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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十話 消えちゃった(8)

「この広い世の中には人から別の生き物に変わるやつがいる。例えば……俺のようにな」


 俺は牙を見せた。


「ひいいっ」


 シュブラックは怯え出した。


「別に怯える必要はないはずだ。どうせ消えたいと思ってるんだろ。命を惜しまなくてもいい」


「……確かに」


 シュブラックは素直に頷いた。


「俺は吸血鬼だ。だが、お前の血なんぞ吸いたくもない。ただ、お前の未来永劫消えたいと言う願いだけは興味深く思ったから、アドバイスしてやることにしたのだ」


  実際のところ、俺は人の血に格付けするほうではない。だからシュブラックの血を吸ってやってもよかったんだが、恐がらせてもいけないと思って嘘を吐いた。


「どうやれば叶うのでしょうか」


 シュブラックは訊いた。


「俺もやったことはない。だが時間と時間がぶつかり合うところに出くわした人間はその痕跡を含めて全てが消え失せる、と言う話を訊いたことがある」


 俺がハロスの一族に迎えられたとき、お袋が話してくれたのだった。表情を歪めていたので、あまり良い話ではないのだろうと思っていたが、シュブラックに話を訊いて、ふいに思い出したのだった。


「時間と時間のぶつかり合うところ?」


「それがわからないんだよな。だが俺はお前とは生きている時間が違う。だから、少しは時間の流れが見れる。この街は過去の時間と、現在の時間が同時に流れている場所がある。俺は何度か通った」


「案内してください」


 シュブラックは祈るように懇願した。


 早速二人は夜も更けた街に繰り出した。革命レヴォリュシオン広場へと。


 真ん中には女神の噴水像があり、水が絶え間なく湧き出していた。


「あの噴水には、過去の時間と現在の時間が流れている」


 ここまで来たのは全くの勘だ。噴水に時間が流れているというのも思い付きだ。


 だが、間違っている気はしなかった。


 このあたりは百年以上前に、たくさんの血が流された場所だと訊いている。


 二つの時間がぶつかり合うのはそういうところじゃなくちゃいけない。


 シュブラックは動くのが早かった。

 

 真夜中なのに流れ続ける噴水に向かって、遮二無二突進したのだ。


 シュブラックは全身がずぶ濡れになっていた。


「どうしたのでしょう。私は未来永劫消えていません」


「……困ったな」


アドバイスが上手くいかなかったときほど決まりが悪くなることはない。

 

「ああ……もうだめだ。俺は一刻も早く此の世から消えたいのに」


 そう言いながらずぶ濡れのシュブラックは女神像に縋り付いた。


 すると、その時だ。


 女神像の瞳が奇妙な色に光り始めた。黄金色にも近い、不思議な光だ。


 突然、シュブラックの身体がねじ曲がった。くの字のように、不自然なねじれ方だ。巨大な空洞がその後ろには広がっていて真っ黒な世界がひたすら広がっていた。


「たっ、助け……」


 シュブラックが命乞いをしたときだった。物凄い速度で穴の中へと吸い込まれていった。


一瞬の出来事だった。


 俺は急いでシュブラックの家に行き、部屋を探そうとした。


 だが、知らない男が出てきてビックリしていた。


「自分はこの部屋に何年も前から住んでいる。シュブラックなんて訊いたこともない」


まさに跡形もなく消えてしまったのだ。

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