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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十話 白い病(7)

「私は独りで死のうと思います。誰にも会わず、ひっそりと」


「飢えて苦しむぞ」


 ファキイルは感情を見せない瞳を向けたそうです。


「構いません。自分が他の人を害する存在だと分かった以上、この世に留まっている理由はありません」


「そんなことをいうな」


 犬狼神は短く言いました。


「でも、じゃあ、どうすればいいのですか? 私はもう人の間では暮らせません」


「なら、砂漠の真んなかで暮らすが良い。我は良いところを知っている。食べ物なら我が持っていく」


「そのような場所があるのですか! ならば、ぜひ連れていってくださいまし」


 シェルアさんは願いました。


「ならば裾を掴め」


 シェルアさんはファキイルの言う通りにしたのです。


 また空を飛びました。今度は何週間も果てしなく飛び続けました。たまに降りて小川で水を汲み、喉を潤した他は、ずっと雲の間を泳いでいたのです。


「ここだ」


 目をつむり、もう半ば死んだような気分になっていたシェルアさんはその言葉に驚きました。


 芝生が生い茂り、椰子の葉っぱの間から、太陽が控えめに照り付けてきます。


 その間に池があり、綺麗な水が満々と湛えられていました。


 でも遠くを見回せば全ては砂、砂、砂だらけ。見渡す限りの砂漠だったのです。


 言ってみれば、そこはオアシスだったのです。


シェルアさんは芝生に寝転びました。


「ここなら一生いても大丈夫ですね」


「また口笛で呼んでくれ」


 ファキイルはそう言いおいて、飛び立ちました。


 シェルアさんは悪いとは思いましたが、お腹は空きます。椰子の実の数も限られていますから、翌日にはもう呼ぶことになりました。


 ファキイルは毎度毎度どっさりといろんな食べ物を持ってきてくれたそうです。


 シェルアさんはそれをゆっくり消化していきました。ファキイルにお願いするのがだんだん心苦しくなってきたからです。


 でも、結局なくなる日は来ます。


 またファキイルを呼ぶしかありませんでした。


「ファキイルさまは、なぜ私なんかにここまで尽くしてくださるのですか」


 ある時シェルアはファキイルさんに訊きました。


「お前が頼むからだ」


「頼む人には誰でも同じことをしているのですか?」


「我と会って話をした者には。邪な心を持つ者以外は」


 何という心の広さでしょう。神と言われる存在の崇高さを思い知ったシェルアさんは、打ち震えました。


――もう、このお方には何も頼めない。口笛を吹くのは、止めにしよう。


 シェルアさんは決心しました。


 もともと自分は邪な心を持っているのかも知れない。


 だから、白い病を引き起こしたのだ。多くの人を殺したのだ。


 そう考えたのです。


 シェルアさんはどんどんやせ細っていきました。


 でも、口笛を鳴らさなかったのです。


――もう二度と、あんな高貴な方に頼りたくはない。


 芝生の上に横たわり、ぼんやりと空を眺めます。


 そのまま飢え死にしてしまってもおかしくない状態でした。


 でも、シェルアさんは運が良かった。


 何を隠そう。この僕がやってきたのですからね。

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