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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十六話 究極の責め苦(1)

――ヴィトカツイ王国北部



「で、手掛かりってのは何だ?」


 綺譚蒐集者アンソロジストルナ・ペルッツのメイド兼従者兼馭者だが今は徒歩の吸血鬼ヴルダラクズデンカは、質問した。


 相手は虎人間のバルトロメウスだ。夜が訪れてきたので、青い毛並みの虎に変わっている。


 つい先ほどまでルナ一行はポトツキ収容所の跡地内を歩いていた。


 過去いた場所を探っていけば、何か手掛かりが見つかるだろうかとルナが言ったので仕方なくズデンカも付いていった。


 ところが何も見つからずルナは過去のことを思い出して苦しむばかりだったのだ。


 そんななか、バルトロメウスは手掛かりが見つかったと主張した。


 詳しい話は収容所跡を出た後で話すと言われたので、ズデンカはやきもきしながら時間を過ごし、出た後で即座に話し掛けたというわけだった。


「まあ、僕は詳しくは知らないから、推測ではあるがね」


 と言いながらバルトロメウスは服のポケットから小さなフラスコを取り出した。


「何だそれは?」


「オルランド語で『抽出物』とある。何かどす黒い色の塊がなかに渦巻いているね」


 確かに言葉通りだった。


 ズデンカは嫌な予感がした。


 『抽出物』とは、カスパー・ハウザーが幼いルナの能力から何かしら引き出したものではないのか。


「おい、ルナ。これはなんだ」


 ズデンカは直接訊いてみることにした。


「知らない。でもこれに似たフラスコはたくさん見た気がする」


 ルナはぼんやりした目付きで答えた。


「ハウザーはここからきっと部下たちに力を与えたはずだ。そして、あの『鐘楼の悪魔』を作り出した」


「そうかも知れない……でもごめん。わたしはそれが作られるところを見ていないんだ」


 ルナは顔を背けた。


 これ以上は聞き出せそうもなかった。


 ズデンカは悩んだ。


 最近目に見えてルナは元気がない。


 過去を思い浮かべる機会が多かったのだからそうなるのは当然だが、ズデンカは自分がフラスコを見せてしまってさらに辛くさせてしまったのではないかと不安になった。


「いや、謝る必要はねえよ。あたしがこれを何とか解析してやる」


 とは言えズデンカは科学者ではないから、何もわからない。オルランドに戻れば別としても今はあてがまるでなかった。


「それは、誰かに悪影響を及ぼしたりしない?」


 ズデンカの闇の娘であるジナイーダが訊いた。


 もっともな質問だ。


「わからない。長く収容所跡にあって誰の手にも渡っていないと考えれば特別な吸引力があるとは思えないが……」


「蓋を開けない限りは大丈夫かな?」


 ズデンカは背嚢を開いて牛の首のかたちをした悪魔のモラクスを引き出した。


「おい、悪魔。臭いを嗅げ? どうだ」


「しないな。ごく微量だ。それよりもこの近くには……ふむ。ずいぶん懐かしい臭いが知るな」


 モラクスは鼻をひくつかせた。


「何か見付けたのか?」


「俺の指示する方へ歩いていけ」


 ズデンカは悪魔に従うのは癪だったが、何か新しい驚異と遭遇しないとも限らないので、ジナイーダに待っているように言い置いて歩き出した。

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