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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十話 消えちゃった(3)

「ズデンカ、俺と一緒に行かないか?」


 赤い髪を風に靡かせ、開襟シャツから胸を覗かせながら、ハロスは誘った。


――チッ。まずい相手と出会ったな。


 ズデンカは先日ゴルダヴァでハロスがメンバーである吸血鬼の組織『ラ・グズラ』に加入している。


 ズデンカはそのことをルナや他の者には秘密にしていた。


――なかなかお喋りなやつだ。つい漏らすかもしれない。


 男吸血鬼ストリゴイ女吸血鬼ストリゴアイカは、男女分断がはっきりとしている支族だ。


 男は男を女は女を相手に選んで、暮らす。そのため数は極めて少なく、安易に仲間をふやそうとしないと聞く。


 元より吸血鬼は子供を産めない。己の血を注ぎ込んで闇の子供を増やす。だが、それをあまり積極的にしないストリゴイなりストリゴアイカなりは数を減らしている。


 ズデンカはハロスとはもうかなり前からの顔見知りだが、名前を忘れていたぐらい繋がりは薄い。


 だがなぜかハロスはことあるごとに声を掛けてくる。


 相手を見付けることもしていないようだ。


――よく考えるとずいぶん君が悪いなこいつ。


 とズデンカは思いながら、


「見たらわかるだろ。今あたしは逃げてる途中だ」


 と苛立って叫んだ。


 実際大蟻喰が物凄い速度で昇ってきたところだった。


「あ、お前は!」


 大蟻喰も気付いたようだ。ゴルダヴァ入りを果たした頃、二人は協力してハロスを撃退した覚えがある。


「よくも俺の身体をバラバラにしてくれたな!」


 ハロスはズデンカは睨まず、大蟻喰のほうだけを睨んだ。


「お前が襲ってきたんだろうがよ」


 大蟻喰は吐き捨てるように答えた。


「俺はズデンカに仲間になれって言っただけだ……『ラ・グズ……」


 ズデンカは思わずハロスの口を押さえていた。


「やめろ。ルナには加盟したと伝えてねえんだ」


 小声で囁く。


「ははぁ、いいこと聞いちゃったな」


 ハロスは最初意外な顔をしていたが、やがてニヤリと笑った。 


 幸いルナはふんにゃりとしながらプルプル風に揺られているだけだった。


「お願いだから止めてくれ」


 ズデンカは懇願するように言った。


「じゃあ俺の提案も聞いて貰おうか」


 対価を求めてきた。しかし、弱みを握られてしまった以上の無視かない。


「できることなら」


「簡単だ。俺と一緒に旅をしよう」


「ルナがいる」


「人間じゃないか」


 ハロスは蔑むようにルナを見た。


「人間でも、あたしの主人だ」


 ズデンカは苛立ちながら答えた。


「まあルナとやらが一緒にいてもいなくてもどっちでもいい。俺はズデンカをずっと会いたかった」


 ハロスは答えた。


 ズデンカはしばらく考えた。今はルナを守るべき時だ。なら、仲間は多い方がいい。


 大蟻喰とも亀裂が入りつつある現在比較的自分よりで抑えの効く存在はありがたいほどだった。


 しかしそれを口にのぼせれば町史に載られるだけなので、飽くまで迷惑そうな顔をしながら、


「なら、別に構わない。これからあたしらはオルランドに戻る。お前にも一緒に来て欲しい」


「わかった」


 ハロスは同意した。口の端にはニヤニヤと笑みを浮かべながら。

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