使えそうなナックルや、トンファーなどの打撃武器ばかりだった。


 本をめくっていると、あるページが眼に入った。

 そこは奥付の部分で、俺には読めない文字で情報が書かれていた。

 一番最後の行は、なぜか日本語で書かれている。



 ハリソン ただの紙束っぽい。自分で作った方がまし。



 ハリソン? 紙束? 一応武器ということだろうか。ほかの武器と違い、図がない。


「このハリソンという武器はどんなものですか?」


「説明通りでございます」


 女性はまたにっこりと笑っていたが、額に汗が浮き出ていた。


「あの……どうされました梓道様?」


「では私は、このハリソンという武器にします」


 妙な沈黙の跡、女性は驚いたのか、おもちゃの蛙のように飛び跳ねた。


「えっええええええええええぇええええぇえええ!?」


 正直言って綺麗な彼女の反応がみてみたかったというのが8割だが、残り2割は武防具生成があるのでいらないし、どれも無駄な装飾があってかさばりそうだと感じたからだ。


「紙束ということは、折り曲げて持ち運ぶこともできるし、着火剤代わりとして使えそうですね」


「いえ梓道様一応私がお酒を飲みながら誤って作ってしまった物ですが神託はございますだから燃やすのは止めてあげてください」


 女性は焦って手をぶんぶんと振りながら早口になる。


「ちなみにどんな物で?」


「……お好きな特殊効果を一つ、つけることができます」


 特殊効果か……。少し悩んだが、ふと昔ゲームで、特定の武器で敵をたたくと回復する杖があったことを思い出す。


「では、叩かれた物は異常状態強制解除で」


「うぅ、かしこまりました……。では最後に梓道様にはお伝えしなければならないことがあります」


 女性はまたノートに何かを書きながら、悲しげな顔をする。


「生き返る際、前世の記憶はある程度持ち越されます。ですが貴方の今まで培ってきた精神年齢は生き返る年齢に依存し、貴方が成し遂げた偉業についての記憶をすべて忘れることになります」


「それはもう避けられないことですよね、気にしていません。こうして貴女と話していると、もっと早く若いときに死んだのではないかという感覚があります」


 身体だけではなく、心も若く幼くなっていく。

 あの夜に飛び降りたのだろうかという錯覚までも感じた。


「そうですか……。ですが貴方は自ら命を絶たなかった事に胸を張ってください。それだけ自分を大事にすることが出来たということですから」


「心、読みました?」


「ええ、だって女神ですもの」


 女神様はそう言って俺に最後の微笑みをくださった。


「それでは素敵な新しい人生をお過ごしください」


 それから俺は意識を失った。

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