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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十八話 殺人淫楽(7)

「うわー、共感できます! 私も父に触られたりとかありましたし、それに……あなたと同じように父を殺している」


 カミーユは出来る限り人なっこく言った。ここは、もう一人の人格を見倣うべきだ。


 共感と言ってみたものの、より正確に表現するなら自分の人生においてわずかに一致する部分を発見して興味深く思ったという方が正確だろう。


「カミーユちゃんもかー。そうそう、女ならありふれてるよね。男はそこんとこをよくわかってないやつが多いよ」


まるで友達かのような口調で、デジレは返す。


「でも、ここは違うなあと思った部分もあります。殺人に関するところです」


「へえ。そうなんだ。どういうところ?」


 デジレの声が少し震えた。


「残念なことに私は生き物を殺しても特になにも感情が動かないんです。ただ、殺したいなと思ったら気がついたら殺している、小さい時からそんな風でした。ですから、あなたのいう淫らな感情というものもなにか理解できないんです」


「そ、そうなんだぁ……恐れ入ったね」


 デジレの赤い炎のなかに急に青いものが混じり始めるのをカミーユは見て取った。


「些細な違い……そう些細な違いなんですけど、どうも私とあなたは決定的に違う……そんな風に思うんです」


 カミーユはトランプを繰り始めた。


「ええ、そりゃそうだろうよ。殺人で感じちゃうなんてなんてあたし、異常者だよね。まだまだふつーな、カミーユちゃんにはわからないよね」 


「いえいえ、異常だと思わないですよ。殺人で性的に興奮する、別にそれはおかしなことではなくて――いえ、一般の人と比べればおかしいって言えるかも知れませんけど、殺人者の間ではとても普通だと思うんです……別に私も多くの例を知っている訳ではないです。いくらか本で読んだぐらいで……でも、そう言う例は極めてよくお目にかかるんです。殺人で性的に興奮する犯罪者、なんてありふれていて……まあありていに言えばつまらない」


「なんだって!」


 デジレはいきり立ったようだ。赤い炎が燃え上がったのだから。しかし一方で青い炎も同時に燃えていた。


「付け加えると、わたしは別に自分を異常だとか思ったことないんです。逆に普通だと思ったこともない。そんな軸で考えてるデジレさんみたいな人がいるんだなあって大変興味深く思えてしまいました。普通を対極とした異常。でも結局それは普通という定規に縛られているわけだから、どれだけ計ってみても結局は普通のうちに収まるんじゃないですか? とても、ありふれている」


 カミーユは椅子と一緒に引き倒され、床に押し付けられるのを感じた。


「喋れば喋るほどむかつく女だねあんたは!」


 デジレがのし掛かってきた。


 首筋にナイフが当てられている。確かに頸動脈を狙っている。多くを殺してきたのは確かなのだろう。


「どんだけ偉そうなことほざいても喉笛を掻き切っちまえばお終いだ。どうだい? 怖いかい? つまらない女に殺される気分はどうだ?」


「あいにく怖くもないんです」


 カミーユは短く答えた。


「でも、あなたのお願いは叶えてあげたいです」

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