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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十六話 究極の責め苦(3)

「吸血鬼も悪魔も全て人間が想像の物語のなかにに描いたのが始まりだと言いたいのか?」


 ズデンカは訊いた。


 馬鹿らしい話に思えた。


 ズデンカはヴルダラクの始祖ピョートルと出会っている。吸血鬼も悪魔も昔から存在していたことは史書によりあきらかだ。

 

 だが、史書も含めてそれが全て人間の空想から出たものだとしたら?


 ルナが言うことだからか、それは妙に現実的なものとして思え始めた。


「察しが良いな。その通りだ。全ては人間が作り出したものだ」


「同じことを話してた奴がいてな」


 ズデンカは答える。


「そうか。私は別に誰かから聞いたわけじゃない。自然と舞い降りてきた考えだ。究極の責め苦のなかでな」


「究極の責め苦?」


 ズデンカは驚いた。そういえばグラシャボラスはさきほどから頭を抱えていた。


 何かに苦しんでいるというのだろうか?


「私はもうしばらく前から究極の責め苦のなかにいる。それは常住坐臥、どこへでも訪れてくる。離れられない」


「訳がわからんな」


――哲学みてえだ。


 哲学はズデンカにとっては一番理解できない学問だ。あたまのなかであれやこれやと想念を弄くりまわして、何一つ結果を出すことがないもののように見える。


 ルナはとても好きなので、何度も小難しい話をされたが、ズデンカは飽きてしまった。


「先日ここにやってきた頃からそういう観念に苦しめられるようになった。身体には何ら苦痛を感じないのに、私は責め苦を受けている。私は――悪魔の存在意義とは何なのだ? 人間が作り出したものならば、今ここでこう考えている私は一体何者なのだ? 今まではこんなことを感じたことすらなかったというのに」


「確かに昔はそんなこと言ってなかったなあ」


 モラクスは目玉をぎょろぎょろ動かせながら考えている。


――こいつはあたしと同じで単純みたいだな。


 ズデンカは少し安心した。


「お前の存在意義なんざあたしは知ったこっちゃねえよ。あたしが訊きたいのはこれだけだ。このフラスコのなかにあるものを知っているか?」


「いいや、知らない。だがあまり良くないものだとはわかる」


「あまり良くないだと?」


「それは我々悪魔にとても似ているが別物だ。何か人工的に作り出された力のように思える」


 モラクスが臭い臭いと叫んでいたのと、ほぼ同じ意味だろう。


 モラクスは、ナイフ投げのカミーユ・ボレルがトランプから次々と生み出して見せた化け物どもからも同じ臭いを嗅ぎ取ったと言っていた。


 カスパー・ハウザーが編み出した悪魔に似て非なる生命体を製造する技術、その原型になったと推測される、ルナが生まれつき持つ幻想を実体化させる能力、そして、悪魔や吸血鬼などは人間の想像から生まれたのかも知れないとする思想――


 繋がりそうで繋がらない。


 ズデンカはイライラした。


「それだけか。じゃあもう用はないな」


 ズデンカは後ろを向いた。


「ま、待て待て」


 モラクスが焦ったように言った。


「あいつ……ルナだったか? 何しろ、あいつは人間だ。俺たち――悪魔や吸血鬼とは違う。あいつならグラシャボラスと上手く話が出来ないか?」

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