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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十九話 警官の魂(6)

 しかし、ステファンは楽しそうだった。とても愉快な思い出なのだろう。


「何で亡くなったんですか?」


 メアリーは直球な質問をした。


「野垂れ死にみたいな死に方だったそうだ。今年の初めだったか? 職務中に路上で倒れていたとか。しかもこの近くだと。だが、俺が知ったのはしばらく経ってからだった。ここに飲みに来る連中とはみんな友達だったが、日常で連絡を取り合っているわけじゃない。だから死んでも連絡はこないんだよな。昔あんなに遊んでいたのに、十年経ってやっと死んだのがわかった奴とかざらにいるぜ」


 ステファンは誰でも気楽に招く性格だがそこまで呼び込んでいたとは驚いた。


 フランツはその傾向が顕著だが、氏も素性もわからない人間を普通は警戒するからだ。


「へえ、それは興味深い。殺されたわけではないんですね?」


「それもよく知らないんだ。屍体を確認した訳じゃないからな。墓の場所も訊いていないぐらい関わりは薄い。だがちゃんと神様の本で休らっていれば良いなと思っている。あいつと宗教は違うがよ」


「ずいぶん優しいんですね。戦時中は酷い目に遭わされたでしょう?」


 やはりメアリーは訊きにくいところを訊く。しかしフランツも同じことを思っていた。シエラフィータ族を迫害したのは何もスワスティカだけではない。


 一般の、どこにでもいるような人間たちもまた迫害したのだ。


 アルブレヒトもまた、その一人だった可能性すらあるのだ。


「そんな昔のことあーだこーだ言ったって変わらねえよ。実際俺とアルブレヒトは昔の話なんかほとんどしなかった。戦争では大変だったなあ、ぐらいだった。互いのことは詮索しねえ。それが男の友情ってもんだろ?」


 ステファンは気分を悪くする様子なく、どこか懐かしそうに空を見詰めた。


「親友と呼べるほどではねえが、でも赤の他人じゃねえ。話をすれば弾む、そんななかだった。この年にもなってそんな相手が出来るなんて、こんなに嬉しいことはないなあ」


「慕われる人だったんですね」


 メアリーは言った。


「うんにゃ、あまり近所では好かれてなかったな。警官としての仕事ぶりをみたことはないが、相当厳しいやつだったらしい」


「そう言う人がここでだけは優しい顔を見せていたんですね」


「優しいとも違うな。別にそんな多く喋らなかったし、喧嘩もした。でもここにいてくれて嬉しいんだ。あとに残るのは良い思い出だけだ」


 フランツは自分たちがいつしかルナ・ペルッツと似たようなことをやっているのに気付いた。


 ルナは人から話を訊いて、それを手帳に書き留めていく。


メアリーの質問はいかにも丁寧で親切だ。それはメアリーの根っこが生真面目で本人言うところの「鈍才」であることを示しているのかも知れない。


 しかし、訊き手としては要点を外していた。ルナならもっと相手の心まで入り込み、本当の答えを引き出すだろう。


 いや、それどころか死んだ警官の姿を今ありありとこの前に出現させるられただろう。


 だがフランツはそんなことはできない。メアリーのように質問すら出来ず、ただ、考えに耽ってしまうばかりだった。

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