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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十三話 常識(11)

「それはお前の知ったことではない。世界の良心に任せろ! スワスティカの連中がまた跋扈することなんて誰も望んじゃいない。止めるほうに動くさ。お前はいつも通り、話を集め続ければいい。きっと何とかなる」


 ズデンカも思わず饒舌になって話し掛けてしまう。


「世界の良心」など普段のズデンカなら消して使いたくもない言葉だ。だがルナに責任を被せたくないばかりに思わず使ってしまった。


「そこまで世界は正しいのかな」


 ルナはぽつりと言った。


「どう言う意味だ」


「悪を悪だと言えるのかな。悪を善だというのかも知れないし、善を悪だという人もいるかも知れない」


「お前、ハウザーの影響を受けてるぞ!」


 ズデンカはかつてランドルフィ王国の都市パピーニで、生前のハウザーと遭遇したときのことを思い出した。


 ハウザーは正義は本当に正義なのか、悪は本当に悪なのか、問い直そうとしているように見えた。


 だがその実態は正義は悪であり、それに対して悪は常に反逆になりうるという、まあ、言って見れば蹂躙の作法がその正体だった。


 ズデンカにとってみれば全く許容出来ない理屈だ。世間に人間も大半は理解できないだろう。そう信じていた。


 ハウザーは『鐘楼の悪魔』を使い凶暴化させた世界中の人と「対話」という名目のシエラフィータ族虐殺を実行しようとしていた。


 なんとか、それを食い止めることだけは出きた。


 でも、拡散した『鐘楼の悪魔』が消えることはない。


――なんでそうなるんだ。


ズデンカからすれば解せない。甚だしく解せない。


 根本問題はまだ解決していないような気がする。


 とくに、ジムプリチウス。


 やつはハウザーの残した負の遺産がある場所を知っている。


 ルナの不安は杞憂ではない。其れ丈にズデンカは力付けたかった。


何を思ったか、突如ルナは実験台の上に横たわった。


「止めろ。服が汚れる!」


 ズデンカは起こそうとした。


「綺麗に拭かれていたよ」


 ルナは答えた。


「こんな忌まわしい部屋にいるな。お前がおかしくなる」


「いや、不思議と気分は良くなった」


 ルナは微笑んでいた。


「良くなるわけがない。自傷だろうが!」


 ズデンカはとうとう思っていたことを言ってしまった。


「自傷だね。過去を思い出して、そのかさぶたを引っぺがす」


「なんでやるんだ」


「そうしないといけないからさ。わたしは罪人だ」


「罪人ではないと言っているだろ!」


 ズデンカは自分の怒鳴り声が刺々しくなっているのがわかった。


「ハウザーはここでわたしの身体に電流を流したんだ。痛かったよ。でも肌に傷がつくほどではなかった」


 ルナは話を変えた。


「やめろ!」


 ズデンカはルナの腕に縋った。


「血を抜かれたこともあったな。すぐ貧血になっちゃって、よくは覚えていないけど」


「お前の苦しむ様子は聞きたくない。だから、やめてくれ」


 ズデンカは思わず気弱になって小さな声で言った。


 涙すら混じっているのかと己を疑う。


ルナは黙った。


 そして、かなり経ってから言った。


「君を苦しめちゃったね。やっぱり私は罪人だ」

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