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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十五話 決闘(1)

ヴィトカツイ王国北部――  


 やはり、金の力は偉大だ。


 スワスティカ猟人ハンターフランツ・シュルツはワイダ付近の町で車を買い、かっ飛ばして飛ばしてここまで走ってきた。


 これは、意外にも犬狼神ファキイルの提案だった。


「車を買えばいい」


 以前負傷していたファキイルに頼ることも出来ないため、フランツは気を使っていたのだが、突然の提案で驚いた。


 確かに金なら余裕があって、大枚を叩くことが出来た。よそ者は嫌うヴィトカツイの人々も金には素直に従った。


「どけちなフランツさんのわりには浪費ですね」


 後部座席に乗ったオドラデクがジト眼で話し掛けてきた。


「必要な時に金を使うのは浪費とはいわん」


 フランツは自分が正論と思える意見を述べた。


「うもぅ! でも、ぼくが必要なものを買いたいときには渋られましたよ!」


「お前の必要なものはすべて余計なものだからな」


「では、私ちゃんも欲しいものをおねだりしても構いませんか」


 処刑人メアリー・ストレイチーが言った。フランツの隣に座っている。


「なんでそうなる」


「そうですよ。バカ女が口を挟むんじゃないですよ。ぼくとフランツさんの貴重な会話に!」


 オドラデクはフランツの隣にメアリーが座ったこと自体を羨ましそうな顔で見ていた。


「じゃあ、お金を払いますよ。あなたの貴重な時間を奪ってしまったことに対して」


 メアリーはやけに洒落た財布を懐から取り出した。


「そんな汚れた金、誰が受け取るかぁ!」


オドラデクは手で振り払う真似をした。


「ってかお前、金ちゃんと持ってるじゃないですかぁ! ならフランツさんに拠出しなさいよ! さあさあ」


「汚れた金なんでしょう? いいんですか?」


「フランツさんの金になれば清らかな金なんです。さあさあ!」


「はいはい」


 メアリーは未練なくばっさり札束を引き抜いてフランツに渡した。


「いいのか?」


 フランツは戸惑った。


「もうこの際一蓮托生、ですから」


 メアリーは微笑んだ。屈託のない笑いだった。


 少し、幼さすら含んだ。


 フランツはとつぜん、鼓動が早くなるのを覚えた。


「……このまま一気に駆け抜けていくぜえ! ひゅんひゅん!」


 二人の様子を苦虫を噛みつぶすかのような表情で見ていたオドラデクは気分転換を図ったのか突如雄叫びを上げた。


「いや、俺が運転するのだが」


 フランツは安全運転を続けた。


 ファキイルはオドラデクのとなりにちょこなんと腰掛けて微動だにしない。


「シュルツさん」


 しばらく行き過ぎたところで、メアリーが声を上げた。


「どうした」


「向こうの――大分離れた草むらに奇妙な物が見えました」


「奇妙だと?」


「勘違いですよ! さっさと行きましょう。フランツ号、びゅーん、びゅーん!」


 オドラデクは苛立たしく言った。


「でも、あくまで勘ですが物凄く禍々しいものな気がしました」


「お前は霊感あるのか」


「いえぜんぜん。それでもわかるぐらい物凄いものです」


「何も感じませんよお! びゅーん、びゅーん!」


 オドラデクは叫んだ。


「ファキイル、お前ならわかるか」


「確かに妖気がする」


 フランツは車を止めた。


 オドラデクは頬をリスのように膨らませ、唇を双葉のように尖らせてそっぽを向いていた。


「来い、案内しろ」


 フランツは扉を開けて外へ歩き出した。メアリーも続く。


 すぐに見えてきた。濃い紫色をした心臓を象ったシンボルのようなものが無数に草むらの間にばらまかれていたのだ。

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