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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十八話 殺人淫楽(3)

 ひさびさに狩人のような感覚になった。


 獲物を見付け、どこまでも追いかける。


 絶対に逃がしたりしないように。


 やがて、小さな住宅が見つかった。粘土塀の粗雑な建物が立っている。


 扉は開いたままだった。


 カミーユは特に躊躇うことなく内部に侵入していた。


 ヒビの入った木製の机が一台、部屋の真ん中の置かれていた。上には花の枯れた花瓶一つ。


「誰かいませんかー?」


 カミーユは声を上げた。


 二階に続く階段があった。


 カミーユは登り始めてすぐに気付いた。


「あ、これズデンカさんだったらすぐに気付くかも」

 

  血の匂いだ。


 それもずいぶんと新鮮だ。


 新しく流された血のように思われた。


 殺しだ。殺しが行われたのだ。


「面白くなってきたな」 


 カミーユはワクワクした。


 先ほど悲鳴を上げたのが犠牲者だろう。カミーユは類推した。


 低い声だったので、おそらくは男だ。


 殺したのは男か? だが二階にはベッドルームがあると決まっている。


 ならば女だ。


 ベッドの上で殺すのはありふれたことだ。


 カミーユは全くの勘に突き動かされるままに、一つの部屋へ突進した。


 ドアを物凄い勢いで引き開ける。


 途端に身構えドアの隙間からなかを窺い見る。


 半裸の女が、横たわった男の喉笛を引き裂いてていた。


 カミーユはすこしがっかりした。もう少し独創的な殺しだったらよかったのに、想像したとおりではつまらない。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 女はかなり興奮しているらしく全身を上下に激しく動かしていた。


「殺し慣れているようですね」


 カミーユは声を掛けた。


「誰?」


 女はゆっくり顔を上げた。あまり驚いている風でもない。カミーユはますます殺人を日常的に繰り返して人間のものだと思った。


「あなたと同じように殺し慣れている者です」


「そうか。殺すのは楽しいからね!」


 女は声を上げた。


「あなたのお名前は? 私はカミーユ・ボレル」


「ああ、処刑人の。あたしはデジレ。トゥールーズの生まれだよ。ここに流れて来たのさ。殺しすぎていられなくなったからね」


「ご同慶の至りです。デジレさん。お会いできて幸いです」


「あたしの殺しを見て生きて帰れるとでも?」


「おや、あなたは私が処刑人だって知ってるのでしょう? なら実力ではとても叶わないってわかるはずです。口先だけですぐに負ける雑魚キャラみたいな自己紹介の仕方ですかね? でも正直私は強いです。あなたでは無理でしょう」


「そうだね。とても無理だ」


 デジレは何度も男の首を刺し貫いていたナイフを床へと放り出した。


「力のないあたしが殺せるのは、こいつみたいな身体目当ての男だけだよ」


「私も祖母に技術を教えて貰わなければ、あなたのように殺していたでしょう。とても責められませんよ」


「あんたのような殺しの天才と出会えるなんて思ってもみなかった」


「私もです。他の殺人者のかたにお目に掛かれる機会なんてほとんどなかったですからね。どうですか、服を着終わったら少し下でお茶でもしませんか。ここはあなたの家じゃないでしょう」


「ああ、男の家だ」


 デジレは短く断った。


 カミーユは少し話を訊いても良いかと思い始めていた。

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