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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十二話 三つの願い(3)

 周りを見回しもせず、カミーユは車室を出て歩き始めた。


「ちょっと待て、どこ行くんだ?」


 ズデンカは聞こえないようちゃんとドアをしてから追い掛けた。


「言いましたよ?」


 カミーユはくるりと振り向いてまた笑った。


「何かしようとしているだろ」


「ええ。誰かからお話をうかがって、三つの願いを叶えにいくんです」


「何で三つなんだよ!」


 ズデンカは思わず怒鳴っていた。


――こいつ、ルナの話を訊いてたのか?


 ルナは願いは一つが良い、と言ったのだ。それをカミーユは全て無視して、三つ叶えると言い始めたのだ。


 その無神経さにズデンカは制御出来ない怒りを感じた。


「怖いですよ。ズデンカさん」


 だが、カミーユは恐がっている様子がなかった。


 そして歩き出す。


 食堂車の方に。


 ズデンカはしばし立ち尽くした。我ながら怒りを抑えられなかったことが恥ずかしくなった。


――あたしはどうしたんだ。


 ルナに対する無理解に、異常なほど憤怒の感情を抱いていた。今までここまで起こったことはなかった。


 それも、仲間の、仲間であるべきカミーユに対してだ。


 ズデンカは走り出した。


――カミーユは食堂車でまた人の話を聞くつもりだ。そうなったら……。


 またドアを開けて中に入ると、そこにはたくさんの人が詰め寄せていた。


――ちょうど夕飯時か。


 さまざまな臭いが充満しているのだろうが、わずかにまじる血のもの以外、ズデンカには嗅ぎわけづらかった。


 カミーユはすぐ見つかった。食堂車の端っこにある窓辺の席で、一人の冴えない禿げた男と向き合っている。


「ありがとうございます! お話をしてくださるんですね」


 カミーユはまたトランプを繰りはじめていた。


「はっ、はい、そうです! とっておきの話が、あっ、ありますよ!」


 男は顔を赤らめ、どもりながら言った。


 女慣れをしていない男が、いきなり美少女から話し掛けられて、手玉に取られているとでもいった風だ。


「じゃあ話してください」


 カミーユは急かした。


「何やってるんだ」


 ズデンカはカミーユの横に立った。


「あ、ズデンカさん。私はお話をこの方から訊こうとしていたところです」


 カミーユは見たらわかる説明をした。


「いや、あたしは戻れと言ってるんだ」


 ズデンカは小声になった。


――空気を読めないやつには具体的にいうしかない。


「せっかく訊けそうなのに……で、どんなお話なんですか」


「そっ、それは、えっと、私が、子供の時のことで……近くの家に、その……えっと、えっと」


 男は何度もつっかえつっかえ話す。


ズデンカはまたイライラしてきた。


「さあ、いくぜ!」


 カミーユの首を掴んで立ち上がる。


「あー、つまらないなあ。じゃあこれでいっか! 出て来ていいよ、パスロ!」


 カミーユは面倒くさそうに言って、トランプのカードを一枚とり、テーブルの上へと投げつけた。


 ズデンカが止める暇もない。


 とたんにそれはとぐろを巻く蛇に姿を変え、男の首筋を這い上がった。


「ひ、っひいいい!」


 取り乱す男の喉首に蛇は噛みついた。


「さあ、願いを三つ言って。すぐに、いますぐに!」


 カミーユは笑い声混じりで叫んだ。

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