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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十一話 火星植物園(7)

「これは……ええと……」


 脂汗を流しながら、パクパクと口を動かす。


 見ると、どの木もどの草も、覆いをされた上に植わっていることがわかる。


「養分でしょう? 火星の植物を温室に入れたからと言って、そのまますくすく育ってくれるとは限りませんからね」


 メアリーは微笑みを絶やさず言った。


「殺したんだな?」


 フランツはユリウシュを睨んだ。


「いえ、それは……」


「早く言え。そんな狂人は野放しにしておけない。ここで死んで貰うぞ」


 フランツは剣の柄に手を掛けた。


 もちろんこれはただの脅しだった。


 以前フランツはスワスティカ『火葬人』マンチーノの育てた小人たちを殺したことがある。連中の場合は同胞殺しに関与していたからという名目はあったが、若い世代の小人たちはそうではなかった。


 ユリウシュもとりあえず、スワスティカの関係者だ。


 人を殺しているのかもしれないが、同胞かどうかはわからない。たぶん全てを確かめることは不可能だろう。


 そもそも、現状刀身は空なのだ。


「はい……植物園に来た人々のなかで説くに身寄りない人がいた場合……眠らせて……」


 フランツは腹が立った。しかし、同時に自分もまた人殺しなのだとわかってもいた。


「へええええええ、それはなかなか凄いですねえ! 人を殺すまでして研究を続けたかったとは」


「研究してみてわかったんです。人の遺体が火星の植物にとっては最大の肥料となる。他のものではすぐ枯れてしまうんです。身寄りのない人の遺体を盗んであてていたんですが、すぐに尽きてしまう……それで……つい」


「素晴らしいですよ! そこまで研究熱心な人、そんなにいないですもん! 火星まで言って植物を採ってくることが出来ない以上、あなたは第一人者じゃないですか! そんな偉人に危害を加えるつもりなんて、フランツさんないですよ、ね?」


 オドラデクは必死な形相でフランツを見やった。


 だが本当に必死なのか、それとも小馬鹿にして楽しんでいるのかはわからない。


「俺はスワスティカ猟人ハンターだ。殺すのはスワスティカに協力して同胞を殺したやつらだ。お前はそういうことをしていないだろうな?」


「もちろん! スワスティカにいた頃、私はただ研究を続けていただけです! ルナ・ペルッツが生やした草を見てから、この世に存在しない植物に興味を持ち始めたのは嘘ではありません」


 ユリウシュは両手を合わせ、懇願するように願った。眼には涙が浮かんでいた。


「殺しはしない」


 フランツは後ろを向き、歩き出した。


 もう、用はなかった。ユリウシュはやはり殺しを続けるだろう。


 だが、フランツとは関係がない。


「あの方、じきに己の身体すら肥料にするかもしれませんね」


 メアリーが横を歩いていた。


「だからどうした。金を払った甲斐はあったさ」


「ルナ・ペルッツを助けられるとわかってほっとしてるんですね」


「はあ?」


 フランツは頬にいきなり血が上るのがわかった。


「今までは殺すつもりだったんでしょう。でもその力に底知れない部分がアルノに気付いて躊躇った」


 メアリーは優秀だ。


 その説明は簡潔にして要を得ていた。

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