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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十八話 殺人淫楽(2)

 カミーユは無視した。


 ヴェサリウスが着陸すると、すぐにグラフスは剥がれ落ちて人の姿になった。


「やっぱこっちがいいなあ。さっきの方が向こうの世界にいた頃の姿に近いんやけどな」


 グラフスが問わず語りを繰り返していたがカミーユは一切感心を抱かなかったので無視を続けた。


 街に入るまで三十分まではかかった。


 それぐらい用心したのだ。ヴェサリウスもすぐトランプのカードに戻してデッキのなかにおさめた。


 グラフスは本当に口が回る。次から次に関係のないことばかりしゃべくってくるのでカミーユは辟易した。


「この街の名前はなんて言うんかなあ、訊いてみたいなあ」


「あなたこちらの言葉が出来ますか? 私は出来ません」


 カミーユは答えた。


 そう言えばグラフスはカミーユの母国語であるトゥールーズ語で話している。


「おれは言葉は出来るで。まあ気合いやな。相手の喋る言語で自然と話せるようになるねん。あんさんは不得手なようやな」


「ええ、二三なら話せるんですが。通訳する方法もあるにはあるんです。でも、少し面倒で……」


 シャンパヴェールのトランプに封じ込まれた妖精のディナは他者の言語を通訳する事が可能だった。しかし、あのような者が室内に出現した場合相手を怪しませること限りない。


 それと比べれば気まぐれながら怪しまれず通訳の役割をこなせるグラフスは役に立つ。


「じゃあ、頼みますよ。火急の場合だけで良いので。あとは私が何とかします」


 二人は街中に足を踏み入れた。


 すぐに人波が迫ってきてカミーユは飲み込まれた。


「やれやれ。参りましたね」


 流れに押されるようにカミーユは進んだ。大通りに向かって皆進んでいるようだ。


 そう言えば今日は夏の祭日だったことを思い出す。


 奇妙な仮面を被った人と何度もすれ違った。


 何か謂われがあるのだろうが、カミーユは詳しく知らない。


 ルナ・ペルッツなら事細かに説明するできるだろう。


 大通りにつくと、カミーユは人の少ない方向を目指して歩いていった。


 祭日なので皆屋台のほうへ群がっていくから、あまり屋台の少ない道が狙い眼だった。


「ふう、抜けられました」


 と横を見ると案の定グラフスがいなくなっていた。


「これはまたちょっとした異常事態ですね。でもまあ、よしとしましょう」


 鬱陶しい奴がいなくなったのはよかった。誰もいない石畳のずっと続く通りになったのでカミーユはディナを召喚して家の間に潜ませた。


シャンパヴェールの妖精たちはカミーユの意識と連動しており、自在に動かすことが出来る。


 手に入れたのが戦争直後なのでもう十年以上にもなるだろうか? 


 その時のことを詳しく話せば、まさにルナ・ペルッツ好みの綺譚おはなしとなるだろう。


 カミーユ・ボレルはまたしてもルナに合いたくて堪らなくなるのだった。


 と。


「うぎゃあ」


 くぐもった悲鳴が近くで響いた。


「あ。殺されるときの声だ」


 カミーユは直感で気付いた。


「どこかなあ?」


 ワクワクしながらカミーユはあたりを探した。ディナもゆっくり移動させていく。出来るだけ人目に付かないように家と家の間の細い壁を縫うように這わせて。

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