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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十四話 告げ口心臓(8)

 たちまちナイフを何度も何度も閃かせて、こなごなに寸断した。


 地に落ちた破片は、たちまちまた同じ形をした『告げ口心臓』に変化した。


 五十個、いや、百個ぐらいはあるだろう。


 カミーユは一瞬の間に何度も何度も執拗に切り刻んだのだ。


「ええお手前やな」


 グラフスは腰に手を当てながら言った。


「ありがとうございます」


 カミーユはお辞儀をした。


「ぎょうさん心臓を作ってしもて、何に使うんや?」


 グラフスは疑問のようだった。


「色んな人に配るんですよ」


「こんなきっしょいもん、誰が受けとるんや?」


 グラフスは顔を顰めた。


「あせあせ。グラフスさんも持ってるでしょう?」


 カミーユは別に心動かされることはなかったが、口だけは慌ててみせた。


「まあな。おれはきっしょいもんすきやねん」


「この戦後の社会が、嫌で嫌でたまらない人たちはきっと受け取りますよ。私がそうでしたもん」


「戦後の社会かあ。おれはぜんぜん知らんねんけどなあ」


「あなたが手に取った理由はわかりませんけど、これもご縁です」


 そうは言いながらも、カミーユは疲労を感じていた。


 もちろん精神的な疲労だ。


 他の人間(今回は人間ではないようだが)の感情がまるでよくわからないのに、話を続けなければならないのは苦痛だ。


 だからカミーユは些細なことで殺してしまいたくなるし、実際に殺す。


 でも今回の相手は容易に殺せなさそうなので、ずっと付き合っていかなければならないのは疲れる。


 もちろん単独行動は危険だと合理的に判断した結果だったが、理屈で説明しても、感情はいていけないところがある。


 もう一つの――世渡りの上手い人格にバトンタッチしたくなる。


 だが、今の状況を目にしたら善良な心を持つ者はとても耐えられないだろう。


 ルナ・ペルッツらとも別れて独りで行く先すら、わからない人殺しの旅に出ようとしているなど。


「あんたと一緒に旅するのは俺としてもやぶさかでないが、どうやってそんなやつら見付けるんや」


「近くにいい人たちを知ってるんですよ。ゴジンスキ伯爵家とその領民の皆さん。ルナ・ペルッツとコジンスカヤ令嬢は汽車内で接触しました。ルナさんは有名人ですから、もうとっくにそのことは伝わっているはずです」


「それは興味深いな。だが、どうやって心臓を広げるんや?」


「私はヴィトカツイ語はあまり得意じゃないですからね。でも、貴族階級ならまだトゥールーズ語が通じるでしょう。だから、とりあえず接触してみます」


 疲れ果てていたはずなのに、また他人と関わる選択肢を選んでしまう。


 ルナ・ペルッツを手に入れるにはそれぐらいのことはやらなければならないのだ。


「貴族はおれらの世界でもいたな。あまりいい感じのする連中やなかったで」


「ええ。それは織り込み済みです」


 もし従わないならば、暴力を行使する。


 そっちのほうが簡単なのだ。


 逆にカミーユは楽しくなってき始めていた。


「あんたはんは頭良いなあ。俺は脳筋やから、なかなかそんな風に考えられん。だからこの前も負けたんやな。ほんまアホや」


 グラフスは自分の頭を小突くふりをしていた。

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