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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十九話 警官の魂(12)

「変わろうとしない言い訳をするな! 俺は死ぬまで変わり続ける。長く生きるつもりはないが!」


 フランツは後ろの声を無視して叫んだ。アルブレヒトを睨み付けて。


 アルブレヒトは答えず、ステファンのほうへ歩いていった。


「ステファン、俺が見えないのか? 何で無視をするんだ!」


 だがステファンは答えない。


「おい、フランツよ。今のは何だ。誰に向かって話してたんだ」


「アルブレヒトと、だ」


 フランツは正直に答えた。


「お前まで変なこと言い出すなよ! 幽霊なんているわけないだろ。人は死んだら神様のところにいくもんだ」


「……そうだな」


 ステファンは頭が硬い。魂が地上をさまようなどと説いても納得しないだろう。


「さあ、フランツさん。戻りましょ。まだぼく食べ足りないんです。カーリンさんの料理取ってもおいちい。アルブレヒトさんもいい加減ご自身が亡くなられているって気付いた方がいいですよー」


 オドラデクはそう言って部屋の中へ消えて行った。


 ステファンはオドラデクの発言にも頭を傾げているようだったが、


「フランツ、お前も戻れ。誰もいないだろ?」


 と声を掛ける。


 ぼんやりと立ち尽くすアルブレヒトを見ながら、まだ怒りも収まらないフランツは扉を閉めた。


「ひさびさに戻ってきたからか? 身体悪くしてたりしないだろうな」


 ステファンは心配そうに言う。


「いや、大丈夫だ」


 フランツは答える。


「そうか……まあ、アルブレヒトのやつもちゃんと神様の元へいけていればいいんだがなあ……」


 ステファンは呟いた。


 怒りに囚われたせいか、少し疲れを感じる。とは言え、あまり悠長にしていられない。


「シュルツさん、魂には会えましたか?」


 メアリーが訊く。


「ああ、まだ自分が死んだことを受け入れられていないようだった」


「そうでしょうね。情報として知っていても、それを事実だと受け入れるまでには長い時間を要します。一年、いや、もっと長い間かも」


「あ、バカ女! ぼくの言ったことパクったなあ!」


「え、何か言ったんですか? 記憶にないですねー」


 メアリーは首を捻ってとぼけた。


 情報通のメアリーなら戸外での会話を聞き耳していてもおかしくはないが、まあオドラデクの被害妄想だろう。


「ともあれ、シュルツさん」


 メアリーは隣に座ったフランツに耳打ちした。


「今後どこに行くか決めていますか?」


「言っただろ? 宿を探そうと思っている」


「まあ、それもいいですが、もっと手頃な場所はありますよ。ミス・ペルッツの『仮の屋』です」


 ルナがミュノーナに『仮の屋』という屋敷を設けていることはフランツも知っていた。というか一度だけなかに入ったこともある。


 ルナが屋敷を購入したときは既に猟人になっていたのであまり行かなかったのだ。


 場所は既に知っていた。もちろん鍵はかかっているだろうが、開け方などは幾らでも知っている。


「ミス・ペルッツはかならずあちらに戻るでしょう。ちゃんと話をしたいのならば……」


「ああ、わかっている」


 フランツは短く答えた。どこか心の片隅ではアルブレヒトの孤独な道行きのことを考えていた。

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