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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十六話 究極の責め苦(6)

「抽象的過ぎる。物語が全くない。お前の心象風景などに興味はねえんだ」


 ズデンカは思ったことをそのまま述べた。


 実際、ほとんど理解不能な話だった。


 物語もなければ、オチもない。孤独だ寂しい、その程度の感情が伝わっただけだ。


 自らの過ちを悔いている風でもない。召喚した人間に対してすまないと考えているなら、もう少し誠意を見せるだろう。


「でも、いろいろわかることはあったよ。確かに綺譚おはなしとして決着はついていないかも知れないけどね」


 ルナは羽ペンをしまった。


「決着をつけてない話は集めないんじゃなかったのか?」


「これからつくかも知れないし、集めるよ」


ルナは微笑んだ。


「これからつくのかよ」


 ズデンカは呆れた。


 いつものやりとりが戻ってきた感じがした。ズデンカは幸せだった。


「願いを一つ叶えることにして旅をしているのですが、うちのメイドが言ったように今のままではグラシャボラスさんの願いは叶えられそうもない」


「願いなどない。仮にあるとすれば、私という存在を消してこの全ての孤独を終わらせてくれることを願っている」


「あ~、こりゃやっかいだなあ」

 ルナは脱帽し、頭を掻いた。


「帰ろうぜ。こんなところに長居しなくてもいい。モラクス、お前が望むなら置いていくぞ」


「置いていくな」


 モラクスは焦った。


「何で焦るんだ? 悪魔は悪魔らしく悪魔の友達といりゃあいいじゃねえか」


 ズデンカは嘲笑った。


「いや、確かにグラシャボラスは友人だが俺は世俗にまみれていた方が……」


「あ? よく意味がわからんぞ? もっとはっきり言え」


 ズデンカはルナにあたらないよう入念に注意を払いながら、モラクスの牛の首をブンブン振り回した。


「はっ、はいいい、いっしゅにたびがしだいでづうう」


 モラクスは振り回されながら叫んだ。


 ズデンカは何も言わず牛の首を背嚢深くに収めた。


「よし。これでこいつは片付いた。あとはグラシャボラスだ」


「戻ってくれ。私と話していてもいいことはない」


「うーん、でもなあ。何か一つしてあげたいんだけどなあ。うーん」


ルナは首を捻った。


 こういうあたり、ルナは妙に博愛主義的だ。ズデンカは人を見切るのは早い。


 その割りに妙に肩入れする相手には肩入れしてしまうのが自分でも嫌になるが、すくなくともルナのようにグラシャボラスとやらを助けてやろうとは思えない。


「しかし、ここにはあたしらとこいつしかいない。物語も何も起こりっこないじゃないか」


「でもわたしは力が使える。例えばグラシャボラスさんの記憶するヴァーツラフさん――あ、たぶんグラシャボラスさんはご存じないですね。あなたがフラバルで粉々にしてしまった青年の名前です――を出現させることだって出来るよ」


「あいつはほとんどヴァーツラフと話していねえんだ。大した記憶じゃねえだろう」


「でも本人のなかでは大事なはずだよ」


「いや、別に蘇らせてくれなくてもいい。どうせまたおなじことを繰り返すだけだ。それに私のなかではあの青年の言葉は残っているが顔はもう……どうも私にはあの青年の言葉のほうが重要で、顔はどうでもよかったようだ」


 グラシャボラスが答えた。


「なら、その言葉を実行に移してみるのはどうですか?」


 ルナはウインクした。

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