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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十話 白い病(5)

「わかった。我の服の裾を握れ」


 シェルアさんはファキイルに言われた通りにしました。


 ふわり。


 握った途端にシェルアさんは宙に浮き上がりました。


 煉瓦で作られた窓枠に脚があたりそうになります。


「大丈夫か」


 ファキイルがその時配慮してくれたことも、シェルアさんの心にはしっかり残っているようでした。


「はい」


 窓枠を越えて、広い空を飛びました。


 シェルアさんにとっては生まれて始めてのことです。


 恐怖よりも、感動が胸を支配したと語っていましたね。とても楽しそうに。もう何千年も前のことですけど、いまだに目に浮かびますよ。


 今まで住んでいた街がまるで小函こばこのように遠く上から眺められます。今でこそ飛行機も発明されてますし、ズデンカさんも空を飛んだことはあると思います。でもm当時の人間からすれば自分が神の領域に近付いたのだと崇高な念を抱いたことでしょう。


 さすがに僕は見てきたものが多すぎたので空を飛んだぐらいの話じゃ驚きませんでしたが。


「すごい、ファキイルさまはこのようなことをいつもされているのですね……めまいがします」


 シェルアさんは頭を押さえたそうです。


「苦しいなら降りるぞ」


「いえ、続けてくださいまし。下に降りたら、白い病に感染してしまいます」


 実際、道のあちこちには全身が大理石に変わった人々が横たわったり、立ったまま地に直立していたりしました。


――あんな風にはなりたくない。


 シェルアさんは心からそう思ったらしいです。


「どこまでいけばいい」


「人の入るところまでです。たぶん、もうこの街には人は暮らしていません。逃げたか、全員死んでしまったか……」


 シェルアさんは震えながら言いました。


「わかった」


 ファキイルさんの短い返事は、大変心強いものでした。


 実際ものの三十分も経たずして、二人はまた賑やかな街へ辿り着きました。シェルアさんがいた街の隣の隣ぐらいにあるところでした。


 ここにはまだ、白い病が来ていなかったのです。


 人気のない場所を選んで二人は降りたちます。


「ファキイルさま、ありがとうございます。ありがとうとございます。これで命が助かりました」


 シェルアさんは何度も何度もファキイルを伏し拝みました。


「それでは、我は行くぞ」


「はい……でもまた命の危機が訪れるかも知れません。その時はまた口笛を吹いて呼んでも構いませんか」


「問題ない」


 ファキイルはそう言ったが早いか、空の彼方へと飛んでいきました。


 シェルアさんは家族とは再会が叶わなかったもののの、逃げてきた自分の街の人々と合流して細々と生活を続けました。


 しかし。


 一ヶ月も経たないうちにまた、白い病がこの街を襲ったのです。


 シェルアさんの周りの人々もまた一人一人倒れて白く変わっていきました。


 もう以前のように閉じこもる家もありません。シェルアさんは怯えて逃げ惑いながらながらまた口笛を吹きました。


すると、またファキイルさんがどこからともなく飛んでやってきたのです。


「どうした?」


「また病気が流行りました。近い街に逃げても病は追ってきます。今度はどこか遠く離れた場所に連れていってくれませんか?」

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