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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十二話 三つの願い(8)

 ズデンカはまだパスロが『鐘楼の悪魔』を飲み込んだことを皆に告げていなかった。


 大蟻喰も飛び出すのが精一杯で気付かなかったようだ。


――いや、やつは以前『鐘楼の悪魔』の気配に気付いているはずだ。


 それでも気付けなかったということはカミーユは既に『鐘楼の悪魔』を隠し持っているのか?


 ハウザーは死んでいるので、もうそれ自体では何ら悪さはしでかさないはずだ。だからカミーユが持っていても不思議ではない。


「申し訳ないけど、カミーユを旅には連れていけない。君が人を殺すとわかった以上……」


 ルナはちゃんと眼を合わせようとせずに言った。憔悴しているようだった。


「なんでですか? ルナさんもズデンカさんも人は殺してきているでしょう」


 カミーユの笑顔はまだ曇らない。


 否定出来ない事実だった。


「それに私、パヴィッチで人を殺してますよ。ヘクトル・パニッツァさん。銃で額を撃ち抜いて……まあ正確に言えば……とにかくなんでパニッツァさんはよくて、クシュシュトフさんやレギナさんはダメなんですか? 命に何か違いでもあるんですか?」


 ルナは言葉に詰まっていた。唇が青ざめている。


――結局、あたしらは人殺しだ。


「でも、それは仕方なくだ。君がやってるのは、意味のない殺しだ」


「あっははははははははははは! ズデンカさんも同じこと言ってましたよ! ほんと似たもの同士ですね!」


 ズデンカはもうその冗談に笑えなかった。


 ルナはまた黙ってしまった。


――反論が思い付かないに違いない。


「お前はこれからも殺し続けるだろう。そんなやつと一緒には行けない!」


 ズデンカは代わりに応じた。


「ですから、ルナさんもズデンカさんも殺し続けるでしょう。思いのほか、あなたたちは嫌われているかもしれません」


 カミーユは意味深なことを呟いた。


「あたしは絶対にお前とは行きたくないからな」


 ズデンカは子供のように突っぱねた。


「そうですか。ならいいです。他のところをあたることにしましょう。パスロ、行くよ!」


 ヴェサリウスごと、カミーユは後ろを向いた。


ズデンカは後ろからカミーユを突き殺す事を考えた。


――こいつの命は一つだけだ……だが。


 それは今までカミーユと旅をしてきた思い出を殺すことでもある。


 ズデンカにはとても出来なかった。


「待って……もし君が」


 そこまで言いかけたルナの口をズデンカは塞いだ。窒息してしまわないように、出来る限り優しく。


 ルナはもし君が人を殺さないのなら、一緒に来てもいいと言おうとしたのだ。


 きっと、ルナも自分と同じ寂しさを感じたのだろう。


 だからこそ、ズデンカはそれを押さえた。


 長い旅路だった。今まで色んなことがあった。


 カミーユとはよく一緒に笑い合った。


 無二の友人であるようにすら思えてきていた。


 だが、処刑人としての人格――それはカミーユの持って生まれた宿命としてみれば本来の人格なのかもしれなかったが――を前にしては道を違えるしかなかった。


――それ以外の選択肢があるっていうのかよ!


 怒鳴り声を上げたい気持ちを必死に必死にズデンカは抑え付けた。

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