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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十七話 酒宴(3)

「降ろして! 降ろして! お酒呑みたい!」


 ルナは喚いた。


「喚くな! あたしが連れてってやるからよ」


 ズデンカは仕方なく歩き出した。


他の連中もゾロゾロと尾いてくる。


「ここだよ、こっちだよ!」


 ルナに言われるままに狭い路地に入り込んだ。


 背負って行ったらルナがへしゃげてしまうので降ろして。


「ここで夜になったら抜けられなくなるかもね。体型が変わるんで」


 細身のバルトロメウスは悠々と横歩きで移動しながら冗談を言った。


「なら、夜になるまで待っちゃおうかな」


 大蟻喰が応じる。


――あたしの前ではこんな冗談に答えようとはしねえだろうな。


 と一瞬だけ思いながらズデンカは両側の壁に手袋を嵌めた手を置きながらよたよた歩くルナの姿を追った。


「ほんとに酒なんか飲めるのか。借りにあったとしてお前に呑ませてくれるのか?」


 ズデンカは疑わしかった。


「呑ませてくれるさ。お金が幾らでも出すよ! それにもしかしたら綺譚おはなしも訊けちゃうかも!」


「それが目的かよ」


「『それも』だよ。飽くまでも、お酒。お酒だよ。酒が飲めるなら万里だって越えてみせるさ!」


 ルナは自信満々に言った。


「大袈裟だな」


「お酒、お酒♪ 呑みたいなあ!」 


 ルナは速度を早めた。


 屋根が傾いて、路地の片側にせり出した家が見えてきた。


「あそこだ、あそこだよ!」


 ルナが指差す。


 さっそく歩き出してしまった。


 ほとんどボロ屋に近い。


 ズデンカは警戒を怠らなかった。何が出てくるとも限らない。


 いや、普通の男が出てきても怖いのだ。


 ルナなら抵抗手段があると言っても、不意を突かれたらどうなるか。


 特に酒の席ではそういうことが起こりやすいと、ズデンカは経験則からよくわかっていた。


 急激に心配になったズデンカは速度を早めてルナに寄り添った。


 門も取り付けられておらず、中庭はもちろんない。壁も半壊しており、匂いはそこから流れて来たものと疑えた。


――どんな貧乏人だ。


 ズデンカはますます警戒を強めた。貧乏人だからと言って決め付けるのはよくないかも知れないが、ルナのような金持ちが接すれば危険な目に合う可能性は高い。


 ズデンカはそう思った刹那、前に走り出ていた。


「あたしが先に行く」


 ズデンカは酒の匂いがわからない。だからひたすら突き進んでいくしかない。


「おい、誰かいるか?」


ズデンカは破れた床板を踏みつけながら侵入した。


「ういい!」


 すぐに見つかった。赤ら顔の中年の男が瓶を前に座り込んでいた。隣には同じ年代の男が二人。


「うわっ、酒臭っ」


 かなり後ろでジナイーダが叫ぶ声が聞こえた。まだ吸血鬼ヴルダラクになって日が浅いので血以外への臭いを判別する嗅覚が死んでいないのだろう。


テーブルには汚れた瓶が二本置かれていた。


「大した酒宴じゃないか!」


 ルナは叫んだ。


「ただのおっさんの飲み会だろうがよ。早くずらかろうぜ」


 ズデンカは小声で言った。


 だが時既に遅し。


 酔っぱらいたちはルナ方を一斉に見た。


「はあ、おまえ誰だあ? 男かあ」


「馬鹿言え、えらくべっぴんな女じゃねえか。それも二人だ」


 下卑た声が次々にあがる。


ズデンカが大体予想していたとおりだった。

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