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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十五話 決闘(2)

「何だこれは」


 フランツは拾い上げようとする。あくまで作りものであり手を汚すような印象はなかったからだ。


「止めた方がいいでしょう」


 メアリーが言った。


「なぜだ」


「なぜだか。これは触ってはいけないように思います」


「『鐘楼の悪魔』みたいだな」


「ああ、何か各地で悪さをしでかしているとかいう本ですか」


「知っていたか」


「私の情報網は広いので」


 メアリーはまた笑った。


「まさか、それと似ているのか?」


「さすがにそこまでは……でもシュルツさんが持つことで精神的にダメージを被る可能性はあるでしょう。もちろん、私もです」


「やめておこう」


 フランツは後退した。


 メアリーはどこからかライターを出した。


「焼き払っておきましょう」


「このあたりに町はないな」


「ええ。地図は頭に入れてますが、町も村も少なかったと思います」


「思いますではだめだ。絶対に少ないと言えるか?」


「仕方ないですね」


 メアリーはまた地図を取り出して開いた。


「持ってるのかよ。なら早く出せばよかったんだ」


 綺譚蒐集者アンソロジストルナ・ペルッツがまさにそうだったが、賢い人間は頭が良すぎるがゆえにサボりたがる傾向があるのだ。


「ほら、やはり私ちゃんは優秀です。ソックリそのまま記憶してました」


 メアリーは地図を開いてその場所を指差した。


「じゃあさっさと焼け。俺もなんか薄気味悪くなってきた」


 フランツは身震いした。


「はい」


 メアリーは草むらに火を付けた。みるみるうちにそれは燃え広がる。


「さっさと行きましょう」


 二人は小走りで車へと戻った。


 フランツはすぐに発進させる。


 あたりは炎で真っ赤に染まった。夏のこととて火の脚は早いのだ。


「これで良かったのか」


 フランツは聞いた。


「やった後で良かったのか悪かったのか聞くことほど愚かな行為はありませんよ」


 メアリーは言った。


 しばらく車を走らせた。


 炎はもう追ってこなくなった。


「止めてください」


 フランツは従った。


「なんでフランツさんバカ女の言うことばかり聞いちゃうんですかあ? やな感じい!」


 オドラデクは文句を言う。


「仕方ないだろ。メアリーは……」


 と言いかけたところでフランツはメアリーに背中を強く掴まれ伏せさせられた。


「何をするっ……」


 と言おうとした時、車窓を割って後部座席へ突き刺さっているナイフに気付いた。


 オドラデクは身体をばらけさせて回避させていた。


「うもう! せっかくの新車がめちゃめちゃじゃないですかあ!」


「カミーユのナイフです。シュルツ三の額を狙っていました」


「何でやつが? ルナと行動を共にしてるんじゃなかったのか?」


 フランツは訊いた。


「わかりません。とりあえず車外に出ましょう」


 メアリーとフランツは外へ飛び出した。


 ナイフの雨がつぎつぎ降ってくる。


「カミーユ、そこにいるんでしょ? 出てきたら?」


 メアリーは言った。


「せっかくの『告げ口心臓』を全部焼いちゃうなんて……いい趣味してるよね。メアリーは昔から」


 巨大な羊の骸骨と連結された肋骨が宙に浮かんでいる。玉座のようにそこに腰掛けてカミーユ・ボレルは言った。

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