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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十三話 常識(2)

「まあ、そうだけど。直接持っていった方が味があるじゃない」


 ルナが調子を変え、ほんわかと言った。


「そんなもんかな」


 大蟻喰は首を傾げる。


「わたしもオルランドが懐かしくなっちゃってさ。もう一年ちょっと旅してることになるからね。仮の屋の様子でも見ていこうと」


「仮の屋」とはルナがオルランドはミュノーナに設けた邸宅のことだ。各地で蒐集したガラクタは全部こちらに送られている。


 税金など維持費は馬鹿にならなかったがズデンカがちゃんと管理していた。だがそれも一年になるのでまたいろいろな処理をするために戻る必要がある。


「ルナが戻りたいならそれで良いか。ボクは途中で別れるけどね」


「何だよ水臭いな」


 ズデンカはからかい気味に言った。


「用があるんだよ」


「人を食うんじゃないだろうな」


 ズデンカは睨んだ。


「だったらどうなんだよ?」


「お前とはまた戦うことになるだろうな」


 ルナの顔が曇った。何かを取り出してギュッと抱きしめている。


 ズデンカはそちらが気になった。


 茶色のエプロンを着けた熊のぬいぐるみだ。


 カミーユから貰ったものだ。


――まだカミーユのことを考えてるんだな。


 ズデンカはわずかに不愉快に思った。これは嫉妬なのだろう。


「気にすんなよ」


「なんだよ。ボクのことじゃないな?」


 大蟻喰も鈍感ではない。自分以外の相手をルナが心のなかに描いているのが愉快ではないのだろう。


 バルトロメウスは慈しむような表情を浮かべて黙ったままだった。


「あたしらにとってはずっと旅してきた相手だ。そりゃ寂しくもなるだろうよ」


 ズデンカは我がことにして語った。嘘ではなかったし、ルナの苦しみを和らげられると思って。


「いけ好かないやつだったけどね。妙に取り繕っちゃって」


 大蟻喰は顔を歪めながら言った。


「いいやつだった。少なくとも最近までは、な」


 ルナの顔が曇る。


 またギュッとぬいぐるみを抱きしめていた。


 まるで子供のようだ。


 だが、ズデンカは愛おしくなった。


「ルナ、さっさと行くぞ」


 ズデンカはルナの背を押した。


「……うん」


 ルナは歩き出す。


 もう少しでヴィトカツイは抜ける。ネルダに入って車を探せば良い。


「それにしても、ステラは案外常識人なんだね」


 ズデンカが思ったことと同じことをルナも言った。


「まあね、そりゃボクだって昔は別に今みたいじゃなかったから……ぶつぶつ」


 大蟻喰は恥ずかしそうにした。


――チョロい。


 ズデンカは笑いを堪えた。

「じゃあそろそろ君の綺譚おはなし㋾訊かせてよ。何でそんな身体になったか、そこをズバリ」


「えっ!」


 大蟻喰は少しどぎまぎしていた。


「君から訊けたらわたしの疲れも少しはましになるかも知れない」


 ルナはぬいぐるみを背嚢に収めると、歩きながら懐より手帳を取り出した。鴉の羽ペンも同時に手に持っていた。


「じゃっ、じゃあ話すか。気持ちが良い話じゃないよ?」


「気持ちが良くない話はわたしの大好物さ。さあさあ、ぜひぜひ」


さすがはルナだ。人を煽てるのは上手い。大蟻喰はにんまりして、喋りはじめた。

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