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第8話 悪夢 出発

 今日は変な夢を見た。


 小さな小屋の中に、ずっといたからなのかもしれないし、ずっと野菜や果物を乾かしていたからなのか。

 もしかしたら無愛想なシドウとしか顔をあわせていないからなのかもしれない。


 夢の中の僕は、体育座りで小さな箱にすっぽりと入れられていて、体が動かせなかった。


 余りにも身動きが取れなくて、冷や汗が止まらない。ジタバタ暴れようとしても壊れない。叫ぼうとしても声が出なかった。

 目が開けられなくて真っ暗だけど、耳はなんとか聞こえた。バリトンよりの、男の声が聞こえる。


「おい。聞こえるかこの野糞」


 野糞じゃないし。助けて! と、声を荒げたかった。肌に感じる鉄の感触に、僕の汗も合わさってどんどん箱の中が冷たくなってくる。


「お前にとっては急ぎじゃないが、()()()()()()()緊急事態だ」


 どういう事? 男の人は続けて話す。


「少しきついが、耐えろ」


 耐えろって?


「せめて、お前の頭がおかしくならないよう、俺は最善を尽くす」


 だからどういうこと?


「そこから出せるようになったら、また顔を出す」


 汗が凍る。肌が凍る。ヒリヒリとした痛みを感じながら、意識が遠のく。


 そこで夢は終わり。シドウにピシャリとたたき起こされた。


 何でいちいちハリセンで叩くんだろう? シドウなりのこだわり? あれ痺れて痛いんだけど。


「おい、出発するぞ。準備しろ」


 まだ寝てたいんだけど……。

 二度寝して、むちゃくちゃエッチなお姉さんに、ぱふぱふされる夢を見たいんだけど……。


 そんなことを口にしようとも、言葉にならずに、ムニャムニャとしかシドウには伝わらなかったようだ。


 シドウは、僕の頭をまるで子供をたしなめるみたいに、ポンポンと叩く。

 さっきのハリセンとは打って変わった優しい対応で、ちょっと気持ち悪い。


 仕方なくベッドから這い上がり、大きなあくびをした。その後やっとまともな声が出せるようになる。


「酷いよ。まだ寝ていたかったのに」


「準備にかける時間は、十分にある方が良いだろ」


 それでも、気持ちよく寝ていた人をたたき起こすのは、どうなんだろう。


 テーブルにはもう朝食が用意されていた。

 湯気が立って良い匂い。料理のバラエティが広いのか、いつも飽きないし、今回も美味しかった。


 食べ終わって片付けを済ませると、説明されるまもなく僕はシドウから防具なのであろう肘当てとレガースを渡される。


「あとこれ」


 僕が肘当てとレガースをつけ終わったあと、深緑のケープを渡してきた。僕の靴の色より少し明るめ。


「これなんか意味あるの?」


 僕の質問に答えず、シドウはただ、着ろ。という視線だけ投げつける。

 仕方なくケープを羽織ってみたが、思ったより着心地は悪くない。暑くもなく寒くもなく。


 シドウはそそくさと準備を済ませ、僕にチェストの中に入っていた麻袋を渡す。


「……なにか忘れ物はないか?」


 シドウは部屋をぐるりと見渡し、一通り点検を終えると、腰につけている、のぺっとした体操服袋みたいな白い袋に手を突っ込み、なにやらごそごそしている。


 あの袋、どう考えても、あのアニメの青い狸が持ってるやつじゃん。シドウが以前「これはアイテムボックスていって……」的なこといってたけど箱じゃないじゃん。


 そんなことをぼーっと考えていると、確認が終えたシドウが僕のことをじーっと見ていた。


「……なんかついてる?」


「いや別に。行くぞ」


 シドウは僕の背中を叩き、外に出るよう促す。僕はドアノブに触れ、ゆっくりと扉を開けた。


 今日はとても良い天気だ。外に出て振り返ると、太陽がとんがり屋根の小屋を明るく照らしていた。

 草木は青々と生い茂り、空気はとても澄んでいる。


 ここから僕らの旅が始まるってことかぁ。長かった長かった。


 そしてここから僕のムチムチエロエロお姉さんハーレムの旅が始まるといっても過言ではないのか……。


 うへえっ。最高かよ!!


 まってて! 世界中のお姉さん達!! わくわくが止まらないやぁ!!


 ……シドウににらまれた気がする。危ない危ない。


◆◆◆


 今日のイオリは顔の表情が豊かというか、なんというか。


 まあ、しばらく外に出ていなかったということもあるだろう。楽しみにしていたからだと思いたい。

 ……思いたい。


 イオリに着させたケープは念のためだ。

 森には虫も出るから防虫効果がある物を武防具生成で作成した。俺は平気だが、生前の音琴は虫が嫌いだったからな。


 外に出るまでのルートも確保してある。比較的悪路ではなく、周りが明るい場所を中心に通ることにしている。


 イオリは最初、見慣れている所だからか、おとなしく辺りを見回していたが、小屋からどんどん離れると俺の後ろに回り、服の袖を掴んだまま縮こもっていた。

 何か物音がするたびに言葉にならない弱音を吐いている。


「うええ……シドウぅ……」


 にしたって動きにくい。

 結構しっかりと服を掴んでいるものだから、歩いてると、足の遅さにつんのめりそうになる。


 今のところモンスターの気配はないが、このままでは森から出るのは時間がかかるかもしれない。


「……動きにくいから離してくれないか?」


「ごわいよう……」


 全く聞く耳を持たない。

 仕方なく持ち上げようとすると、それはそれでいやなのかたいそう不機嫌になった。


「嫌だ! 僕まだ歩けるし馬鹿にしないで!!」


「お前が遅すぎるのがいけない」


「しっ、シドウが早すぎるんだよ!! 追いつけないよ!!」


 もうちょっと僕に配慮して!! ビビりなんだから優しくしてよ!! 自分と他人のペースは違うでしょ!! となんと注文が多いこと。


 そんな面倒なわがままを聞いていると、俺はイオリが手ぶらな事に気付く。


「……イオリ、俺が渡した袋どうした?」


「へ?」


 イオリは自分の手のひらを見て、何回かグーパーした後、なんか持ってたっけ? とでも言いたげに首を横にひねる。


「袋? ねえ僕そんなの持ってたかな?」


 予想どうり、本当にしらばっくれたようにイオリは言った。俺は腹の底から大きなため息が出る。


 一度道を引き返すと、やはり収納袋を落としていた。

 中身は問題ない。モンスターに持ち去られたり、河や崖の下に落としたりしたわけではなかったので、すぐに見つけられたのはある意味運が良かった。


 結局、俺が収納袋を持つことになり、イオリの気が済むまでひたすらゆっくりと歩くことにした。


 気がつけば森を抜けられないまま日が暮れた。


 地図で確認すると、予定より半分近く進んでいない。ある程度広い場所を確保し、テントを張る。


 使い方は至って簡単だった。

 収納袋を止めていた紐をほどくだけで、袋が膨らみドーム型の大きなテントになったのだ。中は広く、収納袋の中に入っていた道具は角に綺麗に整頓されていた。


「ふわ~疲れた……」


 イオリは体力の限界なのかテントの中に倒れ込む。軟弱だ。


「ふええシドウぅご飯つくってぇ~僕寝るぅ」


 そういってイオリはものの数分後に寝息を立て始めた。

 あんなにわがまま放題に振る舞っておいて申し訳ない表情一つもせずに、よくのんびりと寝ていられるな。


 そんな風に思いつつも、気持ちよさそうな寝顔をみてなぜだかほっとした。

 一日予定より遅れたくらいならなにも問題はない。とにかくイオリに怪我一つなくて良かった。


 イオリが起きる前に夕食の準備をし、今後のルートについて考えを改めてみる。


 食料に関してはストックがあるので気にすることはない。出来れば早く着くに超したことはないが、できる限りイオリの調子を見ながら行動した方が良い。


 俺たちのレベル差の改善も行いたいし、魔法もイオリからある程度教わった方が良いだろう。あとそれと……。


「シドウ、お腹すいた」


 ブツブツ呟きながら作業していたら、起きたイオリが餌を催促する猫のようにぶすっととした表情でねだった。


 その後そそくさと夕食を終え、明日に備えてお互い就寝した。

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