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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十話 白い病(10)

 死が近いのです。 


 そんなことは僕が言うまでもなく、わかりきったことでした。


「どうして、どうして」


 シェルアさんは泣き叫んでいました。僕はもう、慰めることすら出来ませんでした。


 下手な言葉をかけたらよりシェルアさんを悲しませるってわかりきっていましたから。


「せっかく生きる目標が見つかったのに」


 今までシェルアさんは長いこと生ける屍のように暮らしていました。


 でも、創作を続けることで、なんとか生きる目標を見つけ出した、その矢先の出来事でした。


 なぜか、人生にはこういうことがあるようです。


 タイミングが悪く、自分の望む方向とは別の答えが出てしまう。


 そんな例はたくさん見てきました。たぶんズデンカさんも多くご存じだと思います。


 白い病がなぜ、シェルアさんを襲ったのかはわかりません。もともと眼に見えないかたちで静かに進んでいたのかも知れません。


「せっかく楽しくなってきたのに」


 シェルアさんはすでに白髪が交じり、顔には皺が出ていました。幾ら誰と関わらなくても、年月だけは残酷に過ぎていくのです。


「……何も僕には出来ません。長く生きているのに、申し訳ないです」


 ファキイルさんなら何か出来るでしょうか? おそらくは無理だと思います。


 この病はシェルアさんが亡くなった後は、もうこの世からは消えてしまったのです。


 治し方は今もわかっていません。


 近い距離で伝染する例はあったようですが、シェルアさんがオアシスに来てからは不思議と全て収まったようです。


 シェルアさん一人を孤独のなかに閉じこめるためだけにあった病、と言えるかも知れません。


 シェルアさんは静かに静かに大理石に変わっていきました。最後のほうはまばたきもせず、僕を静かに見詰めるばかりでした。


 最後まで椰子の皮を手に取っていて、それが一緒に大理石に変わっていきました。


 僕はシェルアさんのもとを去りました。作品群は残しておきたかったのですが、僕も旅をするものなので知人に何とかしてくれるように頼んで安全な場所に移してくれるよう似頼みました。


 でも、その後にいろいろあったもので……。


  どこにいったか今ではわかりません。もちろん、大理石に変わったシェルアさんもどこで埋もれているのか。


 不義理だと思うでしょうね。


 それは仕方がない。


 僕のお話はこれで終わりです。

  



「ブラヴォ! ブラヴォ! ひさびさに良い綺譚おはなしが書き留められました! メルキオールさん、ありがとうございます!」


 ルナは一息にズサッと羽ペンを走らせると、筆記を止めた。


――ルナは幻想をインクに話を書くという、なら、この話にもまた幻想があったのか。あたしにゃあ全くわからんな。


 メルキオールの不義理の話にしかズデンカは思えなかった。確かに悲しい内容ではある。


――もうちょっとやりようがなかったのかよ。これだから男は。


 と考えてメルキオールがオスだったことに思い至った。


――まあどっちでもいいか。


 会ったこともないシェルアの死を悲しく感じる気持ちはズデンカにもあった。


 だから、その意味ではこの物語はルナの言う通り『良い』ものなのかもしれない。

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