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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十八話 殺人淫楽(9)

  どす黒い血が溢れて飛び散った。


 カミーユは事前に三つ指のジャックも召喚しており、壁として前に立ち塞がらせていた。


「だって、今服が汚れたらめんどくさいし」


 デジレは嗚咽のような絶叫を絶えず上げながら、腕の筋肉だけは機械的に動いて内臓に傷を付けていく。


「今どんな気持ちですか? 心地良いんですか? 私にはよくわかりません。教えてください」


 ジャックに隠れながら、カミーユは目を血走らせて口から血を吐くデジレの顔を見詰め続けた。


「教えてくださいよ。ほら、ずいぶん鋭利なナイフですね。ディナはものを作ることも出来るんですよ? あんなに悦んで殺してたじゃないですか。きっとすごく満足されているんでしょうね」


  デジレの叫びは大きくなる。


「悦んでくれたんですね。よかったよかった。本当に人のお願いを叶えてあげるって癖になっちゃいそう。ルナさんが大好きなのがわかります」


 ルナとデジレの違いがわかった。


 それは本人たちに違いがあると言うよりも、カミーユの心の持ち方問題なのだ。


 ルナの表情を幾らでも曇らせてみたくなるが、デジレがどうなろうと別に知ったことではないのだ。


 一時間ぐらい、カミーユはデジレの様子を観察した。


 何度もナイフ突き込まれて内臓はグチャグチャのボロボロになっており、床一面に血が迸るのでかなり遠くに退避していたが。


「ああ、つまんないな。丈夫にし過ぎちゃったかな」


 帰ろうと思った。


 しかし。


 絶叫を上げ続けていたデジレの首ががくりとなり、項垂れた。


 死んだのだ。まだ筋肉は動いているようで、ナイフを突き刺し続けていた。


 だんだんだんだん動きは弱っていく。


「おかしいな。そう簡単には死なないはずなんだけどな」


 カミーユはディナを動かしてデジレの検屍を行った。


 口を開けるとすぐに舌が噛み切られて喉に詰まっている窒息していることが明らかとなった。


 デジレは自殺したのだ。


「あれ? どうしてなんですか。よくわかりません。殺すことで感じるんじゃなかったんですか? なのになんで自分から死んじゃうんですか? おかしいですよ。納得がいかないです。おかしいです」


 カミーユは繰り返した。


 デジレは嘘を吐いたのだ。


 殺すことで最高の快楽を得るのなら、その時間は出来るだけ長いほうがいい。カミーユはそう思って善意から願いを叶えて上げたのに、デジレが口で言ったことを違えたのだ。

カミーユなら喜んで死んだだろうと思う。実際カミーユは何度も自分を殺そうとしたことがある。他人にを殺させようとしたこともある。


 幾通りも殺される方法を考えたことがある。父に触られていたときも、このまま殺されたらどうなるかと考えていた。


 しかし、そのたびに明日から誰も殺せなくなるのが嫌になって止めにしてきたのだ。

 結局、自分に嘘は吐けない。


「一番大事なところでデジレさんは嘘を吐いていたんですね。本当に残念です」


 カミーユは嫌な気持ちになったがすぐに忘れることにした。


 暇潰しにはなったからだ。


 もう夕方に近付いていた。赤い輝きがドアの外を縁取ったからだ。


 カミーユは歩き出した。ジャックとディナをカードに戻して。

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