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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十話 女と人形(11)いちゃこらタイム

 ズデンカは近くの繁華な街まで送り届けた。ルナはなぜか、メリザンドの個人を証明するものやロランの資産関係にまつわる書類を事前にくすねていたらしい。


 いきなり封筒から出してポンと手渡したのでズデンカもメリザンドも驚いていた。


「執事たちがみんな地下に降りていたからね。メリザンドさんの防音対策のお陰だ」


「世間知らずのお前らしくもない」


「最近、ちゃんとしなきゃなってつくづく思い知らされる出来事があったからだよ。これがあれば、当座はしのげるでしょう」


と言って気前よく札束を手渡した。


 ズデンカは渋い顔をする。ルナがこう言うことをやるのは今回が初めてでないと知っていたからだ。


「こんなに! 受け取れません!」


 メリザンドは首を振るが、ルナは強く札束を押し付けた。


 「これも含めてお願いを叶えたってことで!」


 ルナはそう言ってマントを翻し、すたすたと歩み去った。


 ズデンカはしっかりついていく。


「これで何人目だ? お前が人生を変えたのは」


「さあね。よっこいしょっと!」


 ルナは馬車へよじ登った。幌はもう上げられている。


「口先じゃ構わないでいてあげる優しさとかかっこつけやがって」


 と言いつつ馭者台に上がるズデンカ。


「メリザンドさんは教育もちゃんと受けている。何の心配もないさ」


「頭で考えるの実際にやるのは違うだろう」


「また気難しいこと言っちゃって。それより……ぷぷぷ。君が女は人間なんて言い出したのには後から思い出しても笑えてくるよ」


「何がおかしいんだ」


 ズデンカは無表情のまま手綱を握った。


 馬車は走り出す。


「お元気で!」


 メリザンドは大きく手を振って二人を送った。


 ルナは片手を軽く上げてにこやかに微笑むだけだった。


 冬枯れの季候とは言え、道脇の針葉樹は立派な葉並を見せていた。雪の訪れがないせいだろう。


「自然に浮かんできたんでな」


 弁解するようにズデンカは付け加えた。


「人間じゃなく、吸血鬼の君がか?」


 ルナは追撃した。


「じゃなくても共感することはある」


 ズデンカはどことなく恥ずかしそうに言った。


「まあ、わかるけどね」


 しばらく間を置いてからルナは静かに言った。


「お前にわかってもらおうとは思っていない」


「分からなければこうやって一緒に旅はしてないよ。ぶっちゃけた話、人は自分と違う意見を持つ相手とは共存していけないものなんだ。対話を重ねてわかり合おうなんて幻想だね」


 ルナは立て板に水のように元気よく話した。体調は戻りつつあるらしい。


「世間で正しいといわれていることの逆ばかり言うなお前は」


「だいたい、この世の中にいったいどれぐらい人がいると思っているのさ。知り合える量なんて限られてるし、親しくなれるとも限らない、むしろ関わらないほうがいいやつばっかりだよ」


「ひねくれた見解だな。だからお前は友達がいないんだ」


 ちょっとグサッときたのかルナは身を乗り出して、


「でも、関わらない方がいい奴もいるってことは君も同意するだろ?」


 と勢い込んで訊いた。


「まあ、それは分かる」


 ズデンカは頷いてやった。


「だろ? 君とわたしはまあ何となく話は通じる。でも、通じ合えない者どうしなら会話するのは苦痛だ。わざわざ関わりを持つ必要はない」


「そこまで人間関係にこだわるお前があたしにはわからん。自然と続いて行くやつは続いて行くし、それっきりのやつはそれっきりでいいだろうがよ」


「君と同じことをわたしは言葉を変えて言っているのさ」


 ルナは鼻息荒く腰に手をやった。


「そう言うことにしといてやるよ」


 会話はしばらく途切れた。


「幌を外したのは間違いだったな。寒すぎる」


 ルナは毛布を引きずり出した。


「じゃあ戻してやるよ」


 馬車が止まった。


 ズデンカはわざとゆっくりと幌をつけてやり、寒さに縮こまるルナの顔を見つめていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章がとても読みやすく、気軽に読み進める事が出来ました。 サスペンスとファンタジーが混ざったようなちょっとダークな独特の世界観も味があって良いと思います。 また、一章毎にしっかりと話がまと…
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