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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十四話 告げ口心臓(6)

 策士を自称するだけあって、意外と賢いのだろう。


 そうカミーユは思った。


 ジムプリチウスもこの『告げ口心臓』を使ってルナを孤立させようなど、一度は考えてみたはずなのだ。


 なのに、同じ考えを話す者に対して、お前を信用しないが話は一応聞くという姿勢を見せている。


 こちらを試そうとしているのだ。


 重要なのは結論ではなく過程であり、カミーユの性格が見られているという訳だろう。


 人の先を二歩も三歩も読んで生きてきたように思われた。


 その『読み』が正しいかどうかはまた別の問題として。


「ルナ・ペルッツは精神的に脆い。だから少しずつ弱らせていこう。それが、貴方の考えている大まかな策だと思うんです」


『脆いかどうか俺は知らない。俺はスワスティカ時代はあいつとあまり関わってない』


「じゃあなぜ、全てを奪おうとおもったんですか?」


『……』


 ジムプリチウスは答えたくないようだった。


「ルナさんとズデンカさんを引き裂く。私がまず考えているのはそこです」


『ズデンカというやつを俺は詳しく知らないんだ。吸血鬼ヴルダラクというぐらいだ』


「弱きを助け強きを挫く、いって見ればヒーローみたいな人ですね。ズデンカさんは。今時珍しい。まあ、二百年も前の人ですからね。でも、ルナさんが好きだ。そこだけは独占欲があるようです」


『好きなら、まず簡単には引き裂けない』


ジムプリチウスは常識的な答えを返した。


「ズデンカさんのなかにも、矛盾があるんです。他を守りたいという感情と、ルナさんを独り締めにしていたい感情と二つの間で苦しんでいるようでした」


『本人が言うみたいに語るな』


「一緒に旅していれば、すぐわかりますよ」


 カミーユはもう一つの人格の残滓を手繰り寄せながら言った。本来は理解しがたい感情なのだ。


 だが、もう一つの人格がルナとズデンカのやりとりを見て頂いた感想を引き出すことぐらいは出来た。


『俺もズデンカは厄介だと思う。あいつは強い。何かあれば邪魔をしてくる。危険だ』


「でしょう。だから利用してあげるんです。ズデンカさんの矛盾を。ルナさんか、他の皆か、どちらかを選ばなければならない状況を作り出すんです」


『口では簡単だ。しかしお前はできるか?』


 ジムプリチウスは訊いた。


「すぐには難しいですね。他の皆さんの助けを借りれば」


『だから、俺はお前に何も貸さん。勝手にやれ』


「あせあせ。それは困りますね。グラフスさん、ご協力してくださりますか?」


『んー、まあ時間が合えばなあ』


「いま、どちらにいらっしゃるんですか?」


『ヴィトカツイ北部や』


「じゃあ近くです。今からお伺いしても宜しいですか?」


『実際会ってみんとわからんこともあるからな、ええわ。来な』


「何を目印にすれば良いですか? 私は空を飛んでいますが、くまなく探しているとすぐに日が暮れちゃうので」


『そうやな、黒く大きな旗に変身しておくわ。それを目印に来な』


 変身。


 どうやらグラフスは他のものに姿を変えられるらしい。


「それは興味深いですね」


 カミーユは微笑んだ。

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