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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十一話 火星植物園(3)

「ふまあ、見て行きますよ! 見ていけばいいんでしょ!」


 オドラデクは鼻息荒く、植物園の奥へと進む。


 フランツが見たこともない植物がたくさんあった。


 縁がギザギザとしている、桃色の葉。


 何か粘液のようなものがついていた。


 あまり、近寄りたくはない。


 他の植物も異様な代物だった。甘ったるいようなえたような、変な臭いもする。


 オドラデクは平気で指先でつんつんしている。


――なるほど火星を称するのも不思議ではない。


 フランツは素早く一巡して外に出られるようにしたいと思った。


「誰だ、あれは!」


 オドラデクが奇声をあげた。


「静かにしろ」


 自分たち以外に来訪者はいないようだったが、それでも、森閑とした空気を乱すのは良くないと考えたからだ。


 オドラデクが早足でフランツに走り寄ってとりすがった。


「フランツさんぼくこわいっ!」


「何があった?」


「変な人が植物園の真ん中にいたんですよ!」


「俺に見て来いってのか?」


 フランツはついぞんざいな口調になって答えた。


「そうですよ!」


 オドラデクは本心では別に怖くないのだ。戦いの時はとても冷酷に振る舞うのを見たことがある。


――これは俺を試す行為なんだな。


 そう考えるととても腹が立ったが、自分が動かねばことは進むまいと思ってフランツは歩き出した。


 鳥の鳴き声のようなものも聞こえる。だが、どこにいるのかさっぱりわからない。


 樹上高くにバナナのような無数の房が実っている。だが、その色は紫色で、食べたくもないような色だった。


 よく観察しているとそこに小さな口のような孔が開いていて、鳥の声に合わせてパクパクと動いている。


――音を出す果実か。確かに奇妙だ。


 そう思いながらフランツは博物館の中央部へと辿り着いた。


 黒い顎髭を生やした背の高いメガネを掛けた男がいた。


「初めまして」


 男はフランツと同じ言葉で喋りかけてきた。


「なぜ、俺の国がわかった」


 フランツは警戒した。


「元気のいい声が響いてましたからね。私は少しばかり耳がいいのです……お連れの方も見えていましたしね」


「お前は何者だ?」



「ユリウシュと申します。戦争前は少しばかりスワスティカの方に出向いていましたのでね……」


「お前はスワスティカの犬か?」


 フランツは身構えた。


「いえ、飽くまでスワスティカの元で研究をしていただけです……ただ植物を研究しておりました」


 フランツの殺意を感じ取るように眼を細めながら、ユリウシュは言った。


「植物?」


「奇妙な植物を見たんですよ。全く何もないところからその植物は生えたという。ポトツキ収容所で起こった奇妙な出来事……ある少女がガス室で独り生き残ったという事件」


――ルナ・ペルッツだ!


「それを知っているということは、お前は俺の同胞を殺したやつらを知っているということだな」


 思わずフランツは自分の語調が鋭くなるのを抑えられなかった。


「カスパー・ハウザーとは話したことがあります。植物の話も直接ハウザーから聞きました。ほうぼう調べて回りましたが、どの事典にも記載がなかった。少女はどのような術を使って、この植物を生やしたのか……」

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