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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十五話 決闘(4)

「虐殺者かどうかは知りません。当時小さかったので。あなたもそう変わらないように見えますが……」


「俺は収容所にいた」


「あー、なるほど、そうなんですね」


 カミーユは関心なさそうだった。


 フランツはさらに腹が立った。


「ジムプリチウスは煽動した。俺の同胞を殺せと煽動した。一番罰されるべきやつなのに戦後まで堂々と生きながらえている!」


「でも、面白い人じゃないですか。話して見てそう思いました。声だけですけどね」


「面白いだと?」


 フランツは怒りを通り越して呆れた。


 いや、しかし冷静に考えてみればそうなのかもしれない。


 ジムプリチウスは多くの人間を笑わせ、共感させ、面白おかしく語りながらシエラフィータ族の虐殺を正当化し、煽り立てていったと記録されているからだ。


 相当な話術の持ち主であることは疑いないだろう。


「黙って聞いてたら、ずいぶん調子乗ったこと言っちゃってくれますねえ!」


 オドラデクが顔を真っ赤にして喚きだした。フランツの影響を受けたのだろうか。


 勢いよく車の外へ走り出る。


「フランツさんはねぇ、それはそれは大変な人生を送ってきたんですよ! お前みたいな甘ちゃんとは違うんです。凄い人なんですよ。それをよくもまあ馬鹿にしちゃってくれてねえ!」


――そんなことを思っていてくれたのか。


 フランツの過去をオドラデクは知ってはいたが、これまでとくに感想を漏らしたことはなかった。


「それは大変でしたね。でも私は正直あなたたちはつまらないと思う。スワスティカの残党を一人ずつ殺していくなんて、あーなんてつまらないのでしょう。私なら、理由を付けないで殺したいな。何の脈絡もなく、いきなり人の命を絶ちきりたい。だって本来死ってそういうものでしょう?」


 カミーユはナイフでヴェサリウスの肋骨をかつんかつんと叩いた。


「鬼畜め」


 フランツは吐き捨てた。


 メアリーによればカミーユ・ボレルは殺人の天才だという。


 より多く楽しく殺せる方を信じ、崇めるのは当然なのだろう。


「おっとその声はオドラデクやん!」


 ヴェサリウスの肋骨に張り付いていた小さな蛹のようなものがうっすらと目を開きそちらを見た。


「キモッ、何なんですかぁ!」


 オドラデクは退いた。


「俺や俺や。ついさっき再会したとこやろ?」


 蛹はぼとりと地面に落ち、ほつれて光輝く糸になり、人のかたちになった。


 グラフスだ。


「うわっ、もっとキモかった!」


 オドラデクは顔を背けた。


――こいつもいるのかよ。


「お前の態度がきしょいわ。なんで、こんなやつらとたびしてるんや。俺には気がしれんわ」


「うるさいですよ。ぼくは楽しいんです。グラフスさんみたいなボッチじゃとても理解できないでしょうけどねえ」


「誰がボッチやねん。お前こそ向こうの世界じゃあ浮いていたやろ? 俺知っとるで、遊びではいつも仲間はずれやったろ?」


「そっ、そんな昔のこと、忘れちゃいましたよっ!」


 オドラデクは突如として狼狽した。


――あいつ、ボッチだったのか。


 フランツは思わず笑ってしまいそうになったが、今は当然そんな暇はない。

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