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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十話 女と人形(3)

 薄暗い。ルナはライターを、ロランは蝋燭を灯しながら進んだ。ズデンカもルナへの配慮から来る習慣でカンテラを灯すことはあるが、暗闇には慣れているので、なくてもそのまま歩ける。


 意外と段数があった。転げ落ちたりしないよう一段一段確かめながら闇の奥へ進んでいく。


 鎖が地面を引きずる音、あえぎ声のような声が聞こえて来た。


 細い扉から光が見えている。


 三人はそこを通り抜けた。


 想像以上に広いホールだった。大理石で作られた古典風な座席に幾人もの先客が座り、中央にある舞台を凝視していた。


 そこには鎖に繋がれた女がいた。年齢はルナより十歳は若いだろう。


 半裸に近い格好をしている。化粧をして、卑猥な衣装を着崩し、胸を見せていた。


 書見台がその前に置かれていて、新しく刷られたと思われる一冊の本が載っていた。


「あれが私の新作でしてね」


 女には目もくれず、ロランは言った。


「ははあ、仰っていた地下出版ですね」

「意外に読まれているのですよ。もう何千部も刷っておりまして」


「どんな内容か気になりますね」

「いま朗読しているでしょう」


 ルナは耳を傾けた。

 

 

「陳孝子は三青の××へ×を差し入れた。


 それだけで女は甘い××を×らし、身体を××らせ始めた。


 ××が糸を引き、×り×ちる。


 陳は三青を押し倒した。


『ずっと、ものにしたかった!』


 耳元で囁くと、三青は×え、××まった叫びを上げるのだった。


 陳は三青の××を眺めやった。薄桃色で×も一切×えていないそこは、すっかり××きっていた。


「本当に××な女なのだな、お前は」


「はい、わたくしは心よりあなたさまと×××ことを願っておりましたのです」


 陳は物も言わず三青の上へ××かかった。その××は××して、×××××が×き×ていた。


 まるで鍵を差すようにすんなりと××は三青の××へと×まった」



「ポルノグラフィですね。しかも少しばかり中華趣味シノワズリな」


 ルナは嫌そうな顔で言った。


「表では流通出来ない異端の文学なのですよ」


 満足げにロランは笑った。


「まあ、確かに皆さん感動していらっしゃいますね」


 ルナは呆れながらホールを見回した。


 席に坐るのは男ばかりだった。皆興奮したように鼻息荒く、手をどこぞへと突っ込みながら見つめていた。


「そりゃそうでしょう。日頃より勝手気ままに振る舞う身の回りの女どもへ鬱憤を溜め込んでいる私たち男は、せめて創作の中でだけ女を人形にして弄んでやろうとするんですよ。まあ、この話には人品骨格卑しからん陳が女で堕落していく、という筋もあるのですけどな」


「なるほど、勝手気ままに思われているとは。これからわたしも態度を改めねばなりません」


 そう言って、ルナは優雅に一揖した。


「ルナさまがそうだと言っている訳ではありませんよ。概してのお話です」


 ロランは微笑んだ。


「読んでいらっしゃる女性はどなたですか?」


「死んだ後妻の連れ子でしてね。名前はメリザンドです。ああ言う格好で読ませれば少しは華になるでしょう?」


「ご本人は望まれているので?」


 ルナは訊いた。


「もちろん心から望んでおりますよ。まだ幼い頃からずっとああやって私のポルノグラフィを読ませているのですから」


「ぜひ、お話を聞きたいな」


 ルナはモノクルを光らせた。体調が少し良くなったのかとズデンカは思った。


「読み終わった後で呼びましょう」


「では、お願いします。わたしはちょっとお手洗いへ」


 ルナはそう言って一人で階段へと向かった。


 ズデンカはそれを心配そうに見つめ、付いていこうとしたがロランに呼び止められた。


「おい、君、この小説を読め」


 と言って薄っぺらい冊子を手渡された。


 また別の本らしい。


「ここの地下書庫にはね。世界各地から集めたポルノグラフィが大量に眠ってるんだよ。まあ私の自慢のコレクションと言ったやつさ」


 ズデンカは何も言わずに受け取りページを開いた。

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