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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十五話 決闘(5)

「メアリーはお前を実家に連れ戻すことを目的としている。そして、俺はメアリーと互恵関係を結んでいる。お前がメアリーと敵対する以上、俺はお前と戦って捕縛しなければならないことになる」


 フランツは言った。


「よかったね、メアリー。友達が増えたじゃない。昔は私やハイジとしか遊ばないぐらいだったのに」


 ハイジとは処刑人アーデルハイト・アイヒンガーのことだ。フランツはまだ会ってはいなかったがメアリーの話のなかで幼友達として紹介されていた。


――何だかんだいって女は友達が多いな。俺なんか幼い頃は独りぼっちだった。


 もちろん、少し大きくなってから知り合ったニコラスやパウリスカはいる。


 しかし、それは処刑人として学んだ同窓生のようなもので、友人と呼んでいいのかも知れないが種類が違う。


――また余計な事を考えてしまった。 


「友達ではない。だが旅をしている以上一定の信頼は置いている」


 フランツは答えた。


 これを聞いて普段のメアリーなら軽口を叩くだろうが、今はカミーユをひたすらに見詰めていた。


「どっちにしても私は戻らないよ? 戦う? いくらでも相手してあげるよ」


 ヴェサリウスが急激に降下し、カミーユは蹌踉よろけもせずに地面に立った。


「カミーユ」


 メアリーはナイフを抜いて近付いた。


「あれ? 前よりも弱くなってる? まだ傷が治ってないのかな? それなら手加減してあげても良いよ。それでも倒せるし、捕まらないけどね」


 カミーユは朗らかな笑顔で言った。


 メアリーのナイフが宙を斬る。だが、それはフランツでもはっきりわかるぐらい震えていた。


 カミーユはとんとスキップしてかわしていた。


 パヴィッチでカミーユは交戦した結果、メアリーは負傷していた。


 薬草でかなりよくはなっただろうが、先日のグラフスとの攻防も身体に響いているかもしれない。


 それよりもなによりも、メアリーは精神的にカミーユに負けている。


 言葉数も少ない。


 喧嘩で重要なのは心だと、教官のイホツク・アレイヘムから教わった。


――まず、心で負けちまうと、全部負けだ。どれだけ身体を鍛えてようが、な。だから理性のたがを外して考えなしに棍棒を振り回せるやつのほうが時には強かったりする。


相手がズデンカやファキイルのように特異な存在であれば別だが、人間同士の決闘なら、そこがものを言う。


 そして、カミーユとメアリーは間違いなく人間だ。


 なら訓練されていて理性のたがを外せるカミーユは文字通り殺人の天才なのだ。


 メアリーは――そう、ルスティカーナ卿をたやすくてに掛けたメアリーでさえ、殺すときには躊躇することもあるというようなことを語っていた。


 たがを外せないのだ。


 メアリーは何度も何度もナイフを振るった。


「どしたの? どしたの? ぜんぜん届いてないよ?」


 カミーユはスキップ、ジャンプした。ふざけた角度で身体を曲げ、明らかに隙を作って見せながら、しかし、全てメアリーの必死之斬撃を避け仰せていた。


 前パヴィッチで見せたときよりなお一層軽やかな動きで。


「はあ……はあ……」


 メアリーは前屈みになり、額の汗を拭いた。


「それだけ? じゃあこちらからいかせて貰おうかな」

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