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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十六話 究極の責め苦(4)

「なぜ、ルナに会わせる必要がある?」


 ズデンカはうざったく感じた。


 とは言えルナに話したらすぐに興味を惹かれてこちらにやってくるだろうと思った。


――今もちょっと不安定だから気晴らしにでもなるかも知れない。


 それにモラクスの言うことも一理ある、自分たちのような悪魔や吸血鬼と違って、人間なら、グラシャボラスもまた違った内容を話すかも知れない。


「……わかった」


 ズデンカは考え直して歩き出した。


 戻りも当然沼地には気を付けた。こう言う時は油断したら落ちてしまうこともある。


「もしお前らが何かしてこようものならすぐ八つ裂きにするぞ?」


 震え上がるモラクスを脅し付けながらズデンカは出来る限り急いだ。


 沼を抜けると、ズデンカは駈け足になった。


 ルナは大蟻喰と何か話していた。


「おい、ルナ」


「どうしたの?」


 振り返るその顔はまだ青い。


「前、フラバルの宿屋で悪魔の話を訊いたろ? お前も手帳に話を書き留めたはずだ」


「うん」


「その悪魔……らしきやつが向こうのほうにいた」


「え! ほんと!」


 ルナの顔が即座に輝いた。


 効果は覿面てきめんだったようだ。


「ああ、名前はグラシャボラスだそうだ」


「重要な悪魔じゃないか! 絶対に綺譚おはなしを訊いてみたいよ!」


 ルナはぴょんと跳ね上がった。


「じゃあついてこい。手は繋ぐぞ。ジナイーダ。後は頼む」


「わっ、わかった」


 ジナイーダは露骨に嫌そうな顔をする大蟻食を伺いながら焦っていた。


 ズデンカはルナが沼に落ちないよう、しっかり手を繋いで歩いた。


「相変わらず冷たいね」


 ルナは手の握り心地を告げる。


「そりゃ死んでるからな」


 あまり苦労せず辿り着くことが出来た。二回も繰り返せば、さすがにどこに沼があるぐらいは勘でわかるようになる。


――あたしの頭も捨てたもんじゃねえな。


 と考えたところでズデンカが自分が頭脳を持たないことを思いだした。


「ルナが来たぞ。おいグラシャボラス。お前にも言って置くがルナに妙なことをするなよ?」


 ズデンカはまず初めに釘を刺しておいた。


「あなたがあの有名なグラシャボラスさんですか?」


 ルナはすぐに訊いた。


「ああ。大したことを話せはしない」


「こいつはなんか――あたしにはよくわからないが、究極の責め苦のなかにいると話していたな。それは常住坐臥どこでもやってくると」


「わかりました。それは孤独でしょう。孤独の地獄だ」


 ルナはすぐに思いついたように言った。


「よくわかったな。永遠に続くような孤独のなかに私はいる」


 グラシャボラスは答えた。


「誰しも孤独は持っていますが、あなたの孤独はあなただけのものだ。こうやって誰かと話しても、おそらくその孤独は癒えないのでしょう」


 ルナは続けて言った。


「ああ」


 グラシャボラスは力なく頷いた。


「他にこいつはお前が前言った、悪魔やあたしら吸血鬼が人間に想像によるものかも知れないという話もしていたぞ?」


 ズデンカは言った。


「うん。いまでもそれはそう思うよ。でも、悪魔がみずからそう思うなんてね。でも、孤独の地獄にいればそれも不思議では無いかも知れないね……さて、グラシャボラスさん」


 とルナはお馴染みの古びた手帳と鴉の羽ペンを取り出して、


「あなたの綺譚おはなしを訊かせてください」


 と言った。

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