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第7話 薬生成

「ねえシドウ。もう暇ここ暇」


 転生してから二週間ちょっとたち、少しずつ食料の蓄えができはじめた頃。

 イオリが朝から不機嫌そうにぼやいた。ちょうど食事が終わって食器を片付けようとした時だ。


「だってここなんもないし、つまんないし遊ぶものないし、外には怖い生き物いっぱいだし。

 なによりなにより、ずっとここにいると、カワイイ女の子に遭遇も、交友も、発展もできないじゃん!!」


「だったら勝手に一人で行けば良いだろ」


 俺の冗談混じりの発言に、イオリはウゲェっと苦々しい表情を浮かべる。


「やだやだやだやだ! だって僕か弱いし食べられたくないしお外怖い!!」


 きっと今のイオリの頭には、始めてここに来た時の事でいっぱいなのだろう。あたふたと何か呟いていた。


「ねえもう良いでしょっ! いつまでもここにいるのはつまんないいぃ!」


 ついには子供みたいに地団駄を踏み始める。

 わがままだなあと思いつつも、今現在、出発する準備が整い始めていた。

 この二週間で、準備は想定より早めに終わりつつあり、安全に外に出られるルートもほぼ確定している。


 俺のレベルは現在16になった。イオリはレベル3にまで上昇した。

 イオリは狩りにも行っていないはずなのにレベルが上がっている。魔法を使っているからなのだろうか? それともまた別な何かなのか。

 今のところは分からない状態である。


 イオリは水と風を操る事が出来るようになった。

 風は最初部屋中をぐちゃぐちゃにしていたが、コントロールも上手くいくようになり、今では微量な風を扱えるようになった。

 植物や果実を干す手伝いをさせているおかげで、乾物が予定より早めにストックできている。

 水は強く念じなくても、出せるようになったと、イオリが自慢していたな。


 さすがに、ずっと同じ場所にいるのはきついのだろう。だが、もう少し時間が欲しい。


「食べることと寝ることしかここ楽しみないんだけどねえねえぇえ!!」


「じゃあ後一週間くらい待っててくれないか?」


「いやあぁあ……え? いいの? ちゃんと寝て起きてを七回繰り返せば出られるの?」


「日が七回沈めばここを発とうと思う。だからもう少し待っててくれ」


 俺の言葉に少し信用したのか、唇をとんがらせつつも首を縦に振った。


◆◆◆


 俺は倉庫の後ろに回り、石造りの壁を一つ一つ触る。冷たくて、ざらざらとした所とは別の、滑らかな感触を右手に感じた。その一部分を押し込むと、壁からガタリと音が響き、一部の石壁が元々そこになかったかのように消え、代わりに扉が表れる。


 ここは初日、倉庫を調べていた時に見つけた部屋だ。いや、正確に言えば、とても丁寧に教えてもらったというべきか。


 確かあの時は、倉庫から出ようと扉を開けると、来たときになかったはずの木の立て看板が、出迎えるような形で地面に刺さっていた。


「ん? これ、さっき来たときになかったよな?」


 立て看板には堂々とした字面で、


『後ろに回って!!』


 と書かれていた。俺は素直に応じると、もう一つ、立て看板があり、やけに分かりやすい大きな矢印が、石壁の一部を差していた。


『ここ! 押して!』


 自己主張が激しい看板は、俺が指示された場所に触れると跡形もなく消えた。


 部屋の中は、最初の配置のまま。暗がりの中に大量の瓶と、薬を調合する際に使用する機材が保管されていた。

 大きな土鍋が吊り下げられている煙突つきの暖炉もあった。作業台に置いてあるメモをまた改めて読み直す。


◯◯◯

 瓶や機材は、ご自由にお使いいただいて構いません。万が一の備えに、薬剤をそろえて行くことを、おすすめします。瓶は一人十本までお持ちいただけます。

◯◯◯


 ここは簡易的な調合室だ。こんな場所まで用意するなんて丁寧にもほどがある。

 しかも一時的ではあるものの案内看板つき。

 ありがたく使わせていただくとしよう。


 俺は必要な材料を作業台に置き、薬生成の効果を発動した。


 発動方法は武防具生成と同じ。

 だが、武防具生成よりも脳の負担はない。特定の素材が集まっていれば、どの薬が作れるか鑑識(かんしき)されるようで、薬の使い方や、作成方法を知ることができる。


 その中で、クロイリカブより見つけやすい薬草、フヘトナと、水を使って回復ポーションを作成してみた。クロイリカブを使った薬は作るのに慣れてから行うことにする。


 武防具生成とは違い、いきなり材料から煙が出てきた。煙は濃度を濃くしていき、一つの茶色い小瓶に姿を変える。古びたコルクで栓がしてあった。


 俺は薬を使うために栓を取ろうとするが、なかなかどうして、かなり固く閉めてある。


***

回復ポーション(自動生成)

材料 フヘトナ 水

 通常より効果はやや劣る。念じることで服薬できる。また、飲むこともできる。

***


 栓が上手く開かないため、代わりに使えるよう念じてみる。

 すると小瓶はパッとその場からなくなり、代わりに自分の身体の調子が良くなった。


 通常より効果はやや劣る。

 ならば、武防具生成のように、イメージを膨らませて効果を上げることはできないかと試してみたが、イメージを膨らませる前に出来上がってしまい、何度も同じ説明表記になった。

 これは、つくる手間を省くための能力なのではないかと推測する。


 ならばわざわざ、自分で手間をかけて作るのはどうだろうか。


***

回復ポーション 

 細かくすりつぶしたフヘトナを煎じた後、常温で冷ます。

***


 作成方法には時間や分量が書かれていない。必要最低限のことしか書かれていなかった。

 作業が行き当たりばったりになるため、試行錯誤してやらなければいけないだろう。


 試しに手探りで作ってみる。


 沸騰するまでの間に、フヘトナを薬研で細かく切り刻む。

 沸騰してきたら材料を入れ、しばらく待つ。

 次第に色が黄色みを帯び始めたので火を止め、常温になるまで待つ。最後に液体を瓶に入れ、鑑定してみた。


***

回復ポーション 粗悪品

 使えないこともないが、効果はとても微量。

***


 失敗か。

 薬に関してはなにも知識がなく全くの素人だ。

 始めはしくじっても、仕方がないだろう。順序や分量によっても効果が変わるのかもしれない。


 粗悪品自体も効果はあるようだ。折角作ったので、そのまま捨てるのはもったいない。失敗したのも取っておこう。


 その後、時間をかけて薬の作成に没頭した。


 材料を入れる順序、タイミング、時間を変えながら挑戦するが、何度も作り直しては粗悪品が続き、瓶の数も一、二、三……と失敗の証が何本も何本も増え続けていった。


 失敗続きを繰り返して三日目。

 十二本目に達すると、作業台の上に置くのが厳しくなった。機材に至っては八本目で瓶の多さに、動きくくなってしまい、床で作業する状態になってしまっていた。


 座って行っていたため、気持ちも半ば落ち込んで、手元が狂い始めてるのかもしれない。


 俺は一番大きい瓶はないかと棚のなかをあさることにした。


 瓶は特殊な材質で出来ているらしく、鑑定情報によると、決して割れない作りになっているらしい。


 デザインはいろいろあり、定番の丸形、三角型のフラスコ。試験管やビーカーなど理科の実験に使われそうなものに混じって、星形、猫型、船型と、鑑賞目的であろうユニークなデザインの瓶が次々と出てきた。

 大きさも様々、色もカラフルでバリエーションが豊富である。


 床に投げるように、大量の瓶を取り出していくと、奥の奥に、ひときわでかい、丸形フラスコを見つけた。

 これならしばらくため込んでも問題はない。


 俺は、粗悪品を次々に大きなフラスコの中に入れた。

 入れ終わった頃には六割ほどの量になった。まだまだ問題はないだろう。作業を再開する。


 アイテムボックスから材料を出そうとしたら、フヘトナがなくなっていることに気付いた。

 材料が底をつきたのだ。


 仕方がないので外に出ると、日が西に傾き始めてる頃合いだった。きっとイオリは腹の虫が治まらなくてしかめっ面をしているに違いない。

 飯の支度に取りかかるも、頭の中は薬の事でいっぱいだった。


 一体なにがいけない?


 作るたびに服用しているが、味はフヘトナ特有の苦い青臭さがあり、口いっぱいに広がる飲みにくさがあった。

 飲みにくさの改善も必要だろう。なにか材料を付け足しても良いのかもしれない。


 効果は今ひとつといったところだ。鮮度か加工方法か。乾燥したものも何回か使ってみたが、いまいちだった。

 気候、時間帯によっても変わるのだろうか?


 ずっと考えてもらちがあかない。

 身体の調子が全く問題ないからといって、徹夜で作業は良くないのだろう。

 生前は進んで激務を全うし、徹夜なんてちょくちょくあったが、さすが十代の身体。腰も目もこらない。


 俺は必要最低限の事を済ませ、「こんな時間に寝るの~?」と昼食を食べきったイオリの、機嫌が悪い声を無視して床に着いた。


 目を覚ましたのは真夜中だった。

 もう一度寝直すことも考えたが、そんなことをすると、身体が怠くなることは明白だ。

 隣では、イオリが何か言葉にならない寝言を呟いている。俺は音を立てないよう静かに小屋から出た。


 夜中は生き物の気配をあまり感じない。

 ここは夜行性がほとんどいないのだろう。いたとしても自分には害がないのがほとんどだ。


 フヘトナは、案外はっきりと見つけられる。

 水辺の近い場所に、ほかの雑草と混ざって生えている。大きくてもくるぶしくらいの高さで、葉先が丸みを帯びている。必要な分だけ採取した。


 ついでに、薬と相性が良さそうな果実を探す。

 飲みにくい味をしているならば、果実の甘みで緩和できないか、という魂胆だ。薬の質や効能が変わるかもしれないが、やらないよりかはいいだろう。


 だが最近、薬や武器に使える材料は、変わらず見つけやすいが、果実や穀物がめっきりみない。探すのが困難なほどだ。


 最終的に見つからない時は、ゴブリンのすみかに足を忍ばせる。

 食べ残しや、手をつけていない果物が地面に転がっている時があるからだ。すみかの周囲にも、採取時に落として放置しているのもある。


 ゴブリン達は眠りについている。

 俺の存在に気付きそうで気付かない、のんきないびきを掻いていた。


 できるだけ、綺麗な状態の物を拾っていると、果実とともに錯乱しているしなびた葉に、どこか見覚えがあった。

 葉にはゴブリンの噛み後が残っている。鑑定してみるとフヘトナだ。


 周りを改めて見ると、ほかに散乱している果実は、ザクロの形に似たネイブルイエローという果実のみだった。

 ザクロと違って皮が柔らかいのか、皮ごと食いちぎられている。実の綺麗な部分を口に含むと、甘みが強いサクランボのような風味を感じた。


 そういえば、ゴブリン達は執拗にネイブルイエローをよく取っている所を見かけたな。


 フヘトナとネイブルイエロー……。相性がいいかもしれない。

 

 早急に試したい気持ちに駆られながらも、できる限り余分に集め、足早に調合室に向かった。


 フヘトナとネイブルイエローの皮を刻み、実は乳棒と乳鉢ですりつぶす。


 その後、沸騰した湯に入れ、色が変わるまで煮込んだ。材料の質が悪いこともあって2、3回失敗する。だが先ほどよりも確実な手応えがあった。


 まず味が変わった。青臭さや苦みはなくなったが、果実特有の張り付く、別の苦みが出てきた。だが先ほどよりかはマシになっている。効果もやや安定してきた。

 後は材料を煮込む順序を変え続けていけば近いうちにたどり着くかもしれない。


 これならいける、やれる。暗闇の中で俺は手元が狂いそうになりながらも、胸を高鳴らせながら薬の作成に没入した。


「出来た……」


 薬を作成して六日目。俺はそう確信を持った。


***

回復ポーション

 使用すると自身の傷を癒やし、疲労を取り除く。

***

 

 出来上がった薬を鑑定してみると、説明には一つとして「粗悪品」という文字が見当たらない。成功したのだ。


***

回復ポーション

材料 フヘトナ ネイブルイエロー 水


 刻んだフヘトナを沸騰する前に入れ、湯の色が黄色になるまで待つ。

 そこに刻んだネイブルイエローの皮を入れ、変色が起こる前まで煎じる。

 ネイブルイエローの果汁を煎じた湯に入れ、湯の色を橙色に変色させる。

 糟を取り除き、常温になるまで冷ます。

***


 薬生成で確認すると、作成方法の記載が変わっていた。


 実際に作ってみないことには、正しい方法を記載してくれないのか、または材料によって作成方法が違うために、始めは必要最低限の事しか書かれていないのかもしれない。


 味は少し苦みはあるものの、青臭さも口の中に張り付く感覚もなく、後味がほんのり甘く変化した。


 後は、時間が許す限り作り続け、一日でなんとか四本分の回復ポーションを作成する。

 あと四日あれば二十本分用意できたが、さすがにイオリとの約束を破るわけにはいかない。できる限りのわがままには答えていきたいしな。


 外に出ると朝日が昇る前、生き物が目を覚まし始める頃合いだった。空は雲一つとしてない。水色になる前の澄んだ色だった。


 旅立つ日にはふさわしい。

 小鳥がどこかで、旅の無事を祈るかのように声高らかに歌った。

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