表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

930/1238

第八十四話 告げ口心臓(5)

「素晴らしい心がけの御仁おひとですね。感心してしまいます! でも、とりあえず私はお名前でお呼びしたいかな?」


 カミーユは優しく言った。


『ふん。まあグラフスとでも呼びいや。他からはそう言われとるんでな』


 グラフスの少し高めの声は声は自慢げになっていた。


 これはチョロい、とカミーユは思った。もちろん感情すら自由にコントロールできる輩はいるが、このグラフスは本心から嬉しそうに思えた。


 まあ、もう少し話を引き出してみよう。 


「グラフスさん、なかなかいいお声ですね。どのような方かは存じ上げませんが、人生経験豊富そうですね!」


 少しもう一つの人格の真似をしてカミーユはグラフスを褒めあげた。


『おれは人間じゃないんや。まあ人の姿にもなれるけどな。だからおれを殺すことはまず不可能やな。この世の人間ではな』


 自慢が始まる。


「そうなんですね。私も人ならざる知り合いをちょっと知っていまして、奇遇だなあと思っちゃいました」


『くだらない駄弁りはいらん』


 ジムプリチウスが介入した。


『あんたは誰や』


 グラフスは機嫌を損ねたようだった。


『俺はジムプリチウスだ』


『知らんなあ。おれはついこの間この世界にやってきたとこやさかいにな』


『俺の名を知っている必要はない。俺はお前が役に立つ情報を持ってくるかで判断する』


 ジムプリチウスの声には怒気が漂っていた。


『急に上から目線やなあ。そう言われても俺はなんも知らんからなあ』


 このままでは、喧嘩になる。


 せっかくルナ・ペルッツの捕獲に使えそうな存在に出会えたのに、喧嘩別れしてしまっては損になるとカミーユは思った。


『これは知ってますかね? ルナ・ペルッツはビビッシェ・ベーハイムだった』


『それぐらいは基本だろ。俺を誰だと思ってんだ? 戦争中から知ってるぞ』


 つまらなそうにジムプリチウスが答えた。さすが旧スワスティカの宣伝大臣。


 正確にはハウザーのいた親衛部とは違うのだが、情報は入ってきていたようだ。


『でも、この情報は多くの人間は知りません。ここに、価値があるんじゃないですか?』


 カミーユは言った。


『何が言いたい?』


「ご想像はつくでしょう。上手く情報を拡散させさえすれば、あなたの仰ったようにルナさんから『全てを奪う』ことが出来るかも知れません」


『そんなことまで覚えてたか。しかし、お前はペルッツの身内だろうが』


「身内じゃないですよ。利害が合うから一緒にいただけです。今はその必要がなくなっただけです」


 これは厳密には嘘だった。カミーユはルナを興味深いと思っているのだ。


『臭いな。さっきまで仲間だったのに旧に裏切るやつは信じられない』


 ジムプリチウスの猜疑心は強いようだ。


「ですから、あなたと私は仲間じゃありません。そうだったでしょ? 私は私で勝手にやりますよ。必要だと思ったらお話させて頂くだけのことです」


 カミーユは言った。


「私はルナ・ペルッツの身近にいたから、その弱点も知ってます。あなたが何でルナさんの全てを奪いたいのか。それもお聞きしません。ただ必要であれば全てお伝えします」


『じゃあ言えよ、今すぐに。聞きはするが使うとはいわん』


 ジムプリチウスは奮然と答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ