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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十四話 告げ口心臓(17)

「了解です。なるほど、あなたはある意味では公明正大なんですね」


『ある意味が余計だ。俺はもともと公明正大だ』


「そうなんかあ、確かにあんたはん演説うまいしな。俺はしゃべくるのは得意やけど、絶対相手の地雷踏み抜くタイプやからな」


 グラフスは相変わらず蛹のようになってヴェサリウスの肋骨にしがみついていた。


「ゲームの規則――そうですね。あなたはルナさんにゲームを挑みました。ゲームってのはつまり丁か半か……勝ち負けがあります。なら、あなたはルナさんに勝たなければならない」


 カミーユは訊いた。


『ルナ・ペルッツの破壊だ』


 即答だった。


「破壊ですか……それなら私の目的と違います。私はルナさんを自分のぬいぐるみにしたいんです。人格改造をして上げて、物言わなくてもいい、生きながら屍のようになってもいい。でも傍においておきたいんです。何も話し掛けてこない人間ほど、私にとって愛すべき存在はないのです……場合によってはあなたと敵対しなければならなくなるかも知れませんね」


 カミーユはジムプリチウスのような人間には隠し立ては無用と判断して、考えているところを全て話した。


『なら、俺の目的とするところと違いはない。俺はルナ・ペルッツの心を折り、負けたと言わせたい。それから後はどうなってもかまわない。そもそもお前は仲間ではないからな』


「ふーん、なるほど。じゃあとりあえずあなたとは私では目指すところは変わらないんですね」


 カミーユは珍しく声を出さずに考え込んだ。


 どちらにせよ、今後ジムプリチウスと敵対する可能性は考えられる。


 だが、戦わずにルナだけを頂けるとなればしめたものだ。


「好きなだけやらせて頂きます。あなたのお邪魔にならないように」


 カミーユは決心して言った。


「俺はカミーユはんにいていくわ。この世界はほんま不案内やしな。西の方なんかまだ行ったこともない」


グラフスはいろいろなものに変身出来る。この能力はカミーユにはないものだ。それゆえ、味方になってくれるのはとても頼もしい。


「改めて、よろしくお願いします」


 カミーユは坐りながらお辞儀をした。


 と、ここで強く臭い焼け焦げたような臭いがした。


 慣れた臭いだ。


 カミーユは咄嗟に口を塞ぐ。


 劫火が木々を焼き尽くし絶え間なく黒煙が上がり続けていた。


 誰かが火を放ったのだろう。さきほど告げ口心臓を置いた場所のあたりだ。


「放火はメアリーが得意としてたっけ」


 カミーユは自然と呟いた。


 焼き殺した経験は何度かあるが、あまりお気に入りの殺し方ではなかった。


「あの子は私とは違うから」


 ふと、友人の顔が浮かんだ。


 その瞳の奥に青白い炎が揺れている。


 まだ飽くまで仮定にしか過ぎなかったが……。


「察知されたんですかね。心臓自体は幾らでも分裂させられるので、問題何もなさそうですが……」


 メアリーだとしたら、心臓を手に取りもしなかったことは残念に感じられた。


 向こうから「友達」だと言ってくれた最初の相手だ。


 カミーユには友情がわからないとしても、最初の、そして数少ない「友達」で在ることに違いはない。


「まあ、ちかぢか会えるでしょう」


 カミーユは呟いた。

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