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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十八話 殺人淫楽(8)

「何が、願いだ……そんなもんはただ一つだ、あたしはあんたを殺したい!」


 デジレは大声を上げた。


「本当に、そうでしょうか?」


 カミーユは言った。我ながら冷たい声になっていると思った。


「あたしがお前を殺せないとでも思ってるのか? なら、今すぐに……」


 デジレがカミーユの喉をかっさばこうとしたその時。


 ゴキリ。


 骨が激しく鳴る音が聞こえた。


 同時にデジレが絶叫を発した。


 炎の色は完全に青色に変わっている。


 肩の骨が外されたのだから、当然だろう。


 外したのは、先ほど召喚したディナだった。デジレの後ろ側に忍び寄って、素早く両肩をねじり上げたのだ。


「何が起こったのかわからない風ですね。あなたはこの子の姿も見れないようです。でも、これであなたの両肩は使えなくなりました。私があなたのお願いを三つ叶えてあげないと」


 デジレはよだれを吐きながら全身を震えさせていた。


 人の顔がよくわからないカミーユでもそれぐらいはわかった。


「まず、一つ目のお願いを考えてみましょう。あなたは殺し過ぎてトゥールーズにいられなくなったとうかがいました。故郷を離れていろいろな地域を旅して回らないといけないのは苦行でしょう。だから、それをここで終わりにしてあげるというのはいかがでしょうか? 頷いていますね。じゃあ決まり。続いて二つ目です。あなたは殺人に淫らな悦びを感じる。とすれば、たぶん自分で自分を殺すことはあなたにとって最高の悦びに違いないでしょう。かなり機械的に考えましたが、間違いないと思います。もちろん決定。三つ目のお願いもこちらに関係するんですが、自分で自分を殺すことは、特にあなたの得意とするナイフで殺すことはまず不可能です。あなたのその姿では。だから、私の友達のディナがあなたを自分で自分を殺すのに最適化した姿に改造してあげます。どうでしょうか? 頷いていますね。はい、じゃあ決まり」


 本当にデジレが頷いていたのかはよくわからない。だが、カミーユはそういうことにした。話をするのが面倒くさくなっていた。


 殺すと決めたのも自然にだ。本来は味方に付けたほうが理があるのかも知れなかったが、どうにもそう言う想像が働かなかった。


 もちろん善意もあった。


 デジレが人を殺す悦びをこんなにまで強調するのなら、自分自身を殺すという多くの殺人鬼が経験できないことを経験させてあげるべきだ。


 ディナは全体をドロドロと融解させて、デジレの上に広がった。


 その下に隠れて盛り上がったデジレの全身はしきりに痙攣を繰り返していた。


 やがて十分もしないうちにディナはデジレから剥がれ、また元の姿に戻った。


 後に残されたのは背骨が半月みたいに歪曲し、自分の肋骨の真っ正面にナイフを持った両手を突き出したディナの姿だった。


 肋骨から剥き出しになった内臓がとくとくと動いている。


「丈夫にして上げました。一週間ぐらいは死なないでしょう。思う存分突き刺しましょう。自分で自分を殺しましょう。さあさあ」


 カミーユは急かした。


 それとともにディナの両腕の筋肉が動き、己の内臓を何度も何度も突き刺し始める。

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