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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十話 白い病(8)

 どうして旅をしていたのかの理由は、先ほどもお伝えしましたよね。


 砂漠にてファキイルを見かけたという情報を掴んだ僕は、当時はいささか自信もあったガタイを駆使して、すぐさま彼方から駆けつけたのです。


 でも、ファキイルは見当たりませんでした。


 その代わりにシェルアさんを発見したというわけです。


 僕は手持ちの食品を幾つかシェルアさんにあげました。


 またも生き延びてしまったシェルアさんは公開しているようでした。


 気になった僕は詳しく問い質すことにしたのです。


「どうしてあなたはこのようなところにいらっしゃるんですか?」


 当時の僕の声は今よりも深く響いたものです。ふふふふふふふ、バリトンボイスってやつですね。


「私は白い病を生まれた街に流行らせました。それなのにファキイルさまは私を助けてくださいました。望むままに他の町にも連れていってくださいました」


 よく考えるとファキイルのやったことは変です。


 シェルアさんは病の発生源です。有無を言わさず隔離すべきなのです。それをいろいろな街に連れて行き、流行病を呼び込んだのですからね。


 でもそれは人間の発想であって神の考えるところではないでしょう。


 お前はどうか、ですか?


 僕はかなり人間よりですね。


 ファキイルからすれば、ただ施しを求める者に施しを与えただけであり、それ以上の意味はなかったに違いありません。 


「たいへん興味深いですね。ファキイルは『邪な心を持つ者以外は』と言ったそうですね。あなたは病を撒き散らしたかもしれいけれど、それは結果論の話で悪意などはなかった。だからファキイルはあなたの望むがままに従ったのではないでしょうか」


 僕は推論を話しました。


「そんな……」


 シェルアさんは驚いたような、ショックを受けたような、よくわからない表情をしていました。


「悲しまれることはないと思います。僕は多少は長く生きておりまして、神と呼ばれる存在と会ったこともある。彼ら彼女らはとても人間とは違う考え方をします。それはそれは長く生きているから仕方ないとも言える。死の概念がないから、とも言える」


「死がない、ですか……」


「全ての生き物は死にます。僕もいささか命は長いかもしれないけれど、いつかは消えるでしょう。吸血鬼だって同じだ」


 あ、これは言わなかったかもしれません。今ズデンカさんが眼の前にいるので、サービスと受け取って貰えれば!


「でも神は死ぬことがない。ファキイルさんもかたちは変わり続けるかもしれませんが、今後の世界を見続けるでしょう。ですから、あまり気にしない方がいいですよ。あなたとは寿命が違うのですから」


「でも、ファキイルさまに頼ることは出来ません!」


 シェルアさんが言いました。


「なら僕が何とかしてあげますよ。あなたが死ぬまで、せいぜい数十年ぐらいだったらこんな砂漠で暮らすぐらいなんでもありません」


「……」


 シェルアさんは黙りました。正直僕が嫌だったのでしょう。それも致し方ありません。僕はオスですし、いささか図体がでかい。


 また、話して面白い相手でもないでしょうからね。

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