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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十八話 殺人淫楽(1)

――ネルダ共和国南西部


 ナイフ投げカミーユ・ボレルは人工で作られた妖精ヴェサリウスの肋骨に跨がりながら空を飛んでいた。


「殺したいな」


 カミーユは一言呟いた。


「ぶっそうやな」


 ヴェサリウスの肋骨に蛹のようなかたちになって縋り付いていたグラフスがパクパク口だけ動かした。


「だって暇潰しにはそんなことをやるより他にないでしょう」


「そんなことで暇を潰すような奴あんたはんだけやん」


「でしょうか? 案外けっこういたりするかも知れませんよ? ふふふふふふ」


 カミーユは笑った。


「いいひんいいひん、あんたみたいなやつ、何人もいたら普通に怖いわ」


「この世界は怖いところですよ。私の生まれる前も死んだ後も」


 カミーユは答えた。


 さすがに面倒くさくなっていた。


 なぜこんなよくわからない生物と旅をすることになったのだろう。それなりに合理的な理由はあるにはあるのだが、今はもう相手にしたくもなかった。


 とは言え、そのような疲労をカミーユは表には出さない。


 確かにカミーユは生まれつき人を殺してはいけないと思う感情が欠落していた。


 とは言え、他の感情がない訳ではない。怒りとか憎しみとか言う単純な感情ならそれなりには理解出来るのだった。


 数多い感情のなかでカミーユが一番強く感じるのが退屈さだ、トゥールーズで祖母の元を飛び出したのもそれが原因だった。


 もっとも、もう一つの人格の方がもっと強くそれを願い、動いたのだが。


 カミーユが今のカミーユのままなら脱走など思いきったことは決してしなかっただろう。


「俺も別に人間なんか何とも思っていいひんけど、同族ならさすがに躊躇するわ。オドラデクでもな。それをあんたは殺したいという、やっぱり異常や」


「異常で結構じゃないですか。退屈のままで正常よりも楽しくて異常のほうが好きです」


 カミーユはそう言った。


 幸いなことにグラフスは黙ったようだ。


 カミーユはどこか降りれそうな場所を探した。


 スワスティカ元宣伝宰相ジムプリチウスは、己が作り出した『告げ口心臓』をトルタニア大陸各地に拡散させたいらしい。


 ルナ・ペルッツを追い詰めるのが目的だったが、ジムプリチウスはその理由は開示しない。


 カミーユもまたルナをメチャクチャに壊したいと考えている。


 本来ならただ殺すだけなのに、ここまでおかしくしてやりたいと思う相手は初めてだ。


「ルナさん、待っててね」


 カミーユは呟いた。


「ルナってやつはおれは会ったことないねん。一度話して見たいわ」


「誰とでも話せる方ですよ。もちろんあなたともすぐ仲良くなれるでしょうね」


「そりゃ楽しそうやなあ」


 眼下に町が見えてきた。石畳の多い古そうな町だ。


「あそこ、気になりますね」


 カミーユは指で示した。


「なんて街や?」


「知りません。まあ、おりてみましょう」


「いい加減やな」


 ヴェサリウスはゆっくり降下を始めた。


 もちろん、街の住人にこんな化け物を見られては騒ぎになるので、ある程度距離を保った場所を探す。


「おれもこんな場所でじっとしてるのは嫌やったさかいなあ、都合がええわ」


 グラフスは言う。

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