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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十一話 火星植物園(6)

メアリーはフランツの心のうちを全て見抜いていた。


「ルナを、なんとしても捕まえないといけない」


 フランツは言った。


「殺すのではなく、ですか?」


 メアリーは眼をさらに細めた。


「……俺は殺せない。だから捕まえる」


 フランツは言った。


 前、対峙してわかった。自分にはとても殺せない。


 メアリーにすら無理だった。本人も言う通り、ルナに同行するカミーユ・ボレルには勝てないのだ。


 だから、なんとか説得して捕まえ、法廷にひきずり出そう、そういう風に考えが変わりつつあったのだ。


「まあ、勝手にすればいいのでは。私ちゃんはカミーユを連れ戻すのが目的なので、あれこれいう資格はありません」


 メアリーは黙った。


「しっかし、十年も昔の話でしょ。ずいぶん物持ちがいいですねえ!」


 オドラデクは素直に感心しているようだった。


「はい、ここから、この世界には存在しない類いの植物を集めるようになったのですから、手放したりしませんよ」


 ユリウシュは目を輝かしながら大事そうに標本帳を閉じた。


「凄い頑張りですよねぇ! ぼくならめんどくさくなって集めるのなんてすぐやめちゃうなあ」


 オドラデクは珍しく素直に感心しているようだった。


「すぐ、枯れてしまいますが、花ぐらいなら切って差し上げてもいいですよ。もちろん、お金はいりません」


オドラデクの様子を見て喜文を良くしたのかユリウシュは言った。


「なんと! それはありがたいです!」


 オドラデクは小躍りした。


――そこまでして欲しいのかよ。


 フランツは呆れた。


「それでは上がりましょうか」


 ユリウシュは歩き出した。手には花鋏を持っている。


 もう用はなかったのでフランツも続いた。


「結局ここには何もなかったですね。時間の無駄でした」


 メアリーは正直に言った。


「すまんかったな。俺だけヒントを見付けて。さあ旅を続けよう」


「でもまあ、お花を見て回れるので良しとしましょう」


 メアリーは小声で言った。フランツは聞こえないふりをした。


――こいつも年相応に花は好きなのか。


 フランツはそう考えると可笑しかった。


 ユリウシュは植物園の南側へ進んでいった。


「暑いですねえ」


 オドラデクはパタパタと服をはたいていた。


 フランツもめまいがするほどの熱気を感じている。


「血のように赤い色ですね」


 そう言ってメアリーが指差した先にはハイビスカスのような花が咲いていた。


 今ユリウシュが近付いて切ろうとしていた。


 花の根方には覆いが被せられていた。


 フランツはなぜか嫌な予感がした。


 ユリウシュが花に手を掛けた隙をうかがって、メアリーは跫音を立てない動きで覆いを引き剥がしていた。


「やっぱり」


 メアリーは何か悟ったように頷いていた。


 花の根っこの下には人の形をした褐色色の塊が微動だにせず。


「だから私ちゃんは花を見たかったのです。シュルツさん。この植物園からは強い死臭が香っていましたので。馥郁ふくいくと」


 メアリーは言った。


――まるで、気付かなかった。


 フランツは驚いていた。


「さて、理由を教えて頂きましょうか。ミスター・ユリウシュ?」


 ユリウシュは鋏を持ったまま青い顔で立ち尽くしていた。

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