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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十三話 常識(5)

――服を探して着なければならない。


 ボクは山のように積み上げられた屍体たちが持っていた知識を、記憶を、全て身につけていた。


 だから、近くの街の場所すら明らかになった。


 脚力もついていた。


 裸のまま駈け続けたよ。少しも疲れなかった。


 疲れなんてもの、おとぎ話と同じぐらい現実味がなかったよ。


 初めて人を食ったときの味をよく覚えている。


 街に入り込んで、真っ先に眼が合った相手をぐちゃぐちゃに引き裂いてやった。


 どんなやつだったか、顔も、性別もすべて忘れた。


 ただ、口の中で血が溢れ返って甘くって甘くって仕方なかったことだけ覚えてる。


 ボクのなかにそいつの記憶も入ったはず何だけど、初めての生者の肉は掴み所がなく、消えていってしまっていた。


 そいつの服を奪ってきて、普通の人間になりおおせたわけだ。


 たぶん、この近くだったと思うよ。


 ポトツキ収容所はヴィトカツイの北部にあったから。


 地図が頭に入っているから案内できるよ。その街に。


 いらない?


 ふん、つまらないな。


 でもルナは行きたくないだろう。ポトツキのことを思い出すだろうから。それは何となくわかる。


 でも、もうボクには過去の記憶に悩まされているような時間はないよ。


 肉を食らう身体になってから、大概のことには同じなくなった。


 確かにパヴィッチで多くの肉を奪われたときはやばかったさ。でも、もう人間の身体ではないボクにとっては死すらも怖くはない。それは解放だ。


 この世界を滅ぼしたい。この命に代えても。


 ボクが生きている目的があるとしたら、それだけだよ。


 まあそんな試みをわかった上で付き従ってくれるやつ何て、バルトロメウスぐらいしかいないさ。


 ルナのことを忘れていたわけじゃない。


 でもさまざまの知識が情報が頭のなかに溢れすぎていて、そっちの方を整理するのが先だった。


  ボクは色々なところを巡って人を食って姿を変えていった。


 できるだけ生存者を残さないようにしていたから、ボクの存在を知る人も少なかったよ。


 今の姿に落ち着いたのは三年ぐらい前かな。


 ルナがどこに住んでいるか、何をしているのかもあらかた知ってはいた。


 でも、再会できたのはほんと偶然だったね。


 まあボクの話はこんな所で終わりかな。

 

「物語になってねえな。てめえの自分語りだ」


 ズデンカは文句を付けた。


「いいだろ。ルナはどんな話でも受け入れてくれるさ」


「ええ、うん、まあ」


 と言いながらルナはしばし記録を躊躇っていた。何行か走り書きで書いてはいたが。


「やはりな。お前の話はつまらねえんだ」


 ズデンカは嘲った。


「僕は面白かったけどな。あんたが、どんな来歴を経てそんな姿になったか訊いたこともなかったから」


 バルトロメウスが言った。


「そうかそうか。言ってくれるか。だからキミは嫌いになれないな」


 大蟻喰はにやけた。


「もしかして……キミがそんな身体になったのは私の能力ちからと関係あるかも知れない。ハウザーには何度も何度も実験された。きっと……何かの方法で能力を抽出されたんだ。山のように詰まれた屍体というのは別のとこで実験に使われた人たちだったのかも……だから……だから」


 ルナの顔はまた青くなっていた。

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