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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十一話 火星植物園(8)

「殺せるか? この俺が、殺せると思ったのか?」


 フランツは思わず声を荒げた。


「思えませんね。前も似たようなことを言った気がします」


 メアリーは呆れたように肩を竦めた。


「だから、本人を説得して捕まえる。そうすればあの吸血鬼ヴルダラクのメイドも何も言わないだろう」


「言わないでしょうか? あのメイドはルナ・ペルッツを愛しています」


 メアリーはいきなり表情を消して言った。


「愛しているとは、どういう意味だ?」


「難しいですね。私には理解しがたい勧請なので。恋人になりたい、という意味で愛していると私は解釈しました」


「まさか」


 フランツは驚いた。メアリーはそんなことまで読みとったのか。接触出来た僅かばかりの時間に。


「見ればわかりますよ。シュルツさんがどうかしてるんです」


 メアリーはまた笑った。


「ルナは気付いているのか?」


 フランツはズデンカに強い嫉妬を感じた。殺したいとすら思った。


 だが、あくまでそれはルナのそばにいるからという理由だった。


 まさか吸血鬼のほうもルナを思っていたとは。


 記憶では「ただのメイド」だと言っていたはずなのに。


「さあ、そこまではわかりません。でも、あのヴルダラクはルナ・ペルッツを必死に守ろうとしていました。そこになんの感情もない訳がない、と私ちゃんは推測しました。シュルツさんもルナ・ペルッツが好きで、ズデンカもルナ・ペルッツが好き……ほんとうにミス・ペルッツはモテモテですね」


 本当にズデンカがルナを好きかはわからない。


 だが、そうだとしたらルナもズデンカが好きなのだろうと思えてくる。


 もう自分には入る余地がないのではないか。


「人の感情がよくわかるんだな」


「わかるがゆえに苦労しますよ。カミーユはそういうことがないので、身体のほうが先に動きます」


 メアリーの笑みに苦い色が差した。


「俺はもう……どうすればいいのかわからない」


 フランツは正直に吐露した。


「追いましょう。まずはそれしかないのです。ミス・ペルッツはどこかで止まるはず。今回は引き返す旅ですからね」


「そうだ……オルランドにはかならず立ち寄るはずだ」


「じゃあ急がなくてもゆっくりでも歩みを泊めなければ、必ずまた逢うことになるでしょうね」


メアリーは言った。


「ああ」


 フランツは項垂れた。


「フランツさぁん、やったあ、お花貰っちゃいましたよぉ! しかも二つも!」


 髪の毛に花を刺したオドラデクが子供のように無邪気に駈け寄ってきた。


「金は払ったのか」


 フランツは不機嫌になって訊いた。


「ただですよ。もちろんここの秘密の口止め料として、ですけどねえ!」


「火星の花か。確かに不気味な色だな」


 曰く言い難い色だった。熱帯地方にあるものによく似ている気もするが、切られてもまだ花びらが蠢いているのはあまりにもおかしかった。


「ぼくにとったら可愛いんですよ! 文句ありますかあ?」


 オドラデクはフランツをじろりと睨んだ。


「いや、ないが……勝手にしろ」


 花が飛びついてきやしないかと心配ではあったらその場合は引き千切ってやればいいと考え直した。


ファキイルは後ろのほうからゆっくり、ゆっくり歩いてきていた。

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