第八十五話 決闘(7)
カミーユは張り付いたような笑みを浮かべ続けていた。
「フランツさん、あなたはどうしたいんですか? 私とメアリーの問題に首を突っ込んできて?」
声は朗らかだがこれは実質的に脅しだ。
「俺は……」
「あなたはスワスティカだけを狩っていればいいんです。私とジムプリチウスさんを個人的にリスペクトしてはいますが味方ではない。それぞれ思い思いに動いているだけです。あなたがジムプリチウスさんを殺すと言うなら、それを止める謂われは私にはありません。さあ、メアリーなんて置いてどっか言っちゃえばいいんです。これで、あの娘はまた独りになるわけですね」
あくまでカミーユは口調を荒げずほんわかと言う。
フランツはカチンときた。
――なぜ、お前に俺の態度を決められないといけない?
フランツは怯えを振り払った。
「俺が代わりにお前と決闘する。メアリーをいじめるのは止めろ」
フランツは言った。
メアリーとカミーユの問題に顔を突っ込むつもりはない。だが、
「シュルツさん!」
メアリーが悲痛に叫んだ。
――あなたでは勝てません、と言いたいのだろう。だが、勝てるか勝てないかはやってみないとわからないだろ?
「いじめる? 私苛めてませんよ。でも決闘とは面白いですね。乗りましょう」
カミーユはメアリーから離れてフランツの元に歩いてきた。
「オドラデク!」
フランツは後ろでドタバタ土煙を上げながらグラフスと取っ組み合いの喧嘩を始めていたオドラデクへ声を上げた。
「はへ?」
グラフスに髪を引っ張られながらオドラデクは振り向いた。
「剣になれ! 戦うぞ!」
フランツは空っぽの刀の柄を差し出した。
「はい! 合点承知! よくわからないけど!」
オドラデクは身体をバサリと解体させて鋭い刀身に変化した。
「いいもの見ちゃいましたね。あなたの刀が空っぽだと言うことは、この隙に私があなたを攻撃したら、あなたは素手で守らなければならなくなる。それはいささか騎士道精神に欠けるから私はやりませんけどね」
カミーユは言った。
「余計なお世話だ。スワスティカに協力する奴は元々俺の敵だ。お前はここで俺が仕留める」
フランツは剣の切っ先をカミーユに向ける。
「やってみましょうか」
カミーユは距離をとってナイフを何本も飛ばしてきた。
フランツは必死にそれを躱した。
――なぜ、やつは距離を取る?
フランツは考えた。
答えは、すぐに浮かんだ。
それは恐らく、自分は男でカミーユは女だからだ。
たとえ処刑人として訓練を受けていようと男女の体格には大きな違いがある。
鍛えられたフランツの身体なら接近すればカミーユを押さえ込めるかも知れない。
勝てないことはないのだ。
フランツはナイフを避けながら間合いを詰める。
「これで終わりだ!」
カミーユの肩を強く掴み、剣で首を刎ねようとした瞬間。
物凄い強度のある壁に剣先がぶつかりわずかに砕けた。
オドラデクなのですぐ修復されたが。
――これはまずい。
瞬間的に気付いて、フランツは退いた。
巨大な掌がカミーユと自分の間に立ちふさがっていたのだ。
いや、それは掌と言えるのだろうか、中指と人差し指と薬指だけで残りの指は抉れている。
そしてその真ん中には巨大な眼球が赤々と輝いていた。
「助かったよ。三本指のジャック」




