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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十一話 火星植物園(5)

 ユリウシュは階段を降りていった。どこで採光しているのかとても明るかった。


 フランツたちも後へ続く。


 降りきると、そこは鉄の机が置かれた研究室だった。


 いろいろな植物の標本が並べられている。


「ここにあるのは火星の植物です」


「火星の植物?」


 フランツはよく意味がわからなかった。


「お前は火星になど言ったことはあるのか」


「いえ、そう言う訳ではないのです。ここだけの話ですが……ワイダの近くにある山には火星の光が届く場所がある。そこにだけ火星の植物が生い茂るのです。でも、季候が不純なのですぐに枯れてしまう。だから私はその苗を持っていき、この温室のなかで――博物館で育てています」


 だが、フランツはこれっぽっちも興味を持てなかった。


 確かに奇妙な植物ではあるが、だからどうしたと言うのだろう。


 ルナなら持って帰ろうとでもするのかもしれないが、フランツはまるでそんな気は起こらなかった。


「へえええええええ! 凄いですねえ! 」


 変わりにと言ってはなんだが、オドラデクが物凄い反応で興味を示し始めた。


「ぼくに一株わけてくださいよ! お金は払いますよ」


 とフランツの方をちらちら見ながら言った。


「残念ですが、外だとすぐに枯れてしまいます。ここでしか育たないのです」


 ユリウシュは静かだがきっぱりと断った。


「ええええええええ、そんなあ!」


 オドラデクはあからさまに悔しがっている。


「それより、ルナの作り出した植物を見せてくれ」


 フランツは話を進めた。知りたいのはそこであって他はどうでもいい。


 このユリウシュという男がスワスティカとどれほど関わったのか、それははっきりとはわからないが、会話のなかで明らかになる所もあるかも知れない。


――もし少しでも怪しいと気付いたら殺してやる。


「はい、お見せ致します」


 ユリウシュは自らの安楽椅子に坐ると、本立てにあった標本帳を一つ取り出してめくった。


「いわば私の研究の原点ですから、ちゃんと保存していますよ」


 青々とした色の草が一枚、そこに封じ込められてあった。


――あきらかに異常だ。


 フランツもすぐに気付いた。少なくとも十年近く経っているのだから、茶色く変色しているのが普通だ。


 なのに、この草はまだ青い。


「ルナの力だ」


 フランツは思わず叫んでいた。


「永遠に朽ちることのない草を咲かせる力……ですか、これは興味深い」


 メアリーも近付いて来た。


「悪用されかねませんね」


「ああ、おそらくカスパー・ハウザーはルナの力を使って『鐘楼の悪魔』を生み出した」


 フランツは己の推測を述べた。


 推測ではあったが、かなり正しいと思えた。ハウザーが特殊な力を使ってさまざまな悪事をしでかしたことは明白だった。


 それはルナの幻想を実体化させる力を借りたものではなかったか?


「断言はできませんね。でもルナ・ペルッツをカスパー・ハウザーは管理下に置いていたのですから、そう考えるのは合理的でしょう」


 メアリーは肯定した。


「永続的に物を作り出せるなど、凄いことだぞ。この世界だって滅ぼせる」


「それをルナ・ペルッツは潔しとしなかったのでしょう。だから力をセーブしている。あなたはそう考えているのでしょう?」

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