表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

932/1241

第八十四話 告げ口心臓(7)

 すぐにヴェサリウスを移動させた。


 下へ、下へ。


 青々とした木々が地表を蔽い尽くすなか、確かに一本高く靡く黒い旗がひるがえっていた。


「えーと、このへんで良いですかね?」


 カミーユは降下した。


 もちろん不意に攻撃を受けないよう、ヴェサリウスの肋骨を閉じながら。


  突然黒い旗がほどけた。


 細部の一つ一つまでキラキラと七色に輝く糸へ化し、それが人のかたちをまとい、髪にもなった。


 それでもやはりカミーユは顔を捉えきれなかった。整った顔立ちのようにも思われたが……。


「よろしくお願いします」


 着陸したヴェサリウスの肋骨を開かせて、外へ歩み出し、カミーユは手を差し出した。


 グラフスは握手してこようともしない。この世の人ではないように思われた。


「なんか前メアリーとか言う女と戦ったんやが、あんたの知り合いか? いや、なんか雰囲気似てる思うてな」


「はい、メアリーは幼なじみの友人です」


「へえ、やたら強くて苦戦したわ。斬られても斬られても歯向かってきよってな」


 メアリーが最悪死んだところで、カミーユは怒りはしない。ただ事実のみが興味深かった。


「あの子はそう言う子です。負けず嫌いなんですよ、誰よりも。そして一番私に負けたくない」


「お前、あいつより強いんか?」


 グラフスは関心を持ったようだった。


「強いですよ。あの子に苦戦するようじゃあ、私には多分勝てないですね」


「言いよるなあ。まあ、ええわ。あれだけ大負けしてしもて、独りじゃやはり不利やってことに気付いた。おれもまあ、やりたいことがあるんでな」


 何か秘密めかした様子だ。だが、カミーユはそれには正直興味なかった。


「ジムプリチウスさんは私たちに協力するつもりはないようですけど、私とグラフスさんは別です。どうします? これから行動を共にしますか?」


「まあ、おれの計画はゆっくり進めることにした。いていってもええわ。まだこちらの世界は正直不案内やからな。ヴィトカツイという地名ぐらいはわかるが」


「私もあまりこのあたりは旅していないんですが、西のほうはある程度は知ってますよ」


「お前は西にいくんかいな」


「ええ、ルナさん――ルナ・ペルッツを追って」


「そのルナ・ペルッツってのは何者なんや? さっきも言っとったが」


「考えていることを実体化出来る力を持った素晴らしい女性です」


 カミーユは言った。


「考えを実体化出来るんかいな! そりゃあ凄い! 俺のいた世界でもそこまで都合の良い力使える奴は見たことないわ……よし、決めた。あんたとしばらくは一緒にいさせて貰うわ。ジムプリチウスはんもよろしゅうな……」


 返事はなかった。


「それではご一緒しましょう……ところでジムプリチウスさん、ひとつ、質問があるのですが、それには答えて頂けるでしょうか?」


 カミーユが訊いた。


「なんだ」


 かなり経って返事があった。


「この『告げ口心臓』、どうやったら数を増やせるんですか? さっそくいろんな方にお裾分けをしてあげたいと思い始めてきたんです」


『切り刻めばそのぶんだけ分裂するぞ』


 答えが返ってくると同時に、カミーユは『告げ口心臓』を空に投げ上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ