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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十話 女と人形(8)

「見せてあげてもいいですよ。あなたがこの綺譚おはなしを語り終えるなら」


 ルナは手帳を閉じて外套の内ポケットに入れた。


 手袋をした指先を組み合わせて、その上に顎を置く。


「語り終えるとは?」

 びっくりしてメリザンドはルナを見つめた。


「決着を付ける、ということですよ。あなたと、あなたの母親と、ロランの、ね」

「私には何もできません」 


 メリザンドは困惑していた。


「できないやつはずっとそのままだ、仕方ねえな」


 ズデンカは冷たく言った。


「ちょっと待って。ズデンカ。今までずっと閉じ込められてきた人がいきなり何か出来ると思うかい?」


 ルナはイタズラっぽく微笑んだ。


「どう言う意味だ」


 ズデンカは睨んだ。


「反抗したり、声をあげたりするのにも助走がいるってことさ。まだそうではない段階に留まってる人に対して自立しろ、できないならそのままでいろって言うことは残酷だろう」


「何問いかけてるんだよ、あたしは知らねえ」


 ズデンカはそっぽを向いた。


「ふふ。まあとりあえず、メリザンドさん一緒に下に降りましょう。あ、そうだ。その前に独りで寄りたいところがあるんで」


 ルナは立ち上がった。


「また便所かよ」


 ズデンカは嘲りと心配が入り混じった複雑な表情で言った。


「今度はそうじゃないさ」


 ルナはウインクした。

 


 三人が地下に再び降りた時、ロランは一人坐って紙巻き煙草を吹かしていた。


 他の客たちは官能的な画集などを開きクスクスと笑い合っていた。


 ズデンカは二人から離れ、闇の中へ姿を隠した。


「メリザンドから、面白いお話は訊けましたか?」


 ロランは訊いた。


「ええ、訊けそうです」


 ルナは笑った。


「おや、訊けそうとはどういうことです。既に二階でお話されたのではないですか? その言い方だと、これから先があるかのようだ」


 やはり、執事に監視させていたらしい。


「あるのですよ」


「なら、どんな風に終わるのですかな。いえ、私も物書きの端くれ、ぜひ伺ってみたく思いまして」 


「それは、メリザンドさんご自身が決めることですよね」


 ルナは横に立っているメリザンドを見た。


「えっ……」


 しばらくは戸惑っていたメリザンドだったが、やがて怖ず怖ずと、


「私……外の世界が見たい……」


 呟いた。


「ならん!」


 いきなり激昂してロランは叫んだ。


「お前が独りでやっていけると思うのか? 何も知らん女が。そんなこと出来る訳がなかろう?」


「異端の作家がずいぶん古風なことを仰られるのですね。メリザンドさんの人生はメリザンドさん自身がお望みのように決めさせてあげたらいいではありませんか」


 ルナはパイプを取り出して煙草を詰めた。


「ペルッツさま。変なことを吹き込まれては困ります。娘にはこの屋敷にいて貰わないとだめなのです」


「ここには他にも女性がたくさんいらっしゃるじゃありませんか。その方たちはどうなされました」


 ロランは眼を泳がせた。


「ルナ」


 ズデンカが部屋の向こうからやってきた。しかし、その顔は強張ったように硬くなっていた。


「こっちへこい」


 じゃらじゃらとたくさんの鎖の音がズデンカがやってきた方から響いてくる。


 部屋の奥の、誰も人がいない場所からだ。


 ルナはパイプを吹かしながらついていった。


「なるほど、人形とはよく言ったものですね」


 煙が大きく吐き出される。

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